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アナザーロール  作者: 清澄 武
第2章 ルクトルク王国編

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43 ケンタウロス



 城下町にたどり着くと、そこら中の建物が無残にも壊されていた。


 視線の先で、巨大な馬型の怪物が暴れ回っている。


「気をつけろ! ヤツは指名手配中のA級悪魔だ!」


 グレンが言った。


 悪魔は下半身は馬、上半身は人間の姿をしている。人間と馬が合体した一風変わった外見。腕には、大人の男を軽く超えるほどの巨大なオノを握っている。


「俺が正面でヤツの気を引く! 君たちは背後から攻撃してくれ!」


 グレンの指示に仲間たちがうなづく。すぐさま悪魔の背後に回り込むゼロたち。


 夕陽に照らされた怪物が、民家に向かって走っていく。


「どっきなさーーーーい! ケンタウロス様のお通りよーーーーん!」


 四本足の悪魔は、民家の正面にたどり着くと、両手で握った巨大なオノを躊躇ちゅうちょなく振り降ろす。オノは、たったの一撃であっさりと民家の壁を崩してしまう。まるで砂山を崩すように、簡単に民家が崩れさる。


「うーん! やっぱりあたしのオノって、せ・か・い・い・ち!」


 悪魔はオノにほおずりしながら、うっとりしている。


「待て!」


 怪物の隣から、グレンが声を投げかける。


「ああーん?」


 グレンに向き直る悪魔。不審そうな目で騎士団長を見下ろしている。


 グレンの身長は、ゼロよりもずいぶん大きい。だと言うのに巨大な悪魔と並ぶと、まるで子供のように小さく見える。


「物騒なものを振り回すのは、やめてもらおう」


 グレンが言い放つ。


「イヤよ~! いだばかりの、この子の威力をためしてるんだから~」

「ならば罪をつぐなってもらうしかないな」


 グレンが背中のさやからミスリルの剣を抜く。大柄おおがらの剣をゆったりと構えて、怪物と向かい合う。


「……あーら? あんた、今までのザコたちとは一味違うようね」


 グレンの強さを肌で感じ取ったのか、悪魔の表情が一変して険しくなる。


 さすが騎士団長と言うべきか、グレンには一切の隙がない。


 悪魔は、うかつに間合いを詰めてくるようなことはしない。グレンの出方をうかがっているようだ。なかなかに慎重しんちょうで、油断ならない相手だとすぐにわかる。


 その間に、ゼロたちがケンタウロスの背後に音もなく忍び寄る。


「チャンスよ! 悪魔の注意がグレンに向いてるわ」

「私が行く!」


 そう言うとアルルは、腰に帯剣したレイピアを抜き取り、悪魔の背中にける。


 グレンを見下ろした悪魔は、射貫いぬくような冷たい瞳で。


「……はさみうちとは卑怯ひきょうなヤツらね」


 悪魔が冷静に吐き捨てる。


 悪魔の言葉の意味を理解したのだろう。グレンがハッとする。


「待てアルル!」


 騎士団長は強い口調でアルルを制止する。


 しかし間に合わなかった。少女はすでに地面をっていた。


 空中のアルルは、怪物の背中にためらいなく突きを放った。鋭利な先端が無防備な怪物の背中に迫る。


 同時、ケンタウロスが、敏速びんそくに上半身をひねり、背後に迫るアルルに向き直る。悪魔とアルルの目が合う。


(気づかれた!)


 アルルの表情がこわばる。しかし空中にある体は、もう止まれない。剣士はレイピアを悪魔に突き放った。


「はあああっ!」


 気合のこもった攻撃。剣先が悪魔のノド元に襲いかかる。


 直後、悪魔は前腕を横に構えてレイビアの軌道をさえぎる。攻撃を妨害ぼうがいされたレイピアが、悪魔の腕にぶつかる。その瞬間、少女の腕がはね返される。


「くっ!」


 アルルの顔がゆがむ。


(なんて硬さ! 刃がまるで通らない!)


「あたしの体毛は鋼鉄よりも堅いのよ! そんなナマクラはかないわよーーーーッ!」


 悪魔が腕を乱暴に振り払う。


「きゃあああっ!」


 宙に投げ出されたアルルが、体勢を崩す。


「死になさーい!」


 言いながら悪魔がオノを振り上げる。そして。


「人間斬りィィィィーーーー!」


 ケンタウロスが、無防備なアルルのボディにオノを振り下ろす。


 絶体絶命のアルル。サーニャがあわてて目を見開く。


「まずいわ!」


 家をすら一撃で破壊する大オノが少女を襲う。


 アルルは完全に体勢を崩している。とてもオノから逃げられそうにない。しかしオノは、アルルに激突する寸前で、どういうわけか動きを止めた。


「何!?」


 攻撃者である悪魔が動揺している。


(腕が……動かない……?)


 その隙にアルルは宙で体勢を整えると、怪物の足元に着地した。少女は、なんとかピンチを切り抜けることに成功する。


 アルルに向いていたケンタウロスの顔が、ゆっくりと後ろに向く。


「いい馬、見ーーーーっけ!」


 悪魔の背中で、ゼロはゴキゲンだった。銀髪の少年は、悪魔の腕を握ってその動きを止めている。


「あんた誰!」

「俺は勇者だ」


 ケンタウロスに怒鳴りつけられたゼロは、いつものセリフを返した。


「勇者ですってぇ?」


 悪魔は、ほおをピクピクと引きつらせると、土足で背中に乗っているゼロを睨みつけて。


「ナマイキよ! あんたから先にほうむってあげるッ!」


 ゼロは軽やかに後方へ飛んで、ケンタウロスの足元に着地する。


 怪物は両手で握った大オノを大きく振りかぶると。


「あたしのオノは大地すらくのよ!」


 そう言って思い切りオノを振り下ろしてきた。


地裂斬ちれつざんーーーーッ!」

「まずい! よけろゼロ!」


 背後からグレンが逃げるようにうながしてくる。


 丸腰のゼロに、大オノが襲いかかる。怒り任せに放たれた一撃は、先ほどよりもさらに威力が増している。


 ぱしっ!


 小気味のいい音だった。


 ゼロはオノを片手でつまんだ。巨大なオノが一瞬で動きを止めた。


「――な!?」


 グレンの表情が驚愕にまる。


「ぐお!?」


 ケンタウロスもグレンと同じ反応。


「あ、あたしのオノを片手で……!」


 ケンタウロスが目に見えて動揺する。渾身こんしんの攻撃が、こんな小さな少年に止められたのだから無理はない。しかも素手で。さらに片手。


 しかしさすがはA級悪魔。すぐにわれに返ると、両腕にさらなる力をこめてくる。オノを押しつけ、少年を両断しようと躍起やっきになる。


「ぐ、ぐぐ……。うおおおおおーーーー!」


 怪物がうめく。巨大な刃は、時が止まってしまったかのように微塵みじんも動かない。


 その光景に、グレンが目を見開き唖然あぜんとする。


(あ、ありえん! 悪魔の攻撃を……か、片手で!)


 汗だくで、もがく怪物。しかしオノはピクリともしない。


「なんなのよ、この子ーーーー!」


 自慢の武器をふうじられた怪物が、足元の少年をにらみながらゼエゼエと息を切らす。と。


「……うふふ。だったら!」


 急に企むような笑いをこぼすケンタウロス。


 と、次の瞬間、ケンタウロスは巨大な前足でゼロの腹をり飛ばした。完全なる不意打ち。攻撃をまともに食らったゼロの身体が、宙に浮く。


 グレンがとっさに首を後ろに回す。視線の先でゼロが飛ばされていく。


「まずい! 直撃だ!」

「はい死んだー。馬の前足は最強ー」


 怪物が勝利を確信する。


 しかし後方に吹っ飛ぶゼロは、空中でクルクルと回転すると、なにごともなかったかのように、あっさりと着地した。ひるがえった漆黒のマントが、ワンテンポ遅れてゼロの足元に沈み込む。


「「なっ!?」」


 悪魔とグレンが同時に反応する。


 少年は表情を変えずに悪魔を指さす。


「馬の脚力きゃくりょくは後ろ足の方が強い。お前ほんとうに馬か?」

「なーーーーんですってーーーー!」


 強烈きょうれつな一撃を食らったはずなのに、ゼロは、まるでダメージを受けていない。


 グレンのひたいから汗が流れる。


(バ、バカな……。直撃だったはず! いったいどうなっている!?)


 周りを見回すゼロ。多くの民家が破壊されているとはいえ、無事な民家も無数にある。さらに倒れているケガ人も大勢いる。


(人や民家が多い……。これじゃあ勇者の剣が使えない……)


 ここで勇者の剣を使えば住人にも被害が出る。最大の武器を使えず、ゼロが攻めあぐねる。その時。


「痛ってえええええええッ!」


 とつぜん、馬の悪魔が絶叫する。


 騎士団長のグレンが、油断している怪物の腕に切りかかったのだ。


 怪物の前腕に切り込みが入り、血がき出す。


 ミスリルの剣は、鋼のように固い怪物の皮膚をあっさりと切りいた。


「チックショーーーー! よくもあたしにキズをーーーー!」


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