43 ケンタウロス
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城下町にたどり着くと、そこら中の建物が無残にも壊されていた。
視線の先で、巨大な馬型の怪物が暴れ回っている。
「気をつけろ! ヤツは指名手配中のA級悪魔だ!」
グレンが言った。
悪魔は下半身は馬、上半身は人間の姿をしている。人間と馬が合体した一風変わった外見。腕には、大人の男を軽く超えるほどの巨大なオノを握っている。
「俺が正面でヤツの気を引く! 君たちは背後から攻撃してくれ!」
グレンの指示に仲間たちがうなづく。すぐさま悪魔の背後に回り込むゼロたち。
夕陽に照らされた怪物が、民家に向かって走っていく。
「どっきなさーーーーい! ケンタウロス様のお通りよーーーーん!」
四本足の悪魔は、民家の正面にたどり着くと、両手で握った巨大なオノを躊躇なく振り降ろす。オノは、たったの一撃であっさりと民家の壁を崩してしまう。まるで砂山を崩すように、簡単に民家が崩れさる。
「うーん! やっぱりあたしのオノって、せ・か・い・い・ち!」
悪魔はオノにほおずりしながら、うっとりしている。
「待て!」
怪物の隣から、グレンが声を投げかける。
「ああーん?」
グレンに向き直る悪魔。不審そうな目で騎士団長を見下ろしている。
グレンの身長は、ゼロよりもずいぶん大きい。だと言うのに巨大な悪魔と並ぶと、まるで子供のように小さく見える。
「物騒なものを振り回すのは、やめてもらおう」
グレンが言い放つ。
「イヤよ~! 研いだばかりの、この子の威力をためしてるんだから~」
「ならば罪を償ってもらうしかないな」
グレンが背中の鞘からミスリルの剣を抜く。大柄の剣をゆったりと構えて、怪物と向かい合う。
「……あーら? あんた、今までのザコたちとは一味違うようね」
グレンの強さを肌で感じ取ったのか、悪魔の表情が一変して険しくなる。
さすが騎士団長と言うべきか、グレンには一切の隙がない。
悪魔は、うかつに間合いを詰めてくるようなことはしない。グレンの出方をうかがっているようだ。なかなかに慎重で、油断ならない相手だとすぐにわかる。
その間に、ゼロたちがケンタウロスの背後に音もなく忍び寄る。
「チャンスよ! 悪魔の注意がグレンに向いてるわ」
「私が行く!」
そう言うとアルルは、腰に帯剣したレイピアを抜き取り、悪魔の背中に駆ける。
グレンを見下ろした悪魔は、射貫くような冷たい瞳で。
「……はさみうちとは卑怯なヤツらね」
悪魔が冷静に吐き捨てる。
悪魔の言葉の意味を理解したのだろう。グレンがハッとする。
「待てアルル!」
騎士団長は強い口調でアルルを制止する。
しかし間に合わなかった。少女はすでに地面を蹴っていた。
空中のアルルは、怪物の背中にためらいなく突きを放った。鋭利な先端が無防備な怪物の背中に迫る。
同時、ケンタウロスが、敏速に上半身をひねり、背後に迫るアルルに向き直る。悪魔とアルルの目が合う。
(気づかれた!)
アルルの表情がこわばる。しかし空中にある体は、もう止まれない。剣士はレイピアを悪魔に突き放った。
「はあああっ!」
気合のこもった攻撃。剣先が悪魔のノド元に襲いかかる。
直後、悪魔は前腕を横に構えてレイビアの軌道を遮る。攻撃を妨害されたレイピアが、悪魔の腕にぶつかる。その瞬間、少女の腕がはね返される。
「くっ!」
アルルの顔がゆがむ。
(なんて硬さ! 刃がまるで通らない!)
「あたしの体毛は鋼鉄よりも堅いのよ! そんなナマクラは効かないわよーーーーッ!」
悪魔が腕を乱暴に振り払う。
「きゃあああっ!」
宙に投げ出されたアルルが、体勢を崩す。
「死になさーい!」
言いながら悪魔がオノを振り上げる。そして。
「人間斬りィィィィーーーー!」
ケンタウロスが、無防備なアルルのボディにオノを振り下ろす。
絶体絶命のアルル。サーニャがあわてて目を見開く。
「まずいわ!」
家をすら一撃で破壊する大オノが少女を襲う。
アルルは完全に体勢を崩している。とてもオノから逃げられそうにない。しかしオノは、アルルに激突する寸前で、どういうわけか動きを止めた。
「何!?」
攻撃者である悪魔が動揺している。
(腕が……動かない……?)
その隙にアルルは宙で体勢を整えると、怪物の足元に着地した。少女は、なんとかピンチを切り抜けることに成功する。
アルルに向いていたケンタウロスの顔が、ゆっくりと後ろに向く。
「いい馬、見ーーーーっけ!」
悪魔の背中で、ゼロはゴキゲンだった。銀髪の少年は、悪魔の腕を握ってその動きを止めている。
「あんた誰!」
「俺は勇者だ」
ケンタウロスに怒鳴りつけられたゼロは、いつものセリフを返した。
「勇者ですってぇ?」
悪魔は、ほおをピクピクと引きつらせると、土足で背中に乗っているゼロを睨みつけて。
「ナマイキよ! あんたから先に葬ってあげるッ!」
ゼロは軽やかに後方へ飛んで、ケンタウロスの足元に着地する。
怪物は両手で握った大オノを大きく振りかぶると。
「あたしのオノは大地すら裂くのよ!」
そう言って思い切りオノを振り下ろしてきた。
「地裂斬ーーーーッ!」
「まずい! よけろゼロ!」
背後からグレンが逃げるようにうながしてくる。
丸腰のゼロに、大オノが襲いかかる。怒り任せに放たれた一撃は、先ほどよりもさらに威力が増している。
ぱしっ!
小気味のいい音だった。
ゼロはオノを片手でつまんだ。巨大なオノが一瞬で動きを止めた。
「――な!?」
グレンの表情が驚愕に染まる。
「ぐお!?」
ケンタウロスもグレンと同じ反応。
「あ、あたしのオノを片手で……!」
ケンタウロスが目に見えて動揺する。渾身の攻撃が、こんな小さな少年に止められたのだから無理はない。しかも素手で。さらに片手。
しかしさすがはA級悪魔。すぐに我に返ると、両腕にさらなる力をこめてくる。オノを押しつけ、少年を両断しようと躍起になる。
「ぐ、ぐぐ……。うおおおおおーーーー!」
怪物がうめく。巨大な刃は、時が止まってしまったかのように微塵も動かない。
その光景に、グレンが目を見開き唖然とする。
(あ、ありえん! 悪魔の攻撃を……か、片手で!)
汗だくで、もがく怪物。しかしオノはピクリともしない。
「なんなのよ、この子ーーーー!」
自慢の武器を封じられた怪物が、足元の少年を睨みながらゼエゼエと息を切らす。と。
「……うふふ。だったら!」
急に企むような笑いをこぼすケンタウロス。
と、次の瞬間、ケンタウロスは巨大な前足でゼロの腹を蹴り飛ばした。完全なる不意打ち。攻撃をまともに食らったゼロの身体が、宙に浮く。
グレンがとっさに首を後ろに回す。視線の先でゼロが飛ばされていく。
「まずい! 直撃だ!」
「はい死んだー。馬の前足は最強ー」
怪物が勝利を確信する。
しかし後方に吹っ飛ぶゼロは、空中でクルクルと回転すると、なにごともなかったかのように、あっさりと着地した。ひるがえった漆黒のマントが、ワンテンポ遅れてゼロの足元に沈み込む。
「「なっ!?」」
悪魔とグレンが同時に反応する。
少年は表情を変えずに悪魔を指さす。
「馬の脚力は後ろ足の方が強い。お前ほんとうに馬か?」
「なーーーーんですってーーーー!」
強烈な一撃を食らったはずなのに、ゼロは、まるでダメージを受けていない。
グレンの額から汗が流れる。
(バ、バカな……。直撃だったはず! いったいどうなっている!?)
周りを見回すゼロ。多くの民家が破壊されているとはいえ、無事な民家も無数にある。さらに倒れているケガ人も大勢いる。
(人や民家が多い……。これじゃあ勇者の剣が使えない……)
ここで勇者の剣を使えば住人にも被害が出る。最大の武器を使えず、ゼロが攻めあぐねる。その時。
「痛ってえええええええッ!」
とつぜん、馬の悪魔が絶叫する。
騎士団長のグレンが、油断している怪物の腕に切りかかったのだ。
怪物の前腕に切り込みが入り、血が噴き出す。
ミスリルの剣は、鋼のように固い怪物の皮膚をあっさりと切り裂いた。
「チックショーーーー! よくもあたしにキズをーーーー!」




