10 クズとの結婚
当事者同士が婚約を解消しようと言うのに、金を掛けて私を探した分、引っ込みがつかないのか、両家は全く婚約解消を認めなかった。
ルイーズは身体を圧迫されて顔の青い私を小声で案じながら、異様な展開にオロオロしていた。
帰国後すぐに私もノアも一筆も書いていない婚姻届を勝手に提出されていたらしく、祖父には「嫁に行ってすぐに離婚なんて恥ずかしくて出来るか!」となんとも勝手な逆ギレをされた。
その後は実家に軟禁されていたが、「全然お仕事出来ないの〜」と三年経ってもひとつも成長していなかった母と祖母によって業務に戻されたため、おじいちゃんは大丈夫だったことが分かって安心した。
ただ取り引きは向こうから切られていた。
その事実に、割と強い精神を持っていると自認していた私の心が鉛のように重くなった。
誰かに頼っては駄目だ。迷惑を掛けないようにしないといけない。
私はこの時、大事なことを学んだ。
◇◇◇
今こうして優しいルイーズとレオと一緒に暮らせるようになったのは、あの人たちと暮らし続けるよりよっぽど幸せだった。先程の言葉は本心からだ。
義両親が勝手に建てていた敷地内の新築に、私とノアが引っ越した際、ルイーズは愛人枠として部屋を与えられていた。
新婚早々愛人と同居だ。文字だけ見ればなかなかハードな展開だが、先程言っていた通り、別にノアが好きな訳ではないので、「ノア様の隣の部屋は私よ!」という、お決まりの展開には全然ならなかった。
またルイーズの息子のレオは天使のような可愛さで、私とルイーズは乳母に任せることなく、一緒に子育てしていた。
親世代からはやや反対されたが、「乳母に任せるのではなく、母親や身内が育てる方が愛情が伝わって良い」という説が一般化してきていたため、義母が用意した癖の強い乳母に任せるなどという最悪のシナリオは避けられた。
有難う!論文を発表してくれた人!世間に広めてくれた人!
私たちは一時でもあのふわふわのほっぺにくっついていたかった。ほぎゃあ、ほぎゃあという泣き声も、その時に開けたお口から漂うミルクの香りも、細すぎる指でこちらにぎゅっと抱きついてくるのも可愛い以外の言葉が見つからなかった。
夜間授乳や夜泣きはそれでもクタクタになったものだが、庶民の母親はこれを一人で担っているのかと驚愕した。
ルイーズは小柄だったので、出産が大変で、回復に時間がかかっていた。
だから私がでしゃばって子育てを手伝うことになった。
しかしあのボケには体調不良が決定打になったらしい。
「産んだら再開できると思ったのに、情けない」などとよく分からないことを言い訳にして、また浮気に走っていた。
控えめに言って土に還ったら良いのに。




