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アナザーロール  作者: 清澄 武
第2章 ルクトルク王国編

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36/61

36 武道大会決勝2


「バズージャ選手は、ここまでの全試合をビンタ一発で勝ち上がっています! 対するゼロ選手も、素早い動きで相手をほんろうし、無傷! 両者、まだまだ秘めた実力がありそうです!」


 レフェリーの説明を聞く限りでは、試合の結末は予想がつかない。


 この時点で、バズージャの実力は未知数。もしもバズージャが、ゼロの想像を超える力を持っていた場合、敗北もあり得る。さらに、この武道大会にはルールがある。仮にゼロのほうが強さで勝っていたとしても、ルール上、負けに追い込まれたら、負けは負け。


 ゼロはめずらしく緊張していた。


「本大会では10カウントルールを採用しております! ダウンして10カウント以内に立ち上がれない場合、その時点で負けが決定いたします! また、降参したり、場外に体の一部が触れても、負けとなります!」


 ダウンからの10カウント。場外への接触。ギブアップ。このいずれかの条件を満たした時点でゼロの敗北が決定する。逆に言えば、バズージャをその状況に追い込みさえすれば、ゼロの勝ち。とはいえ、バズージャの巨体を場外させるのは相当難しいだろう。となると残された道は10カウント勝利だけ。


「では、いきましょう! ルクトルク王国武道大会決勝戦! 始めーーーーーーーーーーーーーっ!」


 試合開始の合図とともに、ゼロが即座にリングを蹴る。


「おおーっとゼロ選手! さっそく仕掛けたーーーーーーー!」


 飛び上がったゼロが、一直線にバズージャの顔に迫る。目の前に迫った巨大なおでこに向けて、右手の人差し指を超高速で突き出す。これまでの大半の相手を、ゼロはこの一撃で倒してきた。


(もらった!)


 ゼロの指先がバズージャに触れる瞬間、その動きがピタリと止まった。


「なにっ!?」


 同時、全身に違和感。ゼロはその原因にすぐに気づく。少年の全身は、バズージャの大きな手につかまれていたのだ。


「おっと。それはヤバいやつ」


 バズージャは、ゼロの攻撃をあらかじめ警戒していたのか、宙にいる少年をいともたやすく捕まえた。ゼロのスピードは人間離れしている。だというのに、バズージャは何事もなかったかのようにゼロの自由を奪う。


 身動きが取れないまま、ゼロが巨人の手の中でもがく。


 観客席の最前列で応援しているサーニャが。


「な、なによアイツ! デッカイくせに、素速いわね!」


 バズージャが、ゼロを掴んだ手を頭上高く持ち上げる。


 少年はもがくが、なかなか脱出できない。


(くっ……。なんて怪力だ……!)


 と、巨人は、ゼロを思い切り、リングに叩きつける。


 ゼロの全身に衝撃が走る。


 強化石材でできたリングが砕けて、破片が飛び散った。まったく受け身を取れないまま背中から叩きつけられたゼロが、リングにめり込む。


「ゼ、ゼロ選手、激しく叩きつけられたーーーーー!」


 レフェリーの絶叫が会場にこだまする。動揺しているのか、その声はかすかに震えていた。受け身なしでの背中からの直撃は、かなり危険だ。


「し、信じられません! 強化素材のリングに穴があいてしまいましたーーーーー!」


 サーニャの隣で、アルルが表情をこわばらせる。


「ま、まずい! モロだよ!」


 倒れているゼロの元にレフェリーが歩み寄る。ゼロは砕けたリングの上に倒れたまま動かない。


「ゼ、ゼロ選手、ダウーン! カウントを取ります! 1! 2!」


 少年を見下ろした審判が、腕を振ってカウントを始める。


「な、なんでゼロが負けているのだ!?」


 アルルの隣で、クゥが取り乱す。


 その間にもカウントは無情にも進んでいく。


「ごめんね~。こんな高そうなリング壊しちゃって」


 微笑びしょうを浮かべたバズージャが申し訳なさそうに謝る。その巨体は、試合開始時から、一歩も動いていない。


「ありゃ。もしかして死んじゃった?」


 まったく動く気配を見せないゼロを、バズージャがのぞきこむ。


「7! 8!」


 カウントが8に達した時、倒れているゼロがリングにあいた穴から勢いよく飛び上がる。漆黒のマントが激しくなびく。


「おおーっと! ゼロ選手、飛び上がったーーーーーー!」


 レフェリーが宙に浮くゼロを見上げる。


 少年はリングに開いた穴の隣に音もなく着地する。 


「続けますか?」

「うん」


 軽い口調で、レフェリーに戦う意思を表明する。ゼロは、この大会初のダウンを取られた。しかしそのことで、むしろさっきまでの緊張が吹っ飛ぶ。一発いい攻撃を食らったことで、試合直後の気負きおいがウソのように消えていく。


「ゼロ選手無事です! あれだけの攻撃を受けて、まだ戦う意思が残っています!」


 立ち上がったゼロに、大勢の観客が熱烈な声援と拍手を送る。

 アルルが「ほっ……」と胸をなでおろす。


「タフだねぇ、君!」


 背中からの直撃を受けてもピンピンしているゼロ。バズージャはそんな少年に目を輝かせる。


「ほ~ら、今度は君の番だ。打ってきなよ」


 バズージャが両手を広げた。その姿は完全に無防備。


「なんだと?」


 ゼロがピクリと眉を動かす。


「君は僕の一撃に耐えた。今度は僕が君の攻撃に耐える番だ」


 そんな意味の分からないことをバズージャが言ってくる。そんなことをしても自分が不利になるだけなのに。けれど、その言葉が本気なら、ゼロにとってはまたとないチャンスだが……。


「ずいぶん余裕だな。一撃で終わりになるかもよ?」

「ワクワクするねえ」


 巨人は、ゼロの軽口にも余裕の反応。その態度から察するに、どうやら冗談ではないらしい。バズージャは本気でゼロの攻撃を受けて立つつもりだ。ゼロの常人離れした攻撃力は、A級悪魔すら圧倒する。そんな攻撃を受けたら、普通の人間なら、ただではすまない。


「後悔するなよ!」


 力強く言い放つと、ゼロは走り出す。巨人の足元にたどり着いた瞬間、リングを蹴って飛び上がる。その跳躍ちょうやくが巨人の腹の高さに達したとき。


「はあああっ!」


 ゼロは腕を振りかぶると、渾身のパンチをバズージャの無防備な腹に、お見舞いした。と。


「なに!?」


 拳が腹に触れた瞬間、二の腕までが一気に、肉の中に飲み込まれた。


「僕の分厚い脂肪は、あらゆる攻撃を無効化しちゃうよ~。いわば天然の防具ってやつさ!」


 引き抜こうと抗うも、腕はさらに飲み込まれていく。すさまじい吸引力になすすべがない。あっという間に肩の近くまでが、分厚い脂肪に包み込まれてしまう。身動きが取れないでいると、バズージャがパチッとウインクする。


「君の腕の長さじゃ僕の急所には絶対に届かないよ~!」


 ゼロがもがいていると、巨大な両手が全身を包み込んできて、なすすべもなく、引っ張られる。すぽっと腕が抜けて、そのまま巨人の頭上に持ち上げられる。


「うお!?」


 上下さかさまに持ち上げられてしまう。視線の先に広がる強化石材のリングが、いやというほど良く見える。


「どうだい。いい眺めだろ~?」


 と、次の瞬間、静止していたリングが、急激に近づいてくる。


「うわああああああああああっ!」


 抗おうにもどうにもならない。ゼロであっても、巨人のパワーから抜け出すことができない。身動きが取れないまま、頭からリングに叩きつけられる。


 辺りに、すさまじい衝撃が伝わり、同時に強化石材のリングに新しい穴が開く。リングから飛び出した少年の足が、ピクピクとケイレンする。ゼロの上半身は完全にリングに埋まっていた。


「はい、二回目~」


 意気揚々とゼロを見下ろすバズージャ。


「ああーーーーっ! こ、これは危ない! ゼロ選手、頭から叩きつけられましたーーーーーー!」


 観客席のサーニャが、大口を開いてリングに叫ぶ。


「はあ!? うちのバケモンをぶっ飛ばすとか、どんなバケモンよ!」


 紫髪の魔法使いは「どうなってんのよー!」と叫びながらジタバタ暴れる。


「ムム……。ヒール打つか?」


 タラリと汗をたらしたクゥが、背中の杖に手をかける。


「ダメ―! 反則負けになっちゃう!」


 アルルが急いで止めると、クゥは歯がゆそうに。


「ムググ……」


 唇をかんでうめく。

 リングではレフェリーのカウントが進んでいく。


「6! 7! 8!」

「ま、まずいよ! このままじゃゼロが負けちゃう!」


 あわわわ……と取り乱すアルル。


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