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14 クソ浮気野郎の新しい恋人

 奴が確実にいる時を狙おうと朝にアパートを訪れたのだが、その日に限って奴はいなかった。


 一応失踪人を捜索するということで警察と一緒に訪れたのだが、玄関に現れた女性は驚くことはなかった。

「へえ〜、アイツ金持ってるなとは思ったけど、既婚の貴族だったの」

女性は少しハスキーな声で、女性にしては短めの肩口までの黒髪に、紫色に近い青い瞳で、長い睫毛が影を作っていた。事前調査では歳の頃は私より少し上の筈だが、もう少し上に見えるのは、人生経験の差なのかもしれない。

老けているのではなく大人の余裕や諦観、憂いが感じられる人だった。


 見えてしまった部屋の中は思ったより整然として、というよりこれから引っ越すかのように女性の物がなかった。


 「ちょっと面白い坊ちゃんだなと思って、面倒見てあげてたのよ。飲み屋の閉店後に道に落ちてたの。身なりが良いから危ないんじゃないかと思って声をかけたら、帰る家がないとか言って泣いちゃってね。可愛いじゃない?訳ありなんだろうと思って少し置いてあげたの。最初は遊び慣れてるのか話も面白かったし、こっちを気遣うようなところあったんだけどね。

でもまあ最近さすがに少し図々しいというか、金を入れない割には何にもしないし、貴族なら出来なかったのかしらね。

顔は良いんだけど見飽きちゃったしね、今から丁度引っ越そうと思ってたの。あ、お巡りさん腕力ありそうね、なんなら手伝ってくれない?」


警察官たちは引っ越し作業の手伝いは遠慮し、女性から、彼女が引っ越す間、ノアの相手を任せた友人の居場所を聞いてそちらに向かった。


 私は女性からお茶を勧められて、一室しかないアパートの床に座り、ダンボールをテーブルにして一緒に茶を飲んでいた。


「アルバさんは、これからどうされるのですか?夫婦の実態が伴わないとはいえ、私の夫のせいでお引越しをしなければならなくなり、申し訳なく、何かお力になれればと思います」


「良いのよ奥様、むしろ私はあなたから見たら浮気相手でしょう?そんなこと仰らないで。私はそうね、少しなら今の職場で貯めたお金があるし……、まあどうにかなるわよ。こう見えて私、元は男爵令嬢だったの。かなり昔だけどね。でも読み書き算術とか外国語も少しなら出来るから、次は昼間の事務仕事でも出来ればって思うわ」


「でも……」


 カラカラと笑う彼女は、苦労してきたのだろう過去が見えるようで、でもとても強く格好良く見えた。

その苦労の一端は一応私の夫であるノアが負担させたものだ。

彼女が友人に協力を頼んで急な引っ越しを計画しているのは、その身体に残る痣がノアによるものだからだろう。


綺麗な白い肌なのに、右目の周りにまで黒い痣があって、腫れあがっていた。腕や脚にも黄色や赤、黒、紫といった、複数回殴られたのだろう痕があった。


女性に暴力まで振るうようになるとは。しかも女性の顔にまで。


ノアの所業に対し怒りが抑えられず、そして私は言ったのだ。


「女性のお顔にこのようなお怪我を負わせて、誠に申し訳ありません」

私が床に手と頭を付けて謝ると、アルバはぶんぶんと手を振った。


「最初に謝ってもらったじゃないですか、まさか侯爵夫人が夫の浮気相手に頭を下げるなんて驚きましたよ。頭を上げてください」


たしかに、報告書に暴力を振るわれているようで腕に痣が見えるとかいてはあったが、文字よりも現実のアルバの怪我があまりに酷くて、咄嗟に頭を下げていた。


でも、やはり勢いでなくきちんと謝罪したかった。


 「アルバさん、もしよろしければ、私の新しい家に住んで、私の会社で仕事をしてもらえないかしら。奴の家からは遠いですし、使用人たちも含めて人が多いので、あなたを守れる要素は多いと思うのです」

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