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アナザーロール  作者: 清澄 武
第2章 ルクトルク王国編

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42/61

42 襲撃


「あー、気にしないで! ただの口癖なのよ」


 紫がかった長髪の少女サーニャが、慌ててゼロの言葉を否定する。そして今度は腰に手を当てると、不満気な顔をゼロに突きつける。


「ちょっとゼロ? お姫様の前で変なこと言わないでよね! はずかしいから!」

「だってホントのことじゃん?」

「あんたの中ではね」

「いいや、俺は勇者だ」


 軽くあしらわれても、ゼロは一歩も引かない。


「自信だけは満々ね。根拠こんきょはなによ?」

「根拠ぉ? そりゃあ、アレだよ。その~」


 言葉に詰まり、ゼロの視線が泳ぐ。必死になって考えるも、言葉の先を見つけることができない。


「ほ~ら、無いじゃない。この自称勇者!」

「ふっ。なんとでも言うがいい。“自称”天才魔法使い!」

「なーんですってー!」


 ぷりぷり怒ったサーニャが追いかけてくる。謁見の間で、のんきに追いかけっこする二人。そんなゼロたちを見て、ラトナが「ふふっ」と笑いをもらす。しょうもないことでいがみ合っている二人を見て、少女は、なんだか幸せそうな顔を浮かべている。しばらくすると、しょうもない追いかけっこは幕を下ろす。


「大丈夫だよ! ゼロは私の勇者だからね!」


 アルルが健気けなげにもフォローしてくれた。


「う、うん……」


 気を使わせてしまったみたいで、ちょっぴり気まずいゼロ。


 ふとグレンの姿が目に入る。騎士団長は、銀色に輝くフルプレートアーマーに、首から下を隠している。見るからに重装で、堅苦しそうだ。


「重そうな鎧だなー。しんどくないの?」


 ゼロが率直な感想を、騎士にぶつける。当のグレンはゴツい鎧を着ていると言うのに涼しい顔をしている。


「この鎧はミスリル製だ」

「ええ! すごっ!」


 とつぜん興奮するサーニャ。


「ミスリルってなんなのだ?」


 クゥが瞳をぱちくり。と、サーニャが。


「恐ろしく軽い金属よ。しかもメチャクチャ堅いから武器や防具に最適ね。ま、レア素材だから、めったに手に入らないけど」


 レア素材。その言葉にゼロの目つきが変わる。


「レ、レア素材だって!? す、すごひ……」


 うっとりとした瞳で、銀色に輝く鎧を見つめる少年。


「詳しいな」


 騎士が初めて笑顔を見せる。博識なサーニャに感心しているようだ。


 ふっとほくそ笑んだサーニャは、得意げに髪をかきあげると。


「天才魔法使いは、なんでも知っているってね!」


 ほめられたことで魔法使いは得意げ。


「サーニャは物知りだぞ!」


 クゥもサーニャをほめる。


「おーっほっほっほ! もっとほめていいのよ!」

「サーニャすっごーい!」


 アルルが満面の笑顔で拍手する。


「あーっはっはっは! あたしは天才魔法使い!」

「……お前らの人生楽しそうだな」


 実にお気楽な仲間たち。彼女らの生き方がゼロは心底うらやましくなる。


 グレンは、背中にたずさえた巨大な剣の柄を握り込む。ゆっくりとさやから抜くと、体の前で構えた。さすが騎士団長と言うべきか、その立ち姿は様になっている。


「この剣もミスリル製だ」


 銀色の刀身が美しい輝きを放つ。


「こ、これがレア素材の剣……!」


 ごくり。ツバがノドを落ちていく。光を放つ刀身を、うっとりと見つめているとグレンが。


「握ってみるか?」

「いいのか!?」


 超レアなミスリルの剣を、何と触らせてくれるらしい。実に気前がいい。グレンは、剣先を下にして逆手に握ると、ゼロに差し出す。


「す、すげえ! 羽みたいに軽い!」


 構えてみると、大剣はサイズに反して驚くほど軽い。これだけ軽ければ力の弱い者でも簡単に扱えるだろう。ならば、力の強い者が使えば? 当然恐ろしい威力を発揮するだろう。グレンの腕前は、王女の紹介によれば“王国一の剣の使い手”。そう評される彼がミスリルの剣を使えば、鬼に金棒だろう。


 ゼロが指先で刀身をノックすると、硬質な音が返ってくる。恐ろしく硬い剣であることが、指先の感覚でわかる。


「刃には触れるなよ。指が飛ぶぞ」


 そう言うとグレンは、まじまじとゼロを見つめる。


(まるで隙だらけ。よくこれでバズージャに勝てたものだ)


 ミスリルの剣は美しい輝きを放つ。いつかこんな武器を手に入れてみたい、なんてことをゼロは思った。勇者が剣を使って戦うのはゼロの勇者観から外れていない。むしろかっこいいと思っている。ゼロは、なめるようにミスリルの剣を堪能たんのうすると、グレンに返した。


 その時、ゼロに違和感。どこかから見られている気がする。視線を泳がせてみると、それが思い込みではないことがわかった。ラトナ姫がこちらを見つめていた。


「どうかしたか?」


 不思議に思ってたずねると、玉座に座した王女は何かを語り出そうとした。と。


「待て。なにか外が騒がしい」


 グレンがいぶかしげな顔で言った。


 ゼロもすぐに異変に気づいた。外から叫ぶような声が聞こえてくるのだ。


 グレンが走り出す。ゼロたちも後を追う。


 城下町に面するバルコニーに出た。この場所からは黄昏時たそがれどきの城下町が一望できる。グレンが険しい顔で町を見下ろしている。


「町が襲われている!」

「なんてこと……」


 グレンの隣でラトナ姫が言葉を失う。


 城下町のところどころからは、火の手が上がっていた。絶え間なく悲鳴が聞こえる。何者かが城下町を襲撃しているのだ。


「ひどい……!」


 アルルが悲痛な表情になる。


「ちょっとどこのアホよ! 町を襲ってるアホは! どうしようもないアホね!」


 アホ連呼の魔法使い。


「ムムムッ……! 許せないぞ!」


 クゥがめずらしく息巻く。ゼロも同じ気持ちだった。


「討伐に向かいます!」


 そう言うと、グレンは隣にいるゼロに顔を向けて。


「ゼロ殿」


 ふいに名を呼ばれたゼロが、城下町から視線を外して、青髪の騎士を見る。


「手伝ってくれないか?」


 グレンはゼロに悪魔退治のサポートを依頼してきた。


「いいぜ! 俺は勇者だしな」


 ゼロは騎士団長の申し出を快諾かいだくする。


「まーだ言ってる」

「なんだよ、お前も来るだろ? “自称”天才魔法使いさん?」

「なーんですってー!」


 顔を真っ赤にしたサーニャが、地団太じだんだを踏む。


「まあまあサーニャ! みんなで行こうよっ!」


 いまにもゼロに襲いかかろうとするサーニャに、後ろから抱き着いて止めるアルル。


「ウム。ボクらが協力すればどんな相手にも負けないぞ!」


 クゥもやる気十分。


 グレンが無言のまま、ゼロの全身に視線をわす。


(バズージャを倒したこいつの実力、この目で確かめてやる)


「そういやラトナ、なにか言おうとしてなかったか?」

「それは――」

「今は緊急時。また後で話せばよかろう」


 姫の隣にいる、フードを目深にかぶった少女――ルドラが姫の言葉をさえぎった。


「そ、そうですね……」


 ラトナ姫は素直に言葉を引っ込める。しかしその顔は何かを言いたそうだ。


「じゃあ行ってくるぜ!」


 そう言い残してゼロがその場を立ち去ろうとした時。


「ゼロ」


 姫に呼び止められる。


「うん?」


 少女のやさしそうな瞳と目が合う。姫は自分から話しかけておいて、なかなか続きを喋り出そうとしない。さっきまでは饒舌じょうぜつにしゃべっていたのに、なぜか急に歯切れが悪くなる。ついにはゼロの視線から逃げるように、目線をそらしてしまった。


「……いえ、なんでもありません。どうか気をつけて」


 ラトナは、なぜか言葉をにごす。ゼロは、ラトナ姫の様子が気になったものの、今は城下町に急いだ。


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