15 アルバという女性
アルバの今の仕事は、時差があるほど遠く離れた外国との商談通訳だった。
その仕事は臨時のもので、無事ひと段落したそうで、次は昼間に出来る仕事先を探していた。
「給料は良いけど、やっぱ昼夜逆転は身体に来るのよね」
そういう彼女を、私の起業仲間に誘った。
有能だという事前の調査もあったし、何よりいち早く奴から離して安定させてあげたかった。
こればかりは義母の言うとおりで、私が一応は奴の妻なのに、その世話を他の女性に任せてしまったために、アルバは殴られたのだ。
アルバはさすがにそこまでお世話になれないと謙虚に遠慮してくれた。
男爵家が戦後の変化によって資産を失ってから、母娘共に男性に縋るしかない時期があり、暴力を振るわれるのも初めてではないから、心的外傷はそんなに大きくない。
それに悪いのはノアであって、正妻のせいだと思い詰めなくて良いとまで、優しい視線で言ってくれたが、ドアがノックされた時、アルバはビクッと跳ねていた。
引っ越し業者が到着したためだったが、アルバの蒼白な顔と、見開かれた目を見て、一時的な宿泊施設しか押さえていないのであれば、ぜひと改めて強く誘った。
アルバは少し躊躇っていたが、「お願いします」と言って頭を下げた。
アルバは私に「浮気相手に当たるのだから謝らないで」と言ってくれた。こうして頭を下げてくれた。
彼女はさっきまでノアが既婚者だったと知らず、騙されて、挙句暴力まで振るわれていたのに、一切妻である私を責めなかった。
アルバに会うまでは、義母だけでなく、私の母たちもそう言うように「もっと夫を躾けておけ」と文句を言ってノアの代わりに治療費を要求するくらいされるかと思っていた。
けれど彼女は自分の見る目がないと笑っていた。凄く強い女性だと思った。
◇◇◇
転居先は、首都郊外で子供を育てるのに良さそうな緑が多く、レオと同年代の子供も多い街にした。
義父が激怒してクビだと騒いだ時に家を買っていた。
このまま、あの家族の敷地内に住んでいるのは危険だと判断した。
私もルイーズもレオも、あの家族に愛想を尽かして、転居先でも働ける使用人たちも、既に引っ越し済みだった。
アルバは昼逃げを予定していたが、私たちはまさに夜逃げだった。そのため残った使用人たちは、「朝来てみたら、奥様たちがいません!一部の使用人も付いて行ったみたいです〜!なんということでしょう!」とすっとぼけた。
すっとぼけが通じるように、そしてあの家族たちに用意されたものは使いたくなかったのもあって、大きい物は転居先で新しい品を揃えた。
あの後アルバは引っ越し業者に貸し倉庫に荷物を運んでもらって、予約していた宿泊施設はキャンセルし、私と車で新居に来た。
落ち着いてから、使えそうな物だけ倉庫から取り出して置くことなった。
ルイーズがどう思うか少し気になったが、経緯を説明したところ、同士のように固い握手を交わしていた。
アルバも子供は好きなようで、レオを可愛がってくれる。可愛がりすぎている気もする。当初は落ち着いたら社員寮に引っ越すと言っていたが、なかなか落ち着く日が来ない。
引っ越し資金が貯まらないのは、レオの洋服や高級で健康に良い幼児食やおもちゃなんかに給料が溶けているからのような気がする。
オムツ交換を嫌がり逃亡したレオに「あうばすきー」と言われて悶絶し、逃がしそうになっていた。
それでも逃さず大の方でも交換してくれる辺りにレオへの愛情を感じている。
「子供可愛すぎる。いやレオが可愛すぎる、ああ可愛い〜もちもち〜」
そう言って抱え込んだレオのお腹をもちもちして笑わせていた。
アルバは何かが理由で子供が産めないらしい。
絶対アルバにも幸せになってほしいと強く願った。




