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全属性適性ゼロと鑑定された俺、〈空欄〉のまま世界の仕様外で生きることにした 〜スキル欄が空白の俺は、なぜか全ての魔法と職業を条件無視で使えるらしい〜  作者: 空白 シオン


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第17話 薄い条件の歪み

 国境の町での生活は、静かに始まった。


 朝は畑の手伝い。昼は簡単な鑑定や修繕の相談。夜は宿で記録をまとめる。

 誰も僕たちを特別扱いしないし、警戒もしない。


 それが、少しだけ心地よかった。


「……不思議ね」


 夜、ランプの灯りの下で、リアが呟く。


「あなたが動いても、数字が暴れない」


「条件が薄いから、ですか」


「ええ。世界の“縛り”が弱い」

「だから、あなたの存在が摩擦を起こしにくい」


 摩擦。

 その言葉は、妙にしっくりきた。


 僕は、何かを壊す刃じゃない。

 ただ、噛み合わない歯車の間に挟まる、油のようなものだ。


 ――そう思っていた。


 翌日、町外れの丘で異変が起きた。


「羊が……消えた?」


 牧童の少年が、泣きそうな顔で訴える。

 柵は壊れていない。血もない。


「またか……」


 町の人々は、どこか慣れた様子だった。


「この辺、昔からあるんだ」

「“抜ける”ことがな」


 抜ける。

 嫌な言い方だ。


 丘に向かうと、空気が変わった。

 制限区域ほどではない。

 だが、確かに――“薄すぎる”。


「……ここ」


 足元の草が、微妙に揺れている。

 風じゃない。時間のズレ。


「リア、下がって」


「え?」


「ここ、境界が――」


 言い終える前に、空間が“凹んだ”。


 音もなく、草地の一部が沈み込む。

 その中心に、黒い裂け目のようなものが浮かんでいた。


「……また、同類?」


 リアが息を呑む。


「いや……違う」


 胸の奥が、強く鳴る。


「これは……**通路**だ」


 条件が薄いからこそ、生まれた“抜け道”。

 世界の外へ零れ落ちる、穴。


 裂け目の奥で、何かが動いた。


「来る……!」


 思考より先に、身体が反応する。

 でも、今回は違った。


 止める?

 塞ぐ?

 それとも――


 選択の瞬間。


 裂け目から、白い影が転がり出た。


「……え?」


 それは、羊だった。


 生きている。

 怯えてはいるが、無傷だ。


 次いで、もう一匹。

 さらに、もう一匹。


「戻ってきた……?」


 牧童が、信じられない顔で呟く。


 裂け目は、ゆっくりと閉じ始めている。


 僕は、そこに手を伸ばした。


「……待て」


 喉の奥が、ほどける。

 だが、今回は――


「……何もしない」


 触れない。

 止めない。

 ただ、見守る。


 裂け目は、自然に消えた。


 残ったのは、丘と、羊と、ざわつく人々。


「今のは……」


 リアが、僕を見る。


「あなた、止めなかった」


「うん」


 息を吐く。


「止めなくて、よかった」


 歪みは、解消された。

 被害も、ない。


 管理も、介入しないだろう。


 条件が薄いからこそ、

 世界は、自分で戻ることができた。


「……境界って」


 リアが、静かに言う。


「全部を制御することじゃないのね」


「多分」


 頷く。


「**戻れる余白を残すこと**」


 その言葉が、胸に落ちた。


 夜。

 丘の上で、一人空を見上げる。


 星は、変わらず瞬いている。


 僕は、初めて思った。


 ――選ばなくていい瞬間も、ある。


 全てを救う必要も、

 全てを管理する必要もない。


 ただ、見極める。


 それができる場所が、

 この“条件の薄い土地”なのかもしれない。


 遠くで、風が吹いた。

 境界をなぞる、優しい風。


 その中で、僕はしばらく立ち尽くしていた。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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