18 離婚準備
起業に当たり、実家や義実家が大企業なので、一部事業で競合になるが、相手からすれば子娘のお遊びに思えるのだろう。大きな嫌がらせを受けることはなかった。
義実家は社員を引き抜かれた恨みが大いにあるのだろうが、経営に近い社員がベテランから若手までごっそり辞めてしまったので、私に嫌がらせをしている暇がないらしい。
義祖父という剛腕のカリスマを失い、こう言ってはなんだが平凡な義父の元で業績が下降線だと経済新聞にも書かれていた。
残った社員には気の毒だが、だからと言ってこれ以上沈む船に残る気はない。十分私の人生の貴重な時間を使ってやったと思っている。
時期社長のノアがあんなボケ茄子なので、私は社内で「いつか離婚して起業する」と言って憚らなかった。仕事を整理して引き継ぎを始めると、ああ辞めるんだと察して付いて来てくれる社員が多かった。
義実家にダメージを与えるために私が引き抜いたわけではない。彼らが泥舟からの脱出を試みただけだ。
もし義祖父が後進の育成や引き継ぎに力を入れていれば。
もし義父が幾つになっても父親に怯えずに、不明瞭な業務を透明化することに注力していれば。
もし腐れ茄子ノアが、責任から逃げずに後継者として社員を不安にさせない振る舞いをしていたら。
社員たちは少々業務経験があって、同年代ではやや仕事ができるというだけの小娘の新興企業に移ろうなどとは思わなかった筈だ。
もし私に同情してくれていたとしても、私の事業に共感し魅力や将来性を感じてくれていたとしても、大企業を円満でない形で辞するには余程の覚悟がいる。
特に家族がいる社員は尚更だ。
彼らの覚悟を無駄にしないため、私は業務に邁進した。
◇◇◇
そしてこちらもさっさと進めなければならなかった。そう、あの腐れオタンコ茄子との離婚である。
会社を起業するために借り入れ、つまり借金はあるが、まだ私の財産と呼べるほどの利益は出せていない。何せこれからスタートだ。
天使レオのため環境の良い、三世帯が暮らせる家への引っ越しもあったし、社員寮のための屋敷も買って改装した。
勿論会社自体もだ。社員が快適に働けるようにというオフィスエリアの改装だけでなく、保育施設を設けるための改装もあった。砂場や遊具、給食を調理する部屋なども設置した。
キリンさんの壁紙にするか、うさぎさんにするか悩んだり、遊具の耐久性を見るためにレオに滑り台を滑ってもらったり、小さな小さなスモックを制服として採用するのに柄や素材を何度も見比べたりした。
とても楽しくワクワクしたが、私の貯金残高はみるみる減っていった。
その段階で離婚の申し出だ。
残念なことに私には、財産分与で夫と折半出来る貯金がなかった。
いやあ残念だ。幼少の頃からの長い縁だと言うのに、伴侶に全く渡せるお金がない。
勿論まだ会社は株なんてものもないので、そのようなものを渡すことも出来ない。
社員寮や会社は法人のもので私の財産ではないし、家はルイーズとアルバにも購入する際に資産を出してもらった。
勿論、無理な金額を貰っていないが、その際に法律上有効な書面を作成していた。
これによりあの家は私だけの財産にならないし、貯金が殆どない女性から住む家の権利まで取れないだろう。
まして一軒家なのに権利は他二人も女性たちと分割しているのだ。売ることもできなければ、彼女たちが同意しなければ住むことも出来ない。
いやぁ、残念だなあ!




