5 婚約解消できない理由が判明しました。
その週末、息子と同じ宿泊施設を利用していた義父が私の実家にやってきた。
「ホテルキスミー」とはなんとも安直な名前だ。
あの喉が異常に丈夫な義母から離れたい気持ちは分からないでもないが、それにしたって頻度や相手の人数を考えるとこちらも異常だ。
そもそもこの義父がこういうことをするせいで義母の苛烈な性格に拍車がかかったのではなかろうか。
ノアによく似た美丈夫だが、ノアと同じ病院にご厄介になっているのを知っていると嫌悪感しかない。
義父は、息子が卒業出来ないかもしれないので、私に試験勉強を手伝ってほしいと改めて依頼してきた。勿論すぐ断った。
「ジャッド!あなたは祖父同士の古くからの縁を何だと思っているのです!このような時代だからこそ、貴族同士力を合わせて家を存続させていかなければいけないと言うのに!
ベルナール様、申し訳ありません」
母はそう言って、貴族女性とは思えない握力で私の頭を掴んで下げさせた。
ゴリラがリンゴを握り潰すイメージが頭に広がった。
母世代ではまだ、ベルナール家は侯爵で、こちらは伯爵という意識があるのだろう。
それに祖父に逆らえないという思い込みも強い。
ビジネスでの協業がそんなにある訳でもないし、ただ祖父の友人の家だというだけで、今や形骸化した侯爵の肩書など何の役にも立たないというのに。何故頭を下げなければいけないのか理解できなかった。
「ああいえいえ、これからは女性も強く生きねばならないですからね。むしろ息子は優しすぎるので、これくらいの方が丁度良いですよ」
義父は寛容風な雰囲気を醸し出していた。ホテルキスミーでご休憩していたくせに。
婚約者を蔑ろにして浮気三昧、可愛がってくれる祖父母の老後の蓄えを、遊興費や和解金に使うノアちゃまのどこが優しいのか、詳しく教えてほしかった。
「ジャッドさんのように外国語に長けていれば、今後海外支店の事業も伸ばせるでしょう。今もお家の事業を少し手伝っているのですよね?
数字に強い上に、庶民の、こう八百屋やパン屋のような店を継ぐ女子に混じって受けている経営学も良い成績だとか。
まあ他が庶民の女子ですから、ノアの男子校とは比べるのはおかしいかもしれませんが、きっとノアの勉強や事業の役にも立てると思うのですよ」
義父のこの馬鹿にしきった言葉で、やっと婚約が解消出来ない理由が分かった私は確かに馬鹿だった。
能無し浮気ノアちゃまはこれからも人脈を広げるという名目で素行の悪い男性たちと好き放題遊び、浮気を重ね、その裏で実質的に会社を回す、賢い女性が伴侶に必要だったのだ。




