34 アルル
◇
「準決勝第一試合はバズージャ選手の勝利です!」
リングの上でレフェリーが高らかに宣言する。
最初に決勝へのコマを進めたのはバズージャだった。やはりというべきか、バズージャは準決勝の相手にも危なげなく勝利した。これにより、決勝に進んだ場合、彼との対戦が確定した。しかしその前に準決勝を勝ち抜く必要がある。
ゼロは再びリングに上るのだった。
「準決勝第二試合! ゼロ選手VSアルル選手!」
リングの中央で二人が向かい合う。
対戦相手のアルルは、腰に刺突剣を帯剣している。クリッとした瞳は薄ピンク色。髪は淡いピンク色で、腰のあたりまで伸びている。クルンとした巻き毛でボリュームがあり、小柄な少女をいくらか存在感あるものにしていた。白い半そでのブラウスを着て、膝上丈の黒いキュロットを履いている。年齢はゼロと同じくらい。
「ここまでの試合、ゼロ選手は不思議な戦術を使い、無傷で勝ち進んでいます! 対するアルル選手も素晴らしい剣技で相手を圧倒! ゼロ選手同様、無傷で準決勝にのぞみます!」
猛者ぞろいの大会において、いまだノーダメージとは、対戦相手の少女も、どうやら相当な使い手らしい。
「あのお姉さん……」
何か思うことでもあったのか、観客席の最前列にいるクゥが、神妙な顔で黙り込む。
「あら、知り合い?」
いつになく真剣なクゥに、サーニャがたずねる。
「乳でけぇ!」
でかい声で叫んだクゥは、アルルを見つめたまま。
「ぼよん!」
その後、サーニャの胸を見て。
「すかっ」
両者の胸囲には圧倒的な差がある。はっきり言って勝負にならないほどに。
クゥに胸をロックされたサーニャは、髪をかき上げて「ふっ」と余裕の笑み。そして、やれやれと首を振り。
「乳のデカさと魔力のデカさは無関係」
なぜか勝ち誇った顔の魔法使い。
一方、リングの上では二人の戦士が睨み合う。
アルルは、しなやかな動きで腰からレイピアを抜くと、剣先をゼロに向けて構えた。銀色の細い刀身が、陽を反射させて輝く。
「あと二試合……」
つぶやくと、少女は鋭い目つきで。
「あなたがそうだといいんだけど」
何のことか分からず、ゼロは不審がる。
(なんの話だ?)
そうこうしていると、レフェリーが試合の開始を合図する。
「始め!」
その瞬間、深く踏み込んできたアルルが、ゼロの胸元目がけて突きを放った。
「はーーーーーーーーーっ!」
レイピアの鋭利な先端が、ゼロに打ち込まれる。あまりの速さに、剣が残像を描く。ゼロは真横にステップを踏んで、紙一重で攻撃をかわす。
それも束の間、アルルが二の手を打ってくる。その剣先は正確にゼロの胸を狙う。ゼロは攻撃の軌道から、わずかに横に逸れる。今度もギリギリかわす。しかし少女は止まらない。次々と攻撃を放ち、ゼロが休むスキを一切与えない。
「は、速いっ! アルル選手、すさまじい剣さばきです!」
観客席の最前列で、サーニャが目を見開く。
「すごっ! 何者よ、あの子」
「やりおる!」
興奮したクゥが、最前列の壁から身を乗り出す。
強い。ゼロは確信する。ぱっと見はただのお嬢さんなのに、今までの対戦相手をはるかにしのぐ戦闘センス。この見た目にだまされては、勝負を持っていかれる。ゼロは気を引き締める。
次々と打ち込まれる剣技を、ゼロは人間離れした体さばきでかわす。しかし、かわすだけで一切の反撃を行わない。これほどの連打を浴びたら、一流の戦士であっても反撃は難しい。
「ゼロ選手、防戦一方だぁーーーーーーーっ!」
アルルは一切、手を休めず、嵐のように攻撃を浴びせ続ける。小さな体のどこにそんな体力があるのか、少女は息一つ乱さない。
対するゼロも、激しい攻撃を紙一重でかわし続ける。少女の繰り出す連撃は、スピードもさることながら、圧力もすさまじい。一撃でも食らえば大ダメージは免れない。
試合開始直後から両者は一切止まることなく動き続ける。だというのに、どちらもバテる気配はない。
(キリがないな。……よし)
状況を変えるべく、ついにゼロが仕掛ける。
「ゼ、ゼロ選手、消えたーーーーーーーーー!」
ゼロの姿が一瞬にしてリングから消えた。
ベッゾの時と同じ展開に、会場がどよめく。
しかし今回のゼロは、すぐに姿を現した。場所はアルルの目の前。
「――!」
一瞬のうちに間合いを詰められたアルルが、表情をこわばらせる。
少年は、固まっている少女のおでこに間髪入れず指を伸ばす。今までのすべての対戦相手を、この一撃で倒してきた。
と、指が触れる直前、後ろにステップしたアルルが、体の前でレイピアを立てる。ゼロの指先が、銀色の刀身に弾かれた。
「なにっ!?」
指先攻撃があっさりと防がれる。予選から、全ての相手をたった一撃で沈めてきた攻撃が、目の前の少女には通用しなかった。地味な見た目とは裏腹に、超高速なうえ、大の男すら吹き飛ばせるこの攻撃は、一撃必殺の破壊力を持つ。その攻撃を、この大会で初めて防いだのは、かわいらしい少女だった。
少女は後ろにステップを踏んで、被弾のタイミングをずらし、攻撃の威力を殺したのだ。その反応の速さは、驚嘆に値する。ゼロの攻撃は完璧に見切られていた。
技術、スピード、パワー。そして強靭な精神力。すべてを兼ね備えている。
彼女は、大会で対戦した相手の中で、間違いなく最強だった。
「と、止められたわ!」
「なんだと!」
まさかゼロの攻撃を止める者がいるとは思わなかったのか、観客席のサーニャとクゥが取り乱す。
「アルル選手、攻撃を華麗に防御!」
数メートルの距離を置いて二人の戦士が対峙する。
「……やるな」
「あなたもね」
お互いが実力を認め合う。
思わぬ強敵との遭遇に、ゼロは驚きの反面、ワクワクもしていた。しかし圧倒的な攻撃速度を誇る指先攻撃が防がれたとなると、この少女に攻撃を当てることは相当に難しい。
そんなことをゼロが考えていると、試合が再び動く。
アルルが剣先をゼロに向けると、深く踏み込む。
「はーーーーーーーーーーーっ!」
少女が再び剣を放つ。ただでさえ速い少女の攻撃が、一段と速度を増す。打ち込まれるたびに剣先が空気を裂き、破裂音が会場中に響き渡る。
「す、すごい連打です! まるで剣の嵐だーーーーーーーー!」
しかしゼロも負けていない。
「し、信じられない身のこなしです! ゼロ選手、アルル選手の攻撃を全てかわしているーーーーーーー!」
とめどなく繰り出される剣技は、一つも当たらない。一見、勝負は互角に見えた。しかし少年は確実にリングの隅に追いやられていく。ゼロは、一歩、また一歩と後ずさり、いつの間にかリングコーナーに追いやられていた。
「ゼロ選手、逃げ場がないぞーーーーーーっ!」
あと一歩でも下がれば、そこにリングは無い。
「今大会は場外に体の一部が触れても敗北となります! ゼロ選手、絶体絶命だーーーーーっ!」
もしも場外に落とされれば、たとえ無傷であったとしても即失格。その瞬間に1000万クレジットは夢と消える。
アルルは、逃げ場のないゼロに向かって力強く踏み込むと、一際強力な一撃を放った。少女の腕が伸び、剣先が少年の胸に突き出される。それはこの試合で放たれた最高の一撃だった。




