7.依頼前の一幕
挨拶が終わったあの後は、ここでの生活の仕方について教えてもらった。
飯は、基本自炊。自分で作れということだ。買ってもいいが、自分で稼いだ金で買って食えというとこらしい。
それは、元々そうしていたからなんの苦にもならねぇなと思い、気にしなかった。
夜は自分の分だけ作って食った。けど、他の人の視線が痛かった。何故だろうか?
朝は朝日と共に目が覚める体になっている。
目覚めると布団から起き上がる。
ヒンヤリとした空気が体を震わせる。
今はまだ朝晩は冷える季節だ。
だが、このヒンヤリ加減が好きだったりする。
布団を畳むと押し入れへとしまい、厨房へ行く。どうせだから、みんな分作ってしまおうか。
そんなことが頭をよぎり、実行することにした。
魔冷庫は食材を冷やしておける魔道具なんだが、その中に食材がパンパンに入っていたのだ。使っていいって言っていたから、使うか。
魔コンロに魔力を流して火をつける。油をサッと火にかけ、鳥の卵を六つ割って入れ、肉の腸詰は切って一緒に鉄鍋に放り込む。
ジュウと小気味のいい音がなり、鉄鍋を振りながら満遍なく焼いていく。
水を入れて蓋をし、蒸し焼きにする。こんなくらいしかできねぇけど。まぁ、ねぇよりはマシだろう。
平皿を出して火を止め、盛り付けていく。朝の定番のようなオカズだけど、まぁいいだろう。文句があるなら、食わなきゃいい。
「おいっ。いい匂いさせてんじゃん!」
ハクアが起きてきて顔を出した。起こすつもりはなかったのだが、続々と匂いにつられて厨房へと顔を見せる。
「ハクアさん、良かったら食べます?」
「いいのか?」
「勝手に作っちゃったんで。飯は自分で盛ってくださいよ? 俺が昨日炊いたのあるんで」
冷や飯になっちまうけど、いいだろう。昨日は朝炊くのが面倒だからと多めに炊いたんだ。何日かに分けて食おうと思っていたけど、こりゃなくなるかな?
「ねぇぇ? アタイにもちょうだいなっ?」
「ベニ姐さんのもありますよ。どうぞ」
「わぁ! ありがとうねぇ」
寝間着をどうやったらあんなになるんだろうというくらいはだけさせているが、見ないように飯を渡した。
「おい! あいつらの分もあるんだから、俺様の分もあんだろうなぁ?」
気だるそうに姿を見せたコクロウは当然のようにオカズを貰いに来たようだ。
「ありますよ」
次々と流れ作業のように渡していく。
次は無言で顔を見せたアセイ。
既に戦闘服に着替えている。
流石だ。
「アセイさんは、これっす」
「かたじけない」
ありがとうって意味かな?
アセイさんの言葉はどっか地方の言葉だった気がする。俺にはまだ理解できない。
最後に来るのは分かっているけど、アイツのプライドが許さねぇだろうなぁ。くっくっくっ。おちょくってやろうか。
「あれ? もう一人分あんだけど、いらないなら仕方ない。二人分──」
「いるわよ!」
膨れっ面の緑髪が顔を出した。これまたはだけた格好だが、ベニ姐さん程の刺激はない。
「それが、貰う人の態度なのか?」
「……ぐぬぬ。ください……」
「仕方ねぇなぁ。はい」
「……覚えてなさいよ!」
どこかの悪者みたいな声を上げて居間へと去って行った。程々にしないと、後ろから刺されかねねぇな。
居間へ行くとそれぞれがテーブルへ座りおかずと飯を見つめていた。
なんだ?
「おっ。ゴウキも来たし。いただきます!」
コクロウは手を合わせてそう口にした。いただきますってのはなんなんだ?
俺の居たところではそんな挨拶したことがない。食べる前にする儀式なのか?
「「「いただきまーす」」」
皆一様に続いて手を合わせると、口へと運んでいった。ガツガツ食べているコクロウとハクア。ベニ、アセイ、ニイナはゆっくりと噛み締めている。
これは性格が出るんだろうなぁ。そう思いながら、俺も手を合わせて「いただきます」と口にしてから飯を頬張る。
何に祈っているのかはわからねぇが。みんなやってるからいいことなんだろう。まぁ、どうでもいいけどさぁ。
他人と飯を食うのはなんて、いつぶりだろう?
なんかこの人数で食べるご飯ってのもいいな。
いつもの違う光景だし。
大勢で食べた方が飯ってのは美味く感じるよな。
「ごちそうさまでした」
飯を食うとまた謎の挨拶をして、食べた人から茶碗を自分で片付けている。片付けまでは俺がしなくても良さそうだ。
「ゴウキ、食したら準備して出立だ」
アセイからそう言われて頷き、いそいそと茶碗を片付けて準備をする。準備といっても、俺はまだちゃんと革鎧のような装備を持っていない。
それを買う資金もないわけだけど。
部屋へ戻って動きやすい服装になって庭で待っていると、アセイが不思議そうな顔で見ている。ニイナは俺を睨みつけていて、何が間違っているのかわからない状態だ。
「お主……防具はないのか?」
「はい。ありません」
「武器は?」
「拳?」
これには噴き出したアセイ。どうやら、俺が何かおかしいらしい。
「ゴウキ、さすがに無謀だ。ニイナが怒るのも無理はない」
ニイナに睨まれてはいるけど、気にしない。意味が分からないからだ。
方向をギルドから防具屋へと方向転換して店へと入る。
その中は、革鎧、アーマープレート。独特の甲冑という物も置いてある。
甲冑はカッコいいけど、重そうだ。革鎧がいいかもなぁ。軽くて動きやすそうだ。多少は怪我をしても大丈夫だろう。
「その顔は、思った顔だ」
「思った顔?」
「怪我してもまぁ、問題ねぇしとか思った?」
思ってしまったが、なぜわかったのだろう。
「あー。すみません。思いました。その上でどうにかなるとも思いました」
「魔物と闘い、人と闘うのは、ズル賢いのを相手にする。細心の注意が必要だ」
それはわかっているけど、動き辛いのは俺の良さを消す気がする。
「最悪の場合、一つのケガから、死ぬ」
そういう場合もあるか、毒とかうけたらひとたまりもないかもしれない。
「ここは、某がだしてやる。好きなのを買え」
そう言ってくれたので、お言葉に甘えて買うことにする。どう考えても革鎧がいい。でも、怪我のことを考えるとアームガードとフットガードも付ける。なんだかガチガチの防御でカッコ悪いな。
「なんか、カッコ悪いっすね」
「ローブを羽織るのが一般的だぞ」
「えー。それなら、この黄色いローブを」
「うん。いい。似合っている。では、出立しよう」
会計を済ませてくれたアセイ。
後ろ姿が頼もしい。その後をついて行くのだが。
俺の前へと入ろうとしてもがいているニイナ。
俺とどうしても、張り合いたいようだ。
スッと引くと、それはそれで面白くなさそうな顔をする。
目の前にあったのは、広大な土地へと聳え立つ三階建ての建物、木造だが、造りは頑強にできているみたいだった。
入口は重厚な扉となっていて、開けるのを少しためらう。
横からニイナがやってきて扉へ魔力を流した。
自動で開くドア。
喧騒と、汗の香りが鼻を突いた。
カウンターには何人かの受付嬢が入っていて、冒険者を捌いている。
なんか活気があっていいな。
どの依頼を受けるかは、俺は決められない。
どんな依頼を受けるのか楽しみだ。
さて、いよいよ。依頼を受けるぞぉ。




