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全属性適性ゼロと鑑定された俺、〈空欄〉のまま世界の仕様外で生きることにした 〜スキル欄が空白の俺は、なぜか全ての魔法と職業を条件無視で使えるらしい〜  作者: 空白 シオン


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第24話 正統解と境界解

 集落は、管理区域の端にあった。


 石畳は途中で土に変わり、街灯の数も減る。

 正しさが、ここで薄まるのが分かる。


「……ここ、嫌な感じね」


 リアが、小さく呟いた。


「条件が二重にかかってる」

「管理と、境界の名残」


 歪みは、すでに発生していた。

 家屋の間を縫うように、空気が重く沈んでいる。


「被害は?」


 ミナが、淡々と尋ねる。


「今のところ、物損のみ」

「ただし、進行中です」


 神殿側の報告官が答える。


「……時間は?」


「あと数刻で、臨界に」


 十分だ。

 そして、足りない。


「では」


 ミナが、一歩前に出た。


「私が、正統手順で処理します」


 封印式。

 条件固定。

 影響範囲の切断。


 教科書通りの解法。


「待って」


 思わず、声が出た。


 ミナが、こちらを見る。


「異論は?」


「……ある」


 言葉を選ぶ。


「それだと、歪みは消える」

「でも……」


「“でも”は、不要です」


 ミナの声は、冷静だった。


「被害を止める」

「責任の所在を明確にする」


 それが、正統。


「それで、誰も困らない」


 誰も。

 本当に?


「……住民は」


 集落の方を見る。

 不安そうな視線。

 理解できないまま、待たされている人たち。


「封印すれば、理由は説明しません」

「理解は、必要ない」


 ミナの言葉は、鋭い。


「人は、結果だけを見ればいい」


 胸の奥が、ざらつく。


 正しい。

 だから、反論が難しい。


「……境界解なら」


 絞り出す。


「歪みを、周囲と繋げる」

「完全には消えない」

「でも……この土地に、残る」


「残る?」


 ミナの眉が、僅かに動く。


「“管理されない揺らぎ”を、住民が受け入れる必要がある」


 それは、負担だ。

 甘えじゃない。


「あなたは」


 ミナが、静かに言う。


「人に、不安を背負わせるつもり?」


「違う」


 首を振る。


「不安を、“分かる形”にする」


 沈黙。


 セドリックが、後ろで腕を組む。


「……両方、試すことは?」


 その提案に、全員が一瞬固まった。


「部分的に、です」


 セドリックは続ける。


「外縁を正統解で固定」

「中心部を、境界解で調停」


「……リスクが高い」


 ミナが言う。


「はい」


 即答。


「ですが、天秤を測るには、必要です」


 視線が、こちらに向く。


「やれますか」


 逃げ道は、ない。


「……やります」


 リアが、隣に立つ。


「私も」


 ミナは、数秒考え――


「……分かりました」


 条件式を展開する。


 管理の力が、外縁を固める。

 歪みが、内側に押し込められる。


 圧が、増す。


「……今」


 息を整える。


 中心へ。


 触れない。

 壊さない。

 逃がさない。


 ――繋ぐ。


「……ト」


 世界が、軋んだ。


 一瞬、視界が白む。


「……っ!」


 歪みが、跳ねる。

 外縁が、耐える。


 管理と境界が、噛み合わない。


 それでも――


 崩れない。


 歪みは、ゆっくりと静まった。


 消えない。

 だが、暴れない。


 空気が、落ち着く。


「……成功?」


 誰かが、呟く。


 地面に、亀裂は走っていない。

 家屋も、無事だ。


 住民たちが、ざわめく。


「……終わった?」


「……何が起きた?」


 ミナが、静かに息を吐いた。


「被害、ゼロ」


 セドリックが、水晶盤を見る。


「条件安定度……想定内」

「介入ログ……二重記録」


 その声に、僅かな驚きが混じる。


 ミナが、こちらを見る。


「……認めざるを得ませんね」


 小さく、だがはっきりと。


「これは……正統解ではない」

「でも……間違いでもない」


 胸の奥が、静かに鳴った。


 住民の一人が、恐る恐る近づく。


「……何だったんですか?」


 ミナが、一瞬言葉に詰まる。


 そして――


「完全には、消えていません」


 正直に言った。


「でも、もう暴れません」

「この土地と、一緒にあります」


 住民は、不安そうに空を見る。

 それから――頷いた。


「……分かりました」


 それだけ。


 納得ではない。

 理解でもない。


 だが、拒絶ではなかった。


 セドリックが、静かに言う。


「……天秤は、動きました」


 どちらに、とは言わない。


 だが確かに。

 世界は、一つの答えを覚え始めている。


 境界解と正統解。

 相容れないはずの二つが、同じ場所に立った。


 その事実は――

 もう、消せない。


 曇天の雲が、少しだけ切れた。


 差し込む光は弱い。

 それでも――


 確かに、前より遠くを照らしていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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