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全属性適性ゼロと鑑定された俺、〈空欄〉のまま世界の仕様外で生きることにした 〜スキル欄が空白の俺は、なぜか全ての魔法と職業を条件無視で使えるらしい〜  作者: 空白 シオン


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第33話 面会

 神殿の地下は、思ったより明るかった。


 拘束施設と聞いていたが、鉄格子も鎖もない。

 ただ、静かな個室が並び、扉には薄い結界が張られている。


「……危険だから閉じ込める、という扱いではありません」


 案内役の神官が、淡々と説明する。


「観察と、対話のための空間です」


 皮肉な言い方をすれば、優しい檻だ。


 扉の前で、足が止まる。


「時間は限られています」


 神官が言う。


「五分ほど」


 短い。

 だが、十分だ。


 結界が解かれ、扉が静かに開く。


 イリスは、窓際に座っていた。


 外光が、白い壁に反射している。

 顔色は悪くない。

 だが、痩せた印象は変わらない。


「……来ると思ってた」


 振り向かずに言う。


「うん」


 扉が閉まる音が、静かに響いた。


 少しの沈黙。


「……組織の話、断ったんでしょ」


 驚いた。


「どうして」


「セドリックさん、隠すの下手」


 小さく笑う。


 以前より、少しだけ柔らかい表情だった。


「……ごめん」


 思わず、口に出る。


「君を、すぐに出す道は選ばなかった」


 イリスは、首を振った。


「いい」


 静かな声。


「私、あの時、分かったから」


「何を?」


 ようやく、こちらを見る。


「決めるって、痛い」


 目が、まっすぐだ。


「でも」

「決めなかった痛さより、ちゃんと重かった」


 胸の奥が、静かに震える。


「……後悔してる?」


「してる」


 即答だった。


「三軒の家、夢に出る」


 視線が、少し揺れる。


「でも」


 一拍。


「決めなかった町の方が、もっと怖い」


 それは、本物の答えだ。


「……君は」


 言葉を探す。


「ここにいて、いいの?」


「いい」


 小さく、頷く。


「今は、ここで考える」


 窓の外を見る。


「あなたが全部決める人にならなくて、よかった」


 その言葉が、深く刺さる。


「……恨んでない?」


「ちょっとは」


 微笑む。


「でも、安心してる」


「安心?」


「うん」


 こちらを真っ直ぐ見る。


「あなたが檻に入ったら」

「私、また何も決めなくなる」


 呼吸が、止まりそうになる。


「あなたがいないから」

「私は、自分で考えないといけない」


 それが、彼女なりの前進だ。


 五分は、あっという間だった。


 外から、軽いノック。


「時間です」


 立ち上がる。


「……また来る」


「うん」


 イリスは、頷く。


「でも」


 最後に言う。


「助けに来なくていい」


 言葉が、止まる。


「一緒に迷うなら、外でやって」


 それが、彼女の選択だ。


 扉が閉まる。


 廊下に出た瞬間、息が漏れた。


 救えなかった。

 今も、救っていない。


 それでも――


 壊れてはいなかった。


 リアが、廊下の先で待っている。


「……どうだった」


「強かった」


 それしか、言えなかった。


 地上に出ると、空は高い。


 制度の中にいるイリス。

 制度の外に立つ僕。


 どちらも、不完全だ。


 だが、どちらも、

 誰か一人に全部を押し付けてはいない。


 それだけで、十分だと思えた。


 完璧な救いは、ない。


 だが、

 選択を奪わないことは、できる。


 それが、この物語の――


 静かな、答えだった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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