28 弁護士との愉快な茶会
「いや〜ショックすぎて、食事も喉を通らないわ」
そう言いながら、私は弁護士事務所で出された紅茶を飲み、茶菓子のクッキーをペロリと食べ終えた。
前に座る若い弁護士は苦笑いで、自分の分をスッと私の前に差し出した。
この男性は私と同い年で、実は小中と同じ学校だったらしい。
クラスが同じになることはなく、私の記憶には残っていなかった。
ただ向こうはよく覚えていると言う。
「ベルナール嬢は、僕とは違う、ずっと先を歩いている方だなと思っていましたが、本当に何手も先を読んでいますね。スピードがまるで早送りで物語や劇を観ているようです」
うんうんと頷く彼のスーツは皺が目立っている。
私が離婚の弁護を依頼した事務所で、担当として付いてくれたのが彼ポール・シモンだった。
向こうはすぐに気が付いて、よく人と話す仕事だからか、ポールは大袈裟に笑わそうとするわけでもなく、穏やかに話すが、その中で、何か落ち着くと思わせる雰囲気が合った。
私が波長が合うと思えることが多いのは、初めてかもしれなかった。
だからつい、離婚に加えて、ちらっと義母のことを相談するつもりが、ポールの顔色はみるみる血の気が引いていった。
そんなに感情移入されるとは思ってもみなかった。
よく「鋼鉄の女」などと言われるジャットに対して、そのように心配の視線を向けるとは思ってもいなかった。
確かに義母は常軌を逸した行動をとるし、執事たちや警察からも「気をつけるように」とは言われていたけれど、ポールの心配の視線は彼らとは何か違うように思えた。
まるで若くか弱い女性を守らなければいけないような、私が今まで受けたことのない、小さな頃にも与えられたことのない「守ってあげなければ」という視線のようだった。
話がいつの間にか大きくなってしまったので、私は普段、元ベルナール邸の従業員と話す時によくやるように、「もう本当に義母は頭がおかしい」と、「昔からノアは散々な行動をするのだ」と、語尾を笑わせながらごまかそうとした。
ポールに一方的に聞かせただけではあったけれど、口から言葉にして出すことで多少気が紛れたことは事実だったので、相談料も払うと言ったのだ。
その途端に彼はなぜか怒ったようだった。
青かった顔を赤くして、「金の問題ではない!」「どうしてそんなにヘラヘラしているのだ!」と眉間に深い皺を刻んで、大きな声を出した。
この事務所は彼のものではなく、彼はまだ六年生の大学を出たばかりの若手なので、相談室の一室を借りているだけだった。
彼は慌てて前のめりになった姿勢を正し、大きな声を出して申し訳ないと謝った。
私こそ気分を害して申し訳ないと謝った。
そして気まずくなった部屋を、相談時間もだいぶ過ぎているのでと出ようとしたのだが、彼は「自分が気になるから」と言って、義母からの犯罪の域に達した嫌がらせについて伴走してくれることになった。
彼がかなり親身になって私のそばにいてくれたことで、弁護士がついているという状態での警察の対応は素早かった。
やはり私は義母たちに対して少し感覚がおかしかったのかもしれない。
弁護士が付くことで、急にこれは深刻な事件だと様々な対応をしてもらえたことへの「若干の」モヤモヤした感覚はあるが、
おかげでレオとルイーズを逃がす優先度を上げた方が良いことにも気付けた。
最近のプロジェクトで知り合えた、元裏稼業の方々からの有難い情報のおかげもあって、私はかなり早く安心することができた。
この状況になってようやく深く眠ることができ、私は今までずっと緊張していたのだということに気がついた。
ただ、ポールは私の代わりのように、大分忙しい日々を送らなければならなくなったのだった。
「そんなことないですわ、今回だってポール先生のおかげでどうにかなりましたし。もし私の人生が激なら、まあ喜劇にしてはもう少しオチが欲しいですね」
「呼んでもないのにやって来た、ベルナール嬢のお祖父様が、杖を振り回して『恥知らずー!』って、家庭裁判所で元旦那様を追い回したのは大分喜劇でしたよ?」
「そうねえ、随分品のないメリーゴーランドだったわ」
そうジャッドが言うと、遂に弁護士はお茶を吹き出した。
「す、すみません……、真顔で面白いこと言うのやめてください……」
私は首を傾げた。
そして、おもむろに立ち上がると、祖父の真似をして腕を振り回しながらガニ股でソファの周りを小走りしてみた。
弁護士の紅茶はテーブルを豪快に濡らし、彼は腹を抱えて笑った。
それを見て、私もおかしくなって笑ってしまった。




