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全属性適性ゼロと鑑定された俺、〈空欄〉のまま世界の仕様外で生きることにした 〜スキル欄が空白の俺は、なぜか全ての魔法と職業を条件無視で使えるらしい〜  作者: 空白 シオン


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第13話 止めなかった結果

 現地は、朝霧に包まれていた。


 街外れの小集落。畑と倉庫が点在するだけの、どこにでもある場所だ。

 だが、足を踏み入れた瞬間に分かる。空気が、重い。


「……被害は、この一帯」


 ミナが指し示す。

 崩れた木柵。割れた石壁。地面に残る、引きずられた痕。


 血は、少ない。

 それが、余計に不気味だった。


「鑑定反応は?」


 リアが水晶盤を操作する。


「……出ない」


 短い答え。

 嫌な予感が、胸の奥で形を持つ。


「地下水路と、同じタイプね」


 リアが、低く言った。


「条件に引っかからない。魔物でも、呪いでもない」


 ミナは、頷いた。


「住民の証言では、“何かが来た”だけ」

「姿は、曖昧。音も、ほとんどなかった」


 僕は、ゆっくりと集落の中央へ歩いた。


 足を進めるごとに、胸の奥がざわつく。

 ――近い。

 あの感覚が、濃くなる。


「……アレン」


 リアが、小さく呼ぶ。


「無理しないで」


 頷く。

 でも、足は止まらなかった。


 壊れた倉庫の前で、違和感が頂点に達した。


「ここだ」


 思わず、そう口にしていた。


 ミナが、一歩前に出る。


「……反応は?」


「ない。でも――」


 言葉を切る。


「残ってる」


 “いた”痕跡。

 でも、もう“いない”。


 その瞬間。


 倉庫の影が、わずかに歪んだ。


「下がって!」


 ミナが叫ぶ。


 遅かった。


 空気が、裂ける。

 何かが、そこに“現れかけた”。


 形は定まらない。

 輪郭だけが、世界に引っかかっている。


「……来る」


 喉の奥が、熱くなる。


 使えば、歪む。

 観測される。


 でも――


 ミナが、前に出た。


「封印展開!」


 条件式どおりの術式。

 正確で、完璧で――


 **効かなかった。**


 封印陣が、すり抜けるように歪む。


「……っ!」


 ミナが、歯を食いしばる。


 リアが叫ぶ。


「アレン、今なら――!」


 今なら、止められる。

 分かっている。


 でも。


 頭の中に、ミナの言葉が響く。


 ――あなたがいることで、世界は不安定になる。


 拳を、握りしめる。


 止めなければ、被害が出る。

 止めれば、世界が歪む。


 **選ばない、という選択**が、頭をよぎった。


 ――止めない。


 ほんの一瞬。

 本当に、一瞬だけ。


 その隙を、現象は逃さなかった。


 歪みが、爆ぜる。


「……うわっ!」


 倉庫の壁が、内側から削ぎ取られる。

 破片が飛び、ミナが弾き飛ばされた。


「ミナ!」


 リアが駆け寄る。


 負傷。

 致命傷ではない。

 でも――確実に、被害は出た。


 その光景を見た瞬間。


 胸の奥で、何かが切れた。


「……やめろ」


 声は、低かった。


 喉の奥が、完全にほどける。


「……ノク」


 囁き。


 闇が、現象を包む。

 攻撃ではない。

 破壊でもない。


 ただ――


 **“存在できなくする”**。


 歪みは、抵抗もせず、薄れていった。

 水に落とした墨が、拡散するように。


 静寂。


 残ったのは、壊れた倉庫と、倒れたミナ。


 僕は、膝をついた。

 息が、荒い。


「……遅かった」


 呟きは、誰にも届かない。


 リアが、ミナの状態を確認する。


「骨折。打撲。命に別状はない」


 その言葉に、安堵と同時に、重たいものが落ちた。


 ミナが、薄く目を開ける。


「……見ました」


 かすれた声。


「あなたが……止めるのを、躊躇った」


 否定できなかった。


「……正しかった、ですね」


 ミナの声は、弱々しい。


「あなたがいなければ、被害はもっと大きかった」

「でも……あなたがすぐ動いていれば」


 続きを、言わなかった。

 言う必要がないからだ。


「……ごめんなさい」


 初めて、そう言った。


 ミナは、目を閉じる。


「謝らなくて、いい」


 小さな声。


「これは……私たちの、判断でもある」


 その言葉が、余計に重かった。


 集落の人々が、遠巻きにこちらを見ている。

 恐怖と、不安と、期待。


 その全部が、僕に向いている。


 止められた。

 でも、止めるのが遅れた。


 世界は、歪んだ。

 人は、傷ついた。


 どちらも、事実だ。


 僕は、はっきりと理解した。


 **選ばない、という選択は存在しない。**


 何を選んでも、結果は出る。

 誰かが、傷つく。


 問題は――

 その責任を、引き受けるかどうか。


 空を見上げる。

 霧の向こうに、淡い光。


 世界は、まだ回っている。


 でも。


 その中心に、僕が立っている感覚は――

 もう、錯覚じゃなかった。


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