2.実戦を知らしめる
倒れているエルビン・マッカーサの取り巻きたちがたかって喚いている。
やれ、野蛮だ。
やれ、殴るなんて反則だ。
やれ、魔法で戦わないと模擬戦の意味がない。
笑わせる。
「はっ! 実戦を想定してねぇ模擬戦なんて、意味ねぇだろ」
鼻で笑ってやった。
取り巻きたちは顔を真っ赤にして怒り狂っている。しまいには、反則だとか、たまたまだとか言って再戦しようとしている。
別にいいけど、さっきので俺は自分の戦い方がわかった。もう負けねぇよ?
「ほぉぉ。雷属性しか使えないゴウキくんは、実戦では殴られるのは当たり前だというんだな?」
そう口を開いたのは、さっきまで静かに見ていた先生だ。明らかに俺を敵視しているように見える。頬は引き攣り、顔を赤くして握りこぶしを震わせている。
「えっ? 逆に実戦で殴られないとかあるんですかぁ? 剣で切られないってのと一緒ですよ?」
ちょっとイラッとしたので、煽ってみる。さて、どう出てくるのかな? この先生は?
「ほほぉぉ。クックックッ。では、私が貴方に教えてあげましょう。近付くことさえできないような魔法使いがいるということを! さぁ! 闘技場へ上がりたまえ!」
うわぁ。今度は自ら俺を痛めつけようとしてるよー。流石に大規模魔法とか使われたら、ひとたまりもないよ?
めんどくせぇ奴だなぁ。
どうしてくれようか。
真っ向からは絶対に勝てないなぁ。
かといって、逃げるのも嫌だしなぁ。なんの属性で来るかだよなぁ。それによる。
無言で考えながら闘技場へ立つと、こちらを見て嘲笑っている。
「どうしました? さすがに怖気付きましたか?」
「あー。いや、どうやって倒そうか考えてましたー」
とりあえず、どうにかして近付けばいけると思うんだよね。
雷属性の魔法は何種類か会得してる。ただ、防御系はほぼ無いんだよね。金属に特化して防御できる魔法はあるんだけど……。
なんか考えるの面倒くさくなってきたかもー。
「誰か、開始の合図を!」
生徒へと指示をすると、その生徒は手を挙げてニヤリと笑い、口を開いた。
「それでは、ヒュードル先生と落ちこぼれの試合、開始!」
おい、生徒。
挨拶ぐらいは名前で言えよ。
あっ、まだ覚えられてないのかな?
まぁ、仕方ないかぁ。
まだ入学して三日しかたってないもんねぇ。
俺も君の名前覚えてないしなぁ。
「さぁ、喰らいなさい! 火よ風よ我に力を! 力のままに荒れ狂うがいい! 合成魔法……ファイヤーストーム!」
小さな火種から勢いよく渦を巻いた炎は、高々と昇っていき、闘技場を埋め尽くすほどの大きさに成長しようとしていた。
「はぁぁ。炎かぁ。やだなぁ……。せっかくこの服お気に入りだったのに……」
誰にも聞こえない呟きをしてから、身体に再び雷を宿す。今のところ、これが俺の中で一番早く動ける魔法だから。
開発中の魔法もあるけど、そっちはちょっと制御できないんだよね。
すぐそこまで来ている炎の嵐。頬を焼き、髪はチリチリと音を立てている。
「さぁ、降参するなら、早い方がいいですよ! でないと、黒焦げになりますよぉ!」
余裕な感じのヒュードルには、目にものを見せてやりたい。
さて、やりますか。
クラウチングスタートの姿勢を取り。
しっかりと足の裏の感触を確かめる。
この靴は少し滑るけど、問題ない。
駆け抜けるだけだ。
恐らく、ヒュードルは最初にいた場所から動いていないだろう。
要するに、真っ直ぐ突き進めばいいわけだよ。見てろよぉ。
大きく息を吸い、覚悟を決める。
──バンッッ
地面がめくれ上がる感触がした。
何かが破裂したような音を置き去りにする。
加速は成功だ。
熱いけど、問題ねぇ。
突き進むしかねぇ。
視界も何も分からない。
見えるのは炎のみ。
だけど、俺は目標をしっかりと捉えている。
ずっと、ヒュードルを見続けているんだ。
あと少しでたどり着く。
俺の服はもう塵になり、皮膚を焦がしている。
いくらかは雷で緩和されているように思う。
俺は、今最高に楽しい。
それはなぜだと思う?
自分の戦闘スタイルが、確立されたから。
ようやく俺の魔法の効果的な使い方がわかったんだ。
赤とオレンジのだけだった視界から、開けた。
急に空気が冷たくなる。
目の前には、目を見開き、口をポカンと開けているヒュードルの顔が見えた。
わかったかよ?
これが、腹を括った奴の戦い方だ。
腕をおおきく振りあげ。
顔面を上から地面に叩きつけた。
同時に、感電するヒュードル。
──バヂィィ
勢い余って威力が強まったみたいだ。先生は、頬が黒くなり、煙をあげて倒れている。
「これが実戦だろ? 命掛けて戦うのが、実戦なんだからな」
そう声をかけると、闘技場の出口へと向かって歩を進める。
生徒たちは海が割れるようにさぁと道を開けた。上半身が裸で下半身も所々穴が空いている。見せたいわけじゃねぇけど、仕方ねぇ。
出口に誰か立っている。
白髭を多く蓄えたジジイだ。どっかで見たことがある気がするが、忘れた。
「ほっほっほっ。ヒュードル先生の魔力を感知したから、来てみれば、面白いものが見れたわい」
「そうか? まぁ、ここまでやらかせば俺は退学だろう。まぁ、どうでもいいかぁ。冒険者でもやろー」
「ほっほっほっ。良いギルドを紹介するぞい? お主にピッタリじゃろう。この学院よりのぉ……」
この爺さん誰なんだ?
全く思い出せない。
まぁ、誰でもいいか。
「そうなのか? なら、紹介してくれー。誰だか知らねぇけどー。今日はもう帰るわー」
頭の後ろに手を組みながら闘技場を後にした。
ほぼ裸だからめっちゃ見られたのは、恥ずかしかったなぁ。




