9 カーペットでぐるぐる巻きの帰還
カーペットに包まれた私が「親不孝者!」とベルナール邸の床に放り出された時、浮気相手であるルイーズはお腹が大きく、私の婚約者であるノア寄り添っていた。
なので普通であれば修羅場なのだが、私もノアも婚約解消したかったので、「その女は何よ!泥棒猫!」というようなやり取りにならなかった。
ノアも私もその時だけは珍しく意見が一致して、婚約解消してルイーズとノアが結婚したら良いと訴えたのに、両家は全然聞き入れなかった。
「この女は一人で海外に家出した女ですよ!?どこで何をしていたか分かったもんじゃない!大体こんな行動をする女が将来に渡って俺を支えてくれるとは思えません!俺は今まで献身的に身も心も支えてくれたルイーズと結婚します!」
「身もって気持ち悪……、いえノア様もこう仰っていますし、私は身を引きましょう!どうぞ国外追放で!」
おじいちゃんの工房や、小さく歴史を感じる家族の家や、最近借りたばかりのビルヂングの2階の会社といった、昼食のパンやスープの香りが部屋中に広がる温かみのある世界と全く違った。
ブラウン家の広いタイル張りの床は冷たく、固かった。集まった両家の親族の視線もまた同様だった。
カーペットに巻かれたままピョコピョコしていた私を解放してくれたのは、恐らく予想と違った展開に驚いていたルイーズだった。
大きなお腹にも関わらず、屈んで私をカーペットごと縛っていたロープを解いてくれた。優しい。
◇◇◇
しかし一度逃げ出した前科があるとは言え、大人数の前で床に縛って放置とは、本当に両家共に血も涙もない人間ばかりだ。
雑貨職人のおじいちゃんはムキムキ男に私が連れて行かれた時、必死に助けようとしてくれた。全然身長が足りなくて、突き飛ばされても、「ジャッド!ジャッド!」と何度も私を呼んでくれた。
さすがに誰もこんなに強引に拉致するとは思っていなかったのだろう。私も実家やノアの家とは関係ない犯罪かと思った。
息子さんやおじいちゃんの弟子たちも、食ってかかっていたし、奥さんは警察を呼んでいた。
私は車に押し込まれていたが、まだ外にいたムキムキ男がおじいちゃんたちに向けて、「家出娘の回収だ!」と、見覚えのある祖父の字で書かれた業務依頼書らしきものを見せているのが裏から透けて見えて、「ここまでするのか……」と脱力した。
芋虫みたいにされながら、
「ご迷惑をお掛けして申し訳ありません!事情をお話しせずご厄介になって、可能なら今後改めてお詫びに参ります!」と叫んだ。
おじいちゃんが車を追いかけて窓を叩きながら並走し、転んだようなのが見え、それでも身体を起こせもしないので、大丈夫だったのか分からなかったのが凄く心残りだった。




