19 警護事業の開始
家政婦サービスを開始するにあたって課題が一つあった。
短時間の家政婦派遣という文言をどう変換したらそうなるのか分からないが、いかがわしい商売と勘違いする男性客が想定されるということだった。
事業を起こす前に社員から忌憚のない意見を募ったところ、複数の男性社員から指摘があり、女性社員からも危険性を感じるとの意見があった。
事前に国内犯罪者記録との照らし合わせや、代金踏み倒しリスクを考えて所属企業の確認などはする。
だが、ノアという立派な企業勤めで高給与であるにも関わらず、女性に暴力を振るう阿呆の事例があったので、「確かに」と私は納得したのだった。
家政婦事業はビジネスチャンスとしては大きいので、派遣する家政婦の身の安全を守る仕組みを考えた。
それが警備事業だった。
まず家政婦派遣事業も警備事業も展開するのは、首都の中でも特にビジネスが軌道に乗っている、勢いがあり街全体が新しく整然とし、若い富裕層が多いエリアに限定した。
そしてエリアの中でもかなり中央寄りに、家政婦派遣事業及び警備事業の拠点としてビルの一フロアを借りた。
ジャッドの会社から割と近いが、より効率的に素早く警備員が駆けつけられる仕組みが欲しかった。
家政婦はベルを持って派遣される。ベルが鳴れば、それは警備事業部に大きな警報音と共に住所を伝える。
警備員は車や単車で急行する。
この仕組みはサービスの申し込み時に顧客に事前に伝えられる。そして家政婦は目立つようにエプロンにベルを付けている。
これにより万が一、ノアのような男が顧客であっても、そうした行為が出来ないよう抑止力になった。
更に、顧客を富裕層に絞っていることで、彼らの会社や拠点を同じ仕組みもしくは警備員を駐在させての警備の申し込みもあった。
今までは警備員を家や法人で雇っているところが多かった。だが夜間ずっと会社や家を見守らせるのは大きなコストだった。
それを警報があってから警備員が駆けつける仕組みだと、タイムリーではないものの抑止力効果にはなることと、意外と泥棒が金庫に苦戦している間に到着したり、間に合うケースも多かった。
特に襲われた家人の救急に大いに役立った。
事業として結果はうまく行ったのだが、開始まで私にしては苦戦した。
私は大分昔から懸念点のリストアップとその対策が得意になっていた。
何とは言わないが、ある貴族夫人とかある顔だけ男とかの対策をしないといけない期間が長ーくあったので、経験の多さから得意になっていた筈だった。
だが警備を民間企業に任せるなんて危ないという意見が意外とあって驚いた。
銀行や投資会社へのプレゼンをする際に、担当する男性社員は決まって難色を示していた。
家や法人で雇う警備員と民間会社の警備員の何が違うのか分からなかったのだが、どうにも彼らは組織的な警備と言うと警察を意識してしまうようだった。
なんじゃそりゃとは言わず、警察は犯罪を取り締まる組織で、民間警備はあくまで犯罪を予防する組織だと懇切丁寧に伝えるようにした。
そしてベルナール家の執事だった男性が、日夜バーやカフェ、職業案内所でスカウトしてくれた警備員候補の筋肉ムキムキ男性たちに同席してもらった。
目に見える安心感としてかなり効果があった。
有難う執事さん!さすがベテラン!長年人を雇い指導してきた経験が滅茶苦茶活きてます!
執事さんには事業の垣根を越えて人事部長になってもらった。
本人は事業会社で働いたことがないらしく、執事服でなくスーツを着た時にウキウキしていた。
撫で付けた白い頭髪や、質の良い銀縁メガネ。背筋が伸びた上品なおじいちゃんが、鏡を見ながらスーツを着てウキウキしていると可愛くて、思わずかわ、まで声が出た後全力で呑み込んだ。
警備員候補の男性たちの後ろで手を背中に組んで立っていた元執事さんは、
「ずっとお屋敷勤めでしたから、一から事業を作るなんて新鮮でワクワクしますね。お屋敷の制服以外を着るのも東で傭兵をしていた若い頃以来ですよ、」とサラッと気になる経歴を言っていた。
警備員候補のムキムキお兄さんたちが、元執事さんにとても丁寧な敬語を使ったり、見かけるだけでビクッとすることがあったのだが、なんとなく事情が分かった気がした。




