表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/20

4 お義母様が心配でうっかりしてしまいました

 色ボケ茄子の家が、可愛げの欠片もない私との婚約解消を認めない理由が分かったのは、十八の時だった。


それまで私は、最悪家を飛び出して、女性一人でも生きていけるように備えることで精一杯だった。

その上あの色ボケ茄子ピーマン頭に全く興味がなく、奴に時間を使うのは勿体ないと思っていた。

婚約解消の材料探しのため、浮気や喫煙や年を偽って怪しげなクラブに出入りするなどの尾行に人を付けるくらいしかしていなかった。


 実は奴は、歴史ある貴族で大企業の跡取りでありながら、致命的に勉強が出来なかったのだ。


 中等部までの共学貴族学校では、鰹節並み薄っぺら男のように勉強が出来ない貴族が恥をかかないように、成績は公開されていなかった。

高等部からは私は女子校、キツツキ穴空き脳みそ男は男子校のため、成績を知ることは更に難しくなっていた。


 ある日突然、ヒステリー義母が私を学校まで迎えに来て、使用人を使って私を無理矢理車に乗せて、奴の家に連れて行かれた。


義母が無駄にアグレッシブで行動が早いのはいつものことなので、私は車の中で、ギャースカよく分からないことを言っている義母の顔を見ながら、頭の中で落書きを加えて過ごしていた。

(鼻の穴から鼻毛を出して、頭にハチマキ……、ほっぺにぐるぐる……意外と似合うんじゃない?あとまつ毛をもっと目一杯伸ばして……)


 「聞いてるのジャッドさん!」

「聞いてますよ!お義母様のお声は大きいですからね!窓から外にも聞こえていそうですね!」

「な、なん……」

私が運転席の真後ろに、後方向きに設置された椅子に座っていたので、義母とは向かい合っていた。義母は茹でダコみたいに真っ赤だった顔を白く変化させながら、窓の外を見て通行人の量を確認していた。

どうせベルナール夫人として聞かれたらマズイ罵詈雑言や、私が事前に止めるべきだと義母は信じている、奴の失態について大声で言っていたに違いない。


 (赤から白になるあたり、本当にタコみたいだな。今日は夕食で食べようかな)

「そのタコってメモは何なの!」

「夕食の希望です!帰宅後に用意してもらおうと思って!」

「何て緊張感のない子なの!」

「肝が据わっていると!有難うございます!」

「誉めてないのよ!この……」

「お義母様お顔がタコみたいに真っ赤ですよ!血圧高すぎません?」

運転手が吹き出してしまったが、怒れる義母が喚き散らす声でバレずに済んだ。


 やっとベルナール邸に着き、背中をど突かれる斬新な案内で客間に通されると、使用人がサッとお茶を出してくれた。少しでも気に食わないと義母は使用人を怒鳴り散らすので、この家の使用人たちは機械人形のように義母を肯定し、義母の望むままに行動する。


 そして義母はソファに座ると早速気に入らない私に怒鳴り散らしてきた。鍛えられた喉だなと感心した。

「ジャッドさん!夫を支えるのが妻の役目よ、全く今まで何をやっていたの!

ノアちゃんは跡取りの教育と、将来のために人脈を広げるのに忙しいの。だから学校の試験なんて、ノアちゃんの将来を考えれば些末なことで足を引っ張らせないで!

良い?次の試験でノアちゃんが良い点を取れるように教えなさい。同じ学生同士なんだからまあどんなものが出るか大体分かるでしょう?

泊まり込みでも良いけど、あなたに贅沢をさせるつもりはないから部屋は客室の中でもせま……」


 座って良いと言われていないが、無理矢理車で移動させて立たせ続ける方が失礼だろうと思い、ドサっとソファに座った。

「私に夫はいませんし、お義母様はノイローゼ気味のようですね!お義母様と呼ぶように言われた時から変だと思ってましたが症状が進行しましたか!?こんなことで外堀りなんて埋まりませんよ!?

私とノア様は女子校と男子校で学校が分かれていますし、私は昔ながらの歴史ある貴族学校ですから、女子は刺繍の実技だのが試験範囲ですよ!ノア様に家紋の刺繍ハンカチが作れるようにお教えすれば良いですかね!」


「失礼にも程があるわよ!取り立てて美人でもないくせに!」

「お揃いってことですか?」

「私が不美人だと言うの!?」

ノアの母親はレースの扇子をテーブルに叩きつけて折ったが、いつものことなので顔を横に少し傾けて破片を避けた。


「私は実母と私がお揃いですかと訊いたのですが。お義母様は以前そのように我が母に言っていたではないですか。お義母様は何かお顔に気になる点でもあるのですか?」

さりげなく日頃の失礼について巻き込みながら嫌味を返してやると、今度はティーカップが壁に当たって砕けていった。壁に付いた紅茶のシミは落ちるだろうか。


 「お前が常に首席などという女性らしからぬ目立ち方をするから!本当にはしたないったら……、新しい店を出すと、店頭に立って自ら販売までするというお前の実母もそうだけれど、そういう貴族として不適格なことをするから社交界で叩かれるのよ!」


「そうですか!では家ごと相性が悪そうですから婚約は解消いたしましょう!」


「そういう訳には行かないでしょう!ノアちゃんには支えてくれる女性がいないといけないんだから!」

「私以外の女性が複数お支えになっているようですよ!あ、性病で罹った病院の看護師さんはカウントしてません!」


「お前はどこまで私を苛立たせるのよ!ノアちゃんは皆んなに好かれてしまう魅力があるの!だから人脈を広げるのに注力しているのよ!貴族同士、大企業の長同士、横のつながりはとても大事なのよ!あなたみたいな頭でっかちでは分からないでしょうけどね!」


「そうですね!お義母様が何を仰っているのか全然分からないです!女性の人脈が多いようですから尚更私は必要ないですね!」

紅茶のポットが、今は使われず飾りになっている暖炉の薪の中央にぶつかって割れた。蓋が跳ね返って義母のスカートに当たり、怪我をした訳でもないのに義母は金切り声をあげた。


 「まあー大変だわー、誰かー」

私は義母が部屋の外に追い出していた使用人を呼ぶためにドアを開け、よく訓練された使用人たちが義母のスカートのシミを拭き取ったり、怪我がないか聞き取りを始めたのを確認した上で、「きゃーお義母様が割れたティーポットでお怪我をしたかもしれないわー」と言って廊下を更に進んだ。


大事なお義母様の危機で気が動転していたのかもしれない。うっかり廊下を進みすぎて、自宅まで帰ってしまった。よく小説に出てくる、気がついたら自宅にいたというやつだ。

不可抗力だ。仕方ない仕方ない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ