2 屑のどうしようもない素行
ノアは金髪碧眼で白皙の美少年だった。高い鼻梁や薄い唇、長い睫毛といった美貌を表す形容詞はほとんど当てはまっていた。
成長すると背も高かったし脚も長かった。
新年の挨拶のようなどうしても会わないといけない席で見かけると、通りがかるすべての鏡で容姿をチェックし出すのがとても気持ち悪かった。
紳士としての確認を超えて自分に見惚れているどんよりとした熱のこもった目に、背筋があわだって、本能が危険だと全力で告げていた。
一度、パーティー会場になっていたホテルの庭を二人で歩いてみてはどうかと親族に提案された際には、気持ちが悪くなってしまって、深窓の令嬢である私はばったり倒れてしまった。
決して息を止めたまま挨拶の礼をして、勢いよく頭を上げることで故意に気絶を図った訳ではない。こんなこともあろうかと前日から絶食したりしていない。ええ決して。
ノアは初等部の高学年から素行が怪しかったが、中等部になって五月蝿い友人たちとコッソリ煙草を吸ってみたり、休み時間になると可愛い女生徒を侍らせているのを見て、ドン引きした。
恋愛小説に出てくるヒーローのように、女性が奴に惹かれてお話ししたいと囲んでいるという上品な雰囲気ではなかった。
手を女生徒の方に回すどころか襟の中に入れる必要が微塵もない。ヒーローは絶対そんな気持ち悪いことはしない。
まだ奴の立場が違えば、まだ子供とか少しヤンチャをしてという理屈も飲み込めるのだが、奴は貴族で大企業の跡取りだ。
将来多くの人を雇用しその家族まで支えられるよう会社を経営しなければならない。そのために貴族と言えども厳しい競争環境に置かれている今、高い学費を払って貴族学校に学びに来ているのに、本当に何をしているのだ。
これであのピーマンが「俺は跡取りに向いていないので、別の仕事をする」などその行動に見合う将来を描いているなら別だが、腐れピーマンは女生徒を口説く時にも、自分が見下している爵位の低い生徒にも、「俺は次期侯爵で、あの大企業を継ぐのだ」と言って憚らなかった。
訳がわからない。本当に何をどう考えればそんな能天気な発言が出来るのだろう。
今でもろくに話さないので真実はわからないが、向こうも向こうで女のくせに男のような勉強をして、放課後も先生に質問するなど、小賢しそうな私に、女らしくないとドン引きしていたようだ。
ただ私は奴やその友人に侍っている、女性たちについては特にドン引きしていない。
いかに資産をうまく回せるかという実力主義的な世になり、急な変化について行けない者は多い。
特に男性と違ってビジネスに携わる機会を得られなかった、貴族及びそれに近い身分の女性は、今まで刺繍だのお茶の作法だのしか習ってこなかったのだ。
それ以上ははしたない、男より三歩下がるべきと長年植え付けられた価値観を変えることは難しい。
家では未だに母親らから昔ながらの作法を強要それをされ、しかし実体験としてこのままでは自立して生きていけない将来が見えている女生徒たちが、高物件の男性を早く捕まえて安定を獲得したいと思うのは理解出来る。
むしろ賢い生存戦略だとも思う。
しかし鰹節より薄っぺらな思考しかしない奴は、計算能力が高い女性陣のおべっかを本気で受け取り、婚約時代から浮気三昧な上に、そこに貴族の見栄まで重なって無駄な贈り物や旅行やデートで金を使い倒した。
南国の神の彫刻なんて領収書を見つけた時は、これで喜ぶ女性がいるのかと、少し会いたくなった。




