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全属性適性ゼロと鑑定された俺、〈空欄〉のまま世界の仕様外で生きることにした 〜スキル欄が空白の俺は、なぜか全ての魔法と職業を条件無視で使えるらしい〜  作者: 空白 シオン


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第14話 境界に立つ者

 ミナは、集落を離れる前に担架で運ばれた。


 神殿騎士たちは寡黙だった。誰も責めず、誰も慰めない。

 それが、彼らなりの処理の仕方なのだろう。


 僕は、その様子を少し離れた場所から見ていた。

 近づく資格がない気がして。


「……行くわよ」


 リアが、静かに声をかける。


 頷き、集落の外れまで歩く。

 朝霧はすでに薄れ、日が差し始めていた。


「今回の件」


 歩きながら、リアが口を開く。


「ミナは、あなたを責めない」

「でも、神殿は違う」


 分かっている。

 数字が増えた。被害が出た。

 “躊躇”という要素は、記録に残らない。


 残るのは、結果だけだ。


「……俺は」


 声が、少し掠れた。


「止めるのが、怖かった」


 リアは、足を止めた。


「怖いのは、当然よ」


 振り返って、まっすぐに僕を見る。


「あなたが動くと、世界が歪む」

「それを自覚してしまったら、誰だって迷う」


 それでも――


「迷った結果、人が傷ついた」


 事実を、言葉にする。

 逃げないために。


 リアは、否定しなかった。


「ええ」

「だからこそ、今のあなたは“境界”に立っている」


 境界。


 第10話で聞いた、あの言葉。


「管理される側でもない」

「零れ落ちる側でもない」


 リアは、静かに続ける。


「どちらにも触れて、どちらにも傷をつける位置」


 胸が、痛んだ。


「そんな場所に……立ちたくなかった」


「でしょうね」


 リアは、苦笑する。


「でも、もう立ってる」


 その通りだった。


 そこへ、足音が近づいてくる。

 振り返ると、見覚えのある背中。


 レオン・アルバート。


 勇者は、一人で来ていた。

 兜も、外套もない。剣だけを腰に差している。


「……話がしたい」


 彼は、僕の前で立ち止まった。


「今度は、逃げない」


 その言葉に、胸が微かに揺れた。


「ミナから、聞いた」


 レオンは、真っ直ぐに言う。


「君が、止めなかった瞬間があったこと」

「そして……そのあと、止めたこと」


 沈黙。


「俺は」


 彼は、一度拳を握り、開いた。


「正しい選択をすれば、正しい結果が出ると信じていた」


 視線を落とす。


「でも、違った」

「正しくても、足りないことがある」


 それは、勇者が言う言葉として、あまりにも重い。


「……君は」


 レオンが、顔を上げる。


「何になろうとしている?」


 直球だった。


 管理される存在か。

 零れ落ちる存在か。

 それとも――


「……分からない」


 正直に答えた。


「ただ」


 言葉を選ぶ。


「止められるものがあるなら、止めたい」

「でも、そのせいで壊れるものがあるなら……」


 続けられなかった。


 レオンは、しばらく考えてから、言った。


「勇者は、世界を守る役割だ」


 ゆっくりと。


「でも、君は違う」


 視線が、逸れない。


「君は、**世界と人の間**に立っている」


 その表現が、胸に落ちた。


「どちらかを完全に選べば、もう片方は壊れる」

「なら、両方を睨み続けるしかない」


 簡単に言ってくれる。

 でも――


「それは、孤独だ」


 レオンは、はっきりと言った。


「俺には、できない」


 だからこそ、彼は勇者なのだろう。


「……俺も」


 彼は、一歩下がる。


「君を、正しいとは言えない」

「でも、間違いだとも言えない」


 それは、最大限の理解だった。


「次に何か起きたら」


 レオンは、剣の柄に手を置いた。


「俺は、俺の役割を果たす」

「たとえ、君と相反しても」


 脅しではない。

 宣言だった。


「分かりました」


 同じように、答える。


 立場が違う。

 役割が違う。


 でも、同じ現場に立つ可能性は、消えない。


 レオンは、短く頷き、背を向けた。


 去っていく背中を見ながら、思う。


 勇者は、正しい。

 管理者も、正しい。


 そして――

 僕は、そのどちらでもない。


「……境界に立つ者、か」


 呟くと、風が吹いた。

 強くも、弱くもない。


 ただ、境目をなぞるような風。


 リアが、隣に立つ。


「覚悟、できた?」


「……まだ」


 正直に言う。


「でも」


 足元を見る。

 土は、ちゃんとそこにある。


「逃げないとは、決めた」


 リアは、小さく笑った。


「それで、十分よ」


 遠くで、鐘が鳴る。

 新しい一日の始まりを告げる音。


 世界は、相変わらず正しく回っている。


 ただし――


 その歯車の間に立つ存在を、抱えたまま。


 僕は、境界から一歩も動かず、前を見据えていた。


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