24 その喧嘩、高値で買ってあげるわ
ある日の夕食後。
レオを寝かしつけ、三人で紅茶を飲んでいた時だった。
「いやあ良いわねえ、この寝る前の時間が一番好きだわ」
アルバが背伸びをして、ぐでっと椅子にもたれながら、頭を後ろにして言った。
「この紅茶に合うウイスキー、良いですね。アルバさんは本当に言語の違うお客様ともコミュニケーションが上手です」
「いーえ〜、お客様が良い方だっただけです。こういう、思い遣りあるお客様を集められるのは社長の努力のおかげですよ」
コンコン、と唐突に窓が鳴った。
全員が顔を上げる。
それは庭側だ。
つまり家の敷地の中だ。
「……風?」
ルイーズが小さい声で言った。
だが、今日は無風だった。
アルバが立ち上がる。
「待って」
私は胸がざわついた。
アルバが、私を振り返って、それでもあえてカーテンを少しだけ開ける。
彼女はそういう、あえて自分が傷つきに行くようなところがある。
アルバは鋭くカーテンを閉めた。
「どうしたの!?」
「……誰かいる」
ピシリと空気が凍った。私はルイーズを見る。
ルイーズの顔色が真っ青だった。
「男?」
「ええ恐らく。体格的にそうだと思うわ」
ぞわり、と鳥肌が立つ。
次の瞬間。庭から、ガサリ、と音がした。
そして窓ガラスに、何かが、ゆっくり叩きつけられた。
ベチャッ。
「ひっ……!」
ルイーズが息を呑む。
ガラスを滑り落ちたのは、赤い液体だった。
恐怖を煽られている中で、赤い液体といえば、一瞬、血かと思った。
こういう時にパニックになってはいけない。
私はゆっくり窓に近づく。
その間に自分たちを守る手段を確認する。
インテリアは、レオのために極力安全にしてあるから、武器になりそうな物は少ない。
勿論、レオを置いてはいけない。
だから何かあってもここで止めなくてはいけない。
近づいて見ると、それは潰れた食肉のようだった。あえてドリップをたっぷり含ませて持ってきたのだろう。
その向こう。暗い庭の奥に、人影が立っていた。
確かに体格的には男性だ。
その男は、こちらをじっと見ていた。
そして、暗い中で白い物が薄く見え、それはにたり、と笑った気がした。
私の肩越しにルイーズにも見えたようで、すぐにレオを確認しに寝室に走って行った。アルバがそれに続く。
相手は、子供がいる女性が怖がる要素をよく分かっているらしい。
体格が良い男が、潰れた肉と血を投げつけてきたら、男の暴力性や異常性から、自分の子供がもしターゲットになったらと考えてしまう。
ルイーズでは絶対にあの男に勝てない。
ただ、まだこの程度では警察に通報したところで、牢屋にぶち込んでもらえる案件にはならない。
とはいえ、ああいう手合いが警察の厳重注意を聞くはずもない。
「なるほど……。その喧嘩、高値で買ってあげるわ」
私の可愛いレオと、大切な二人を怖がらせたことを後悔させてやるわ。




