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アナザーロール  作者: 清澄 武
第2章 ルクトルク王国編

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34/61

34 アルル



「準決勝第一試合はバズージャ選手の勝利です!」


 リングの上でレフェリーが高らかに宣言する。

 最初に決勝へのコマを進めたのはバズージャだった。やはりというべきか、バズージャは準決勝の相手にも危なげなく勝利した。これにより、決勝に進んだ場合、彼との対戦が確定した。しかしその前に準決勝を勝ち抜く必要がある。

 ゼロは再びリングに上るのだった。


「準決勝第二試合! ゼロ選手VSアルル選手!」


 リングの中央で二人が向かい合う。

 対戦相手のアルルは、腰に刺突剣レイピアを帯剣している。クリッとした瞳は薄ピンク色。髪は淡いピンク色で、腰のあたりまで伸びている。クルンとした巻き毛でボリュームがあり、小柄な少女をいくらか存在感あるものにしていた。白い半そでのブラウスを着て、膝上丈の黒いキュロットを履いている。年齢はゼロと同じくらい。


「ここまでの試合、ゼロ選手は不思議な戦術を使い、無傷で勝ち進んでいます! 対するアルル選手も素晴らしい剣技で相手を圧倒! ゼロ選手同様、無傷で準決勝にのぞみます!」


 猛者もさぞろいの大会において、いまだノーダメージとは、対戦相手の少女も、どうやら相当な使い手らしい。


「あのお姉さん……」


 何か思うことでもあったのか、観客席の最前列にいるクゥが、神妙しんみょうな顔で黙り込む。


「あら、知り合い?」


 いつになく真剣なクゥに、サーニャがたずねる。


「乳でけぇ!」


 でかい声で叫んだクゥは、アルルを見つめたまま。


「ぼよん!」


 その後、サーニャの胸を見て。


「すかっ」


 両者の胸囲には圧倒的な差がある。はっきり言って勝負にならないほどに。

 クゥに胸をロックされたサーニャは、髪をかき上げて「ふっ」と余裕の笑み。そして、やれやれと首を振り。


「乳のデカさと魔力のデカさは無関係」


 なぜか勝ちほこった顔の魔法使い。

 一方、リングの上では二人の戦士がにらみ合う。

 アルルは、しなやかな動きで腰からレイピアを抜くと、剣先をゼロに向けて構えた。銀色の細い刀身が、を反射させて輝く。


「あと二試合……」


 つぶやくと、少女は鋭い目つきで。


「あなたがそうだといいんだけど」


 何のことか分からず、ゼロは不審がる。


(なんの話だ?)


 そうこうしていると、レフェリーが試合の開始を合図する。


「始め!」


 その瞬間、深く踏み込んできたアルルが、ゼロの胸元目がけて突きを放った。


「はーーーーーーーーーっ!」


 レイピアの鋭利な先端が、ゼロに打ち込まれる。あまりの速さに、剣が残像を描く。ゼロは真横にステップを踏んで、紙一重で攻撃をかわす。


 それも束の間、アルルが二の手を打ってくる。その剣先は正確にゼロの胸を狙う。ゼロは攻撃の軌道から、わずかに横にれる。今度もギリギリかわす。しかし少女は止まらない。次々と攻撃を放ち、ゼロが休むスキを一切与えない。


「は、速いっ! アルル選手、すさまじい剣さばきです!」


 観客席の最前列で、サーニャが目を見開く。


「すごっ! 何者よ、あの子」

「やりおる!」


 興奮したクゥが、最前列の壁から身を乗り出す。


 強い。ゼロは確信する。ぱっと見はただのお嬢さんなのに、今までの対戦相手をはるかにしのぐ戦闘センス。この見た目にだまされては、勝負を持っていかれる。ゼロは気を引き締める。


 次々と打ち込まれる剣技を、ゼロは人間離れした体さばきでかわす。しかし、かわすだけで一切の反撃を行わない。これほどの連打を浴びたら、一流の戦士であっても反撃は難しい。


「ゼロ選手、防戦一方だぁーーーーーーーっ!」


 アルルは一切、手を休めず、嵐のように攻撃を浴びせ続ける。小さな体のどこにそんな体力があるのか、少女は息一つ乱さない。


 対するゼロも、激しい攻撃を紙一重でかわし続ける。少女の繰り出す連撃は、スピードもさることながら、圧力もすさまじい。一撃でも食らえば大ダメージはまぬがれない。


 試合開始直後から両者は一切止まることなく動き続ける。だというのに、どちらもバテる気配はない。


(キリがないな。……よし)


 状況を変えるべく、ついにゼロが仕掛ける。


「ゼ、ゼロ選手、消えたーーーーーーーーー!」


 ゼロの姿が一瞬にしてリングから消えた。

 ベッゾの時と同じ展開に、会場がどよめく。

 しかし今回のゼロは、すぐに姿を現した。場所はアルルの目の前。


「――!」


 一瞬のうちに間合いを詰められたアルルが、表情をこわばらせる。

 少年は、固まっている少女のおでこに間髪入れず指を伸ばす。今までのすべての対戦相手を、この一撃で倒してきた。

 と、指が触れる直前、後ろにステップしたアルルが、体の前でレイピアを立てる。ゼロの指先が、銀色の刀身に弾かれた。


「なにっ!?」


 指先攻撃があっさりと防がれる。予選から、全ての相手をたった一撃で沈めてきた攻撃が、目の前の少女には通用しなかった。地味な見た目とは裏腹に、超高速なうえ、大の男すら吹き飛ばせるこの攻撃は、一撃必殺の破壊力を持つ。その攻撃を、この大会で初めて防いだのは、かわいらしい少女だった。


 少女は後ろにステップを踏んで、被弾のタイミングをずらし、攻撃の威力を殺したのだ。その反応の速さは、驚嘆に値する。ゼロの攻撃は完璧に見切られていた。


 技術、スピード、パワー。そして強靭な精神力。すべてを兼ね備えている。

 彼女は、大会で対戦した相手の中で、間違いなく最強だった。


「と、止められたわ!」

「なんだと!」


 まさかゼロの攻撃を止める者がいるとは思わなかったのか、観客席のサーニャとクゥが取り乱す。


「アルル選手、攻撃を華麗に防御!」


 数メートルの距離を置いて二人の戦士が対峙たいじする。


「……やるな」

「あなたもね」


 お互いが実力を認め合う。

 思わぬ強敵との遭遇に、ゼロは驚きの反面、ワクワクもしていた。しかし圧倒的な攻撃速度を誇る指先攻撃が防がれたとなると、この少女に攻撃を当てることは相当に難しい。


 そんなことをゼロが考えていると、試合が再び動く。

 アルルが剣先をゼロに向けると、深く踏み込む。


「はーーーーーーーーーーーっ!」


 少女が再び剣を放つ。ただでさえ速い少女の攻撃が、一段と速度を増す。打ち込まれるたびに剣先が空気を裂き、破裂音が会場中に響き渡る。


「す、すごい連打です! まるで剣の嵐だーーーーーーーー!」


 しかしゼロも負けていない。


「し、信じられない身のこなしです! ゼロ選手、アルル選手の攻撃を全てかわしているーーーーーーー!」


 とめどなく繰り出される剣技は、一つも当たらない。一見、勝負は互角に見えた。しかし少年は確実にリングの隅に追いやられていく。ゼロは、一歩、また一歩と後ずさり、いつの間にかリングコーナーに追いやられていた。


「ゼロ選手、逃げ場がないぞーーーーーーっ!」


 あと一歩でも下がれば、そこにリングは無い。


「今大会は場外に体の一部が触れても敗北となります! ゼロ選手、絶体絶命だーーーーーっ!」


 もしも場外に落とされれば、たとえ無傷であったとしても即失格。その瞬間に1000万クレジットは夢と消える。

 アルルは、逃げ場のないゼロに向かって力強く踏み込むと、一際強力な一撃を放った。少女の腕が伸び、剣先が少年の胸に突き出される。それはこの試合で放たれた最高の一撃だった。


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