剣が折れた日/黒蝕.14
僕はこれまで多くの魔王の討伐に力を貸してきた。
か弱い人間のため、後に勇者と呼ばれる人間に力を貸したんだ。
そして、いつしか僕は『勇者の剣』と呼ばれるようになった。
数々の人間が僕を頼り、その期待に僕は応えてきた。
僕は勇者の剣として巨悪に挑む事を誇りに思っていた。
魔王を滅ぼし、世界に光を取り戻していく事の素晴らしさを噛み締めていた。
ある時、とある人間達が僕に魔王の討伐の依頼をしてきた。
当然、僕は受け入れた。
それが僕の使命となっていたからだ。
そして、魔王の拠点へと辿り着いた。
魔王の元には配下すらいない。
僕にとっては勝利する事が確約されているような簡単な討伐だった。
「やはり来たか…。勇者の剣…」
魔王は僕を見て、勝てない事を悟っているようだった。
僕は人間と共に魔王と戦い、葬った。
魔王は倒れた。
「お兄さん!」
すると突然、子供が飛び出してきた。
「子供…?」
僕は驚いていたが、人間達の動きは早かった。
すぐに剣に手をかけ子供を殺そうとした。
「待って!」
僕は咄嗟に彼らを止めてしまった。
「?」
人間達は不思議そうにこちらを見る。
「この子は敵なのか?」
「魔王の仲間なんだろ?敵に決まってるじゃないか。」
そうなのか?
僕は分からなくなっていた。
だが、その葛藤は掻き消された。
その子供が大きな力を放ち始めた。
それは今まで見た事がない程の、膨大で悍ましい力だった。
「下がれ…!」
僕は人間達を止めようとしたが間に合わなかった。
子供が放った闇が人間達を簡単に殺した。
「許さない…!ゆるさない…!ユルサナイ!」
子供の力は止まる事を知らなかった。
「っ!ホーリーレイ…」
僕は技を出そうとしたが、その前に闇が僕を切り裂いた。
血飛沫が上がる。
「お兄さんは、何も悪い事はしてない!お前らに何もしなかったじゃないか!」
…何もしていない?
僕がその言葉の意味を勘繰っている間に闇がこちらまで近づいてきていた。
「っ!ジャッジメント!」
僕は咄嗟に技を出した。
そして、その隙にその場から逃げた。
あのまま戦ったら負けていると分かっていたから。
あの後、僕は子供の言葉について考えていた。
そして気づいた。
魔王の征服している地域にはモンスターが多くいる。
自身の力を周りに振り撒いているからだ。
だが、あの魔王の周りにはそんな現象は見られなかった。
「本当に何もしていなかった…?」
僕は理解した。
人間が闇の力を恐れて一方的に葬ろうとしたのだ。
その恐怖は生存本能のものだ。
悪ではない。
でも、今殺した魔王も悪ではなかった。
僕は『勇者の剣』として悪を消し去った。
その悪は闇なのか…?
光は正義なのか…?
僕が信じてきたものは、見た目だけの偽物だったのか…?
僕は…一体何なんだ…?
理解した。
この世に完全な正義も完全な悪も存在しない。
全ては僕たちが勝手にその境界に物事を当てはめ、互いを拒絶していたのだと。
僕の信じていたものは崩れ去った。
僕は勇者の剣を辞めた。
姿を消して、何事にも関わらず生きていこう。
そう決めた。




