6.冒険者になった理由
「ようこそってことで、今日からここへ泊まれ」
言っている意味が一瞬わからなかった。ここへ泊まる?
「えっ? 泊まるんっすか?」
「あぁ? 宿とってたのか?」
「いや、とってないっすけど……」
とってはないけど、いきなりここへ泊まるってのはどうなんだ?
みんなここへ泊まっているんだろうか?
共同生活は、正直自信がない。
寮でもあんまりうまくいってなかったしなぁ。
「とってねぇんだろう? じゃあ、一部屋やるから、住んでいいぞ。みんなそんな感じだからよぉ」
「一部屋もらっていいんすか?」
「おう。あたりめーよ」
一部屋貰えるのか。それなら、あまり気を使わなくていいかもしれねぇな。
「ハクア。部屋へ案内してやれ」
白髪の男が立とうとしたら、赤髪の女がそれを制止する。
「アタイが、案内してやるよぉ。可愛い後輩をさぁ」
妖艶な笑みでこちらを誘惑してくる赤髪の女。
俺は、別に気にしてねぇと思ってたんだが。
「ベニはダメだっての。ほらなぁ。ゴウキも顔を赤くしちまってるじゃねぇか。お前はなぁ、若いものには刺激が強すぎんだよ」
「ちぇぇっ。なにさっ」
拗ねたように口を尖らせて引っ込んだベニ。
俺は気にしてないと思っていたのに、顔が赤くなっていたんだな。
そのことにちょっとショックだった。
ハクアと呼ばれた男は笑いながら立ち上がると、手招きされた。
「行くぞ。ベニはな、コクロウに相手されたくて、ああやって他の男にちょっかいだしたりすんだよ。まぁ、気にすんな。こっちだ」
なんだか、複雑な関係なんだなぁ。
おれぁ、あんまりそういうのは気にしねぇけど。
っていいながら、やたらウインクしてくるベニに視線がもっていかれているけど。
部屋へは入口の部屋から訓練所とは別の通路を歩いて行くと、襖が沢山あってどれが誰の部屋かわからねぇ。
「ゴウキだっけ? 体つきといい、魔法の使い方といい、なかなか見どころあるな? 触って感電させるのは新しいと思うが学院でならったのか?」
「いや、学院では怒りに任せて殴った時に感電させたんすよ。それで、戦い方のヒントをもらったっつうか……」
「ほぉぉ。たまたまか。そんで、学院は?」
「自分で出てきました」
笑いながら頷いているハクア。
何がおかしいのだろう。
しきりに「そっかそっか」と言っているが。
「コクロウが気にかけるわけだ」
「なんでっすか?」
「コクロウはなぁ……いや、本人から聞いた方がいいか。アイツも自分で辞めたんだよ。おっ。この部屋だ」
襖を開けるとテーブルと座椅子が一つあるだけの部屋だった。
「どの部屋か覚えるのが最初はわからないかもしれないがな、ゴウキの部屋は、鳥の書いてある襖の部屋だ。他には鳥が書いてあるものはないから」
「わかりました。ありがとうございます」
「部屋へ荷物を置いたら、さっきいた居間へ戻って来い」
「うっす」
要件を言い終えるとハクアは戻って行った。
部屋の中の襖と扉を開けてみると、押し入れとクローゼットのようになっているスペースだった。クローゼットへ服を押し込むと、扉を閉める。
荷物はそこまで多くない。俺は、強くなるために学院へやってきた。遊びに来るためではない。だから、服も最低限でよかったし、下着だって最低限でよかった。
荷解きは、あっという間に終わったので、居間へと戻ることにした。
部屋を出ると、居間へ向かう途中の部屋の襖が開いた。少し服を着崩したニイナが出て来た。こちらを見て怪訝な顔をしている。
「あー。……体、大丈夫っすか?」
「……ふんっ!」
顔を背けられて無視され、居間へと向かっていくニイナ。
俺は、完全に嫌われたことだろう。
どうするのが最善だったのかはいまだにわからない。
あの時、やられていれば俺は仲間になれなかっただろう。
かといって、手加減して寸止めとかしてもどうだったんだ?
本気でやったんだから、悪くはないよな?
そんな自問自答を繰り返しながら、居間へと向かう。
先に行ったニイナはアセイの隣へ。
その隣にベニ、ハクア、コクロウと順番に座っている。
居間へ入った俺へと視線が集中する。
「ようこそ、ローグへ。俺達の仲間になったからには、一つの曲げない信念を持って冒険者として活動してもらう」
コクロウがそう宣言する。
他の面々も真剣な顔でこちらを見つめている。
目を鋭くしたコクロウが俺へと質問を投げかけた。
「ゴウキの信念、聞かせてもらおうか?」
信念か。俺にも冒険者を目指した理由となる信念がある。
「この命、弱者を救うために懸ける。その信念で俺は地元から出て来た」
「くっくっくっ。いいねぇ。命を懸けて弱者を救うってことだな? なぜだ? なぜ弱者を救う?」
コクロウは口角を上げると面白そうに俺へとまた質問を口にした。
「俺は、属性がハズレだからと、弱い物扱いされてきた。そして、実際……魔法の戦いとなると弱かった。手も足も出なかった。弱者だった。そんな時、助けてくれた人がいたんだ」
「ほぉ。そんなもの好きがいたのか?」
「はい。街の魔法大会で初戦負けして泣いていた俺に、黒いローブを被って黒い杖を持った魔法使いが言ったんですよ。『ボウズ、人ってのはぁ。諦めたらそこで終わりなんだぞ?』って」
コクロウはピクリと眉を上げ、ハクアとベニはなぜかコクロウへと視線を巡らせていた。それが何を意味するのかは俺にはわからない。
「なるほどな。それで、ゴウキは諦めなかったわけだ」
「そうです。だから、そこから身体を鍛え始めました。諦めるわけにはいかないと。俺は、その声を掛けてくれた人みたいに、弱者へ寄り添う人になりたいんっす」
ハクアとベニはニヤニヤとして、何やら言いたそうだが、何も言わなかった。気にはなるけど、まぁ、別にいいか。
「そうかぁ。単純だな?」
「俺は、その言葉に救われたっす。それは、間違いないんで」
「よしっ。わかった。その信念、忘れんなよ? お前は今日からローグ所属のFランク冒険者だ。明日からは、さっそく冒険者ギルド組合へ行って依頼を受けてもらう。ニイナとアセイと一緒にな」
「はい!」
コクロウに指名されたアセイは「御意」と言っていたが、ニイナは無言だった。
こりゃあ、先が思いやられるわ。




