30 裏通りは危険な通り?
◇
一人分の横幅しかない細い通路を抜けると、開けた路地に出た。幸い、路地は城のほうへ伸びているようだ。
「あら、ガラガラじゃない」
サーニャの言う通り、裏路地にはゼロたち以外に誰もいない。
「これは当たりルート」
クゥがほくそ笑む。
「何だか物騒な雰囲気だな……」
両サイドを建物に、はさまれているためか、周りは薄暗い。どうにも湿っぽくて不気味な雰囲気だ。三人は城を目指して歩き出す。表通りは、あれだけ騒がしかったのに、この場所は妙に静かだ。建物で音がさえぎられているためだろうか。しかし、そうだとしても、さっきまでの騒がしさを思うと、ここは静かすぎる気がする。どうにも不自然だった。ゼロは自分でも気づかないうちに、自然と周囲を警戒していた。さきほどまで浮かれていたサーニャとクゥも異変に気付いたのか、神妙な面持ちで歩いている。誰もしゃべらなくなると、あたりはさらに静まり返る。空気が重苦しい。
その時、物陰から影が飛び出した。
「おい待ちな」
ゼロ達の前に立ちふさがった丸っこくて身長の低い男が、威圧的に言った。
通せんぼされて、ゼロたちは足を止める。
「何よチビマル」
サーニャが丸っこい男に、変なあだ名をつける。
「チビマル!?」
初対面であだ名呼びされるとは思わなかったのか、チビマルが動揺する。
チビマルの隣にいる細身で背の高い男が、薄ら笑いを浮かべる。
「へっへっへ! 弱そうなガキだぜ」
「弱そうとは失礼ね、つまようじ!」
「つまようじ!?」
またもやあだ名付けされて、つまようじが硬直する。
「落ち着けよ。こいつら弱そうだしよ!」
チビマルがつまようじの肩に手を置く。
「そ、そうだよな!」
「弱い奴だけを狙う兄貴の作戦。頭ったまイイー!」
チビマルが兄貴とやらを持ち上げると、つまようじもウンウンと首を縦に振る。
「兄貴? なんのことなのだ?」
チビマル達が両サイドにササッとはける。すると奥から、ガッシリとした体格の男が歩いてきて、チビマル達の間で足を止めた。
「そうだろう、そうだろう!」
兄貴と呼ばれた男は上機嫌。どうやら、この男がボスらしい。三人とも見事に人相が悪い。
「お前ら、どこに行くんだ?」
「武道大会だよ」
ボスの問いにゼロが答える。
「なんだ、お前たち武道大会を見に来た観光客か?」と、ボス。
「いや、出場するんだ」
通せんぼしている三人が、顔を見合わせ。
「「「ガッハッハ!」」」
男たちは、なぜか豪快に笑う。
「おいおい聞いたかよ! こいつら"あの"武道大会に出場する気らしいぜ!」
ボスがおかしそうに子分たちに語りかける。チビマル達も大口を開けてケラケラ笑う。
「なあ、用が無いなら通してくれないか? 急がないとエントリーに間に合わないんだ」
焦りから無意識に早口になる。ボス達に通せんぼされたままでは、会場にたどり着けない。
エントリーの締め切りが迫る。こんなところで、のんびりと話している時間は、一秒も無い。
するとボスがイヤらしい笑みで。
「じゃあ通行料を払いな」
「ちょっと! この国は道を通るだけで、お金を取るわけ!?」
「めちゃくちゃだぞ」
サーニャとクゥが文句を言う。
「国じゃなくて俺たちに払うんだよ。有意義に使ってやるぜ。へっへっへ」
白昼堂々たかりをしてくるボス。ムッとしたサーニャがボスの前に身を乗り出して、強い口調で。
「はあ!? ふざけんじゃないわよ! あんたなんかに払うお金は1クレジットもないわよ!」
ニタニタ笑っている大男を睨みつける魔法使い。すると、ゼロがサーニャの肩をポンと叩き、少女を落ち着かせる。
「いくらだ?」
「ちょっとゼロ!」
お金を払おうとするゼロに、不服そうなサーニャ。
「お! 物分かりがいいじゃねえか。よし、その素直さに免じて特別に二万クレジットで通してやるぜ」
ゼロの素直な態度に、ボスは上機嫌。
「二万クレジットだな」
ゼロが金額を確認すると、ボスは若干イラつく。
「もったいぶるんじゃねえ! さっさとよこしな!」
「わかりました。ではくれてあげましょう」
丁寧な口調で答え、ボスに近づく。とはいえ、少年の全財産は、たったの4クレジット。くれてあげる金など無いはず。少年は朗らかな顔で。
「ふんっ!」
ゼロの拳がボスの腹にメリ込む。えぐるようなボディブロー。ボスの両足が浮いた。
「おぼごおおおげがあああああああああっ!?」
路地裏に響くボスの奇声。声にならない声を漏らしたボスは、ゼロの拳に持ち上げられたまま白目をむく。宙に浮いた足がピクピクとケイレンし始めた。
「なあに、釣りはいりませんよ。ほっほっほ」
その表情はひどく穏やか。
「「あ、兄貴ーーーーーー!」」
子分達が兄貴にすがる。口から泡をはいた兄貴は、全身をピクピクとケイレンさせたまま、ふっと脱力した。ゼロの拳の上で、干し布団みたいにグッタリしている。慌てふためく子分達が、ボスの両脇を抱えて、ゼロの拳から、かいがいしく降ろす。干し布団状態から解放されたボス。子分に支えられてはいるものの、ガクリと垂らした首には、まるで力がない。白目をむき、頭からつま先まで完全に弛緩している。
「ほっほっほ。悪いことをしてはいけませんよ」
口元に手の甲を当てて、涼しい顔で通せんぼトリオに警告する。
「死んでないわよね……」
ゼロの肩ごしにボスをのぞき込むサーニャは表情が固い。
すると、ビクンッとひときわ強くケイレンしたボスが。
「ゲホッ! ゲホッ!」
激しく咳き込みながら息を吹き返す。
「復活」
ゼロの後ろで実況するクゥ。
ゼロは、目を覚ましたボスに。
「そんなに金が欲しいなら、あんたたちも大会に出ればいいじゃん。優勝賞金1000万だぞ」
そうすれば二万クレジット程度のケチなタカりなんてしなくていい。
「出るわけねえだろ、あんなバケモノだらけの大会……」
その顔は、あきらめのような、恐怖のような、怒りのような、よくわからない感情に塗りつぶされている。
「バケモノ? 大会の参加者は人間じゃないのか?」
「……ハッハッハ! こいつら、何も知らないらしいぜ!」
なぜか大笑いするボス。それはゼロ達をあざ笑うような笑いだった。ボスは不意に真顔に戻ると、片側の口角を吊り上げ。
「……いいことを教えてやる。あの大会はなぁ、普通の人間じゃあ、絶対に優勝できん。……絶対にな」
「どういう意味だ?」
「……行けばわかるぜ」
ボスの表情には確信めいたものがある。まるでゼロが負けることを確信しているような、そんな顔だった。
「おめえらの後悔する顔が目に浮かぶぜぇ!」
口の端を歪めて笑みを浮かべると、ゼロに向かって中指を立てるボス。
「ほう? どうやら、もう一発ほしいようですね……」
ゼロが指をポキポキ鳴らす。
「ひいっ!?」
ビクリと全身を震わせたボスが、部下の助けを借りて後ずさる。足元はフラフラ。腹パンが相当、効いたらしい。三人はゼロから十分に離れると。
「「「お、おぼえてやがれーーーー!」」」
捨てゼリフを残すと、通せんぼトリオは路地裏を走り去った。
「ほっほっほ。道が開きましたね。さあ、行きますよ、みなさん」
口元に手を当てて上機嫌に高笑い。
「あんたも、たいがいねえ……」
少年の横顔を覗き見るサーニャが、ゼロのパワー系な対応に呆れる。
「ほっほっほ。目には目を、ですよ」
「あんた、そのうち捕まるわよ?」
「俺は警察より強い」
自信満々に答える金欠のゲーマー。
悠長にやり取りしている二人の後ろから、クゥが急かす。
「もう時間が無いぞ!」
「やべ! のんびりしてる場合じゃなかった!」




