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【閑話】 どうなってんだよ

 「どうなってんだよ!!!」

雑居ビルの一室で、ガタイのいい男が回転椅子を蹴り付けながら怒鳴った。


「だからあのヒステリーババアの依頼を受けたのが失敗だったんですよ」

部下だろう男は、慣れているのか硬すぎるパンを齧りながら、何日履き続けているか分からない靴下の上から足の裏をボリボリと掻いた。


 椅子を蹴った男は、その様子を見て更に苛々を募らせるように、乱暴に顔を両手でゴシゴシと擦った後、ドン!と机を叩いた。


「金がいるだろうが!ずっと、こんな仕事ばかりしていたから……。表に戻ろうったって、こんな職歴のないジジイを、誰が雇ってくれるってんだよ!!」


「……、お貴族様なら、どんなに腐ってても、今までは大丈夫だったんですけど……。時代の流れってやつですかね」


 二人と別の、事務員のような風体の男性も溜め息を吐いた。

今まで作戦を立てるメインはこの男だった。


慎重な男で、この男の一見遠回りに見えて手間な作戦のおかげで、この探偵業を装った裏稼業の事務所は、警察のご厄介になったことがなかった。


 「何溜め息なんか吐いてやがる!てめぇが窓に肉だの、動物の死骸だの、チマチマした仕事であちこちの組織経由するわ、単発作業員ばかり使うわで時間食ってるから、こんなことになったんだろう!」

ガタイの大きな男は怒りが抑えられないと頭を押さえつけながら、獣が唸るよう時のような形相で怒鳴りつけた。


「あのねえ、そのおかげで警察を撹乱して今まで捕まってないんでしょうが。

しかもあのターゲットは、元から夫を捨てて起業するって言ってて、いつでも逃げられるように準備していたし、

義実家の会社から経営に関わる優秀な人材をごっそり引き抜いて行ったもんだから、事業のスピードが早すぎるんだよ」


「警備業は、家政婦のついでにやるような話だったじゃねえか!

今のお前の話だと事前に予想できてたように聞こえるが!?知ってて対策できなかったのか!?

どうするんだよ!ジジイ共って言ったってアイツら、元軍人だわ最近まで裏稼業バリバリやってたわで、あんな人材ばかり数揃えられたら勝てねえよ!!」

ついにガタイのいい男は、仮眠用のくたびれ切って元の色が分からない枕に顔を埋めて、あーーっっっっ!!!と叫んだ。


 「だからね、彼女はいつあのふヒステリー息子馬鹿ババアと、屑な旦那から逃げるかが具体的じゃなかったんだよ。

今これだけニュースになってれば分かる通り、泥舟の良いところだから、下手に入念に起業準備をしちゃうとね、予定が来るって早く家を出なきゃいけない時に不利になるかもしれないから、

あらかじめ自分の経験で出来そうな事業の基礎を完璧にしておくことと、いざという時に役立ちそうな根回しをしていたってことなんだよ。」


それでも二人の男たちがポカンとしているので、事務員風の男は例を出して言った。

「定食屋の想定を固めておいて、やっぱりカレー屋にするって変更しても、ガチガチに固めた段階じゃなきゃ修復できるだろう?

そういう柔軟な用意をしていたんだよ、確かに急に警備業を決めたけど、大まかな用意は先にあったんだよ」


「でも!いや……、そうだ、あのババアや屑息子が警察に厄介になったせいで、そっちからすぐ足が付きそうだって時間を空けた時期があった」


「そうそう、それで結局一年くらいの計画になっちゃったからね、その間にジャッド夫人は警察や政治家と組んで、我々の同業を自分の手元に置いてしまった」


「置いてしまったじゃねえよ!どうすんだよ!」


 事務員風の男は首元を掴まれたが、特に怯えるどころか、疲れた表情のままで、ぼそっと呟くように言った。

「潮時だよ」


「……な、今から、今から牢屋に入れって言うのか!?そんなの、残りの人生全部牢屋ってことじゃねえか!何のために稼いできたんだよ!!稼げなくなった老後に、娑婆で生きていくためだろうが!!」


 「俺らみたいなのが、娑婆で往生するために、苦労してやっと自由になったお嬢さんを手籠にするような仕事を受けるべきじゃあなかったんだ……。

一緒に住んでる小さな子供まで怖がらせて……」


「阿呆息子の愛人と恋人か?一緒に怖がらせてやれって依頼だったろうが、俺らは仕事をしただけだ!

脅すのも殺すのも、昔から命令ならやってきたことで、皆んな許されたじゃねえか」


「ここは戦場じゃないし、あの人たちは敵兵じゃないんだよ!!もう戦争は終わったんだ!!俺たちは、変わらなきゃいけなかったんだ!!!」


ガタイのいい男も、もう一人の男も何か言おうとして何も言えない一瞬の後、乱暴にドアを叩く音がした。


 数秒の後、警察が乱暴にドアをこじ開け、男三人を床に押さえつけた。

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