31 武道大会予選
「武道大会のエントリー、間もなく終了でーす!」
城門の前で、武道大会のスタッフらしきおじさんが叫ぶ。
「エントリーする方、いらっしゃいませんかー?」
城門前を埋め尽くす人々に向けて呼びかける。しかし、参加を名乗り出る者はいない。
「では、ただいまをもってエントリーを終了させていただきます」
その時だった。
「待ってくれー!」
裏路地を抜けたゼロが大声で叫ぶ。受け付けスタッフに手を振りながら必死に走る。大会に出場するためにここまでやってきたのに、これで出られないとなれば、いったいなんのための旅だったのか。
「エントリーされますか?」
受付に到着するやいなや、おじさんがたずねてくる。
「します!」
「では、こちらの用紙に記入をお願いします」
エントリーを表明すると、エントリー用紙を手渡された。薄っぺらいたった一枚の紙きれ。これを提出しなければ大会には参加できない。大げさに言えば、この紙切れ一枚のために、はるばるこの地を訪れたと言っても過言ではない。このエントリー用紙が受理されなければ、ここまでの苦労がすべて無駄になってしまうのだ。ゼロは、ドキドキしながら用紙を受け取ると、近くの机で記入を済ませた。
「はい! たしかに受理いたしました。ご健闘をお祈りします!」
おじさんは朗らかな顔でエントリー用紙を受け取る。これで晴れて大会のエントリーが完了したわけだ。締め切り時間ギリギリ。間一髪、間に合った。
遅れて裏路地を抜けた仲間たちが、ゼロの元に駆け寄る。ゼロは親指を立てて、にっと笑う。
「ふっ。危なかったな」
腕を組んで仁王立ちのクゥが、謎の貫禄を放つ。
「この大会、100人以上、出場してるみたいね」
「ずいぶん多いな」
いつの間に仕入れたのか、そんな情報を共有するサーニャ。
たかが武道大会にそこまでの人が集まるなんて、異例なことのようにも思える。しかし、何と言っても、この大会の優勝賞金は1000万クレジット。それを考慮すれば100人以上の参加者が集まったとしても、不思議はない。いや、むしろ少ないくらいだと言ってもいい。
城門の前には、城下町ほどではないものの、かなりの人がいる。そのほとんどは武道大会の観戦者だろう。大会は城内で行われるらしく、人々は皆、城門をくぐっていく。
「大会はどんなルールなのだ?」
「一対一のトーナメント制ね」
クゥの質問にサーニャが答える。
「トーナメントってことは一人ずつ順番に倒していけばいいのか」と、ゼロ。
「そういうこと。予選を勝ち抜いた八人が本選トーナメントに進めるみたいね」
「たった八人……」
つまり大半の参加者は予選で落とされる。予選を勝ち上がるだけでも狭き門だとわかり、ゼロは今更ながら緊張してくる。
「ちなみに武器や魔法の使用もOKよ」
おそらく、このルールが参加者を抑制しているのだろう。武器や魔法がありとなれば、素手による戦いよりもはるかに危険度が増す。
「激しい戦いになりそうなのだ」
「でしょうね」
お互いに武器を使用しての勝負となれば、場合によっては大ケガ、最悪、命を落とす可能性もある。予選から気を抜けない戦いになるだろう。もしかしたら想像よりもずっと厳しい大会なんじゃないかと、ゼロは思った。しかし今更うろたえたところで、どうにもならないのだが……。
◇
城の敷地内には、石材で作られたリングがいくつも設置されていた。正方形のリングは、一辺が20メートルほどある。武術のリングとしては、かなり広いほうだろう。
城壁には、予選トーナメントの表が張り出されている。予選はA~Hの8ブロックに分かれて行われるらしい。各ブロックの優勝者一名が、本戦に出場できる仕組みだ。
「ゼロはEブロックね」
「ボクたちはリングのそばから応援してるぞ!」
「おう!」
クゥに力づけられて、ゼロが威勢よく返す。仲間がいると、こういうとき心強い。
ほどなくして、予選リーグは始まった。
まだ予選にもかかわらず、リングの周囲からは観客の声援が飛び交う。ずいぶんな盛り上がりようだ。
たくさんあるリングの一つに、ゼロはいる。
リング中央にいるゼロの正面には、体格のいい男が、ゼロとにらみ合うように立っている。腕を組んだ男は、ゼロよりも一回り以上は大きい。武器は持っていないものの、筋肉が膨れ上がり、相当なパワーがありそうだった。
ゼロと対戦相手との間に立つレフェリーが。
「降参するか、場外に体が触れた時点で、その選手の負けです。ダウンして10カウント以内に立ち上がれない場合も負けとなりますので、お気をつけください」
対戦相手の男が、ゼロに向かって、にっと唇を吊り上げると。
「悪いなボウズ。手加減しねえぜ!」
体格のいい男が自信ありげに啖呵を切る。
「始めっ!」
レフェリーが試合の開始を告げる。
その瞬間、ゼロの姿がリングから消えた。
「――!?」
ありえない光景。対戦相手の男が驚愕の表情で全身を硬直させる。
しかしすぐに正気を取り戻すと、男は視線を四方に動かしゼロを探す。だがリングのどこにも少年はいない。――と。
次の瞬間、男の目の前にゼロが突然、姿を現す。
「な!?」
男の身がすくんだ一瞬の隙に、ゼロが指先で相手のおでこをちょんと触る。同時、相手が後方へ吹っ飛ぶ。
「ぐあああーーーーーー!」
男は、なすすべなくリングから落ちると、そのまま地面を転がっていった。
「場外! ゼロ選手の勝利です!」
レフェリーがゼロの勝利を高らかに告げる。
勝負は一瞬で決まった。
ゼロの勝利に、リング下のサーニャ達が沸きあがる。
「しゃあ! まずは一勝!」
サーニャが力強くガッツポーズしてゼロの勝利を喜ぶ。
「さすがだな」
腕を組んだクゥが謎に貫禄のある態度でうなずく。
「なーんだ。楽勝じゃない。なーにが優勝は無理よ! あのゴロツキたち!」
「ガハハ。賞金は貰ったな」
サーニャとクゥは、すでにゼロの優勝を確信しているらしい。
たしかに初戦は圧勝だった。とは言え、これはあくまでも予選。先はまだまだ長い。
その時、少し離れた場所で、歓声が上がった。
「なんだ?」
ゼロが声のしたほうを見る。離れたリングの上に、男が立っていた。それも、とてつもなくデカい。それは巨人と言ってもいい程の巨体で、身長はゼロの二倍を優に超えている。さらに、横方向にも大きい。巨人は全身を分厚い脂肪に覆われていて、まるで巨大な鉄球のようなフォルムをしている。見るものを圧倒する存在感。
なにがあったかは分からないが、巨人の周囲の観客たちは、大盛り上がりだった。
「すげえ! 一発で相手が吹っ飛んだぞ!」
観客の一人が興奮している。
すると隣の男が。
「負けたほうも、かなり有名な戦士だぞ!」
それを聞くと、興奮している男は、嬉々(きき)としながら。
「さすが悪魔狩りのバズージャだ! あいつ、A級悪魔をたった一人で倒したらしいぜ!」
男は、まるでヒーローを見るような顔で、巨人を見る。
その話を聞いた隣の男が。
「A級悪魔を? そりゃあ、いくらなんでもハッタリだ」
「ハッタリなもんか! 今の戦い見ただろ? やっぱりバズージャが優勝候補筆頭だ!」
リングの上のバズージャが、リング下で倒れている対戦相手を見下ろして。
「ごめんね~。大丈夫かい?」
巨人が柔らかい声をかけるが、相手は全く反応しない。仰向けに倒れている対戦相手は、どうやら気絶しているらしい。
武道大会の関係者と思われる男性が、倒れた選手に駆け寄る。
「た、担架だ!」
倒れた選手を見た瞬間、スタッフが大声で叫ぶ。周囲が慌ただしくなる。すぐに数人の大会スタッフが駆け付けてきて、倒れた選手を担架に乗せると、医務室に運んでいった。
その様子を黙って見ていたリングの上のバズージャは、ポリポリと頭をかく。
勝利をおさめた巨人がリングを降りる。その瞬間、巨大な顔が、ふと遠く離れたゼロのほうを見た。ゼロとバズージャ。両者の視線が交差する。
バズージャはゼロに向けて不敵な笑みを浮かべた。




