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アナザーロール  作者: 清澄 武
第1章 旅立ち編

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24/61

24 崩壊


「メカ!」


 メカの背中に、クゥが叫ぶ。

 重量のある鉄の塊が宙を舞う。それは数メートル飛び続けた後、側壁にぶつかり勢いを失うと、床に落下した。重い音が鳴る。機械の腕が、壁際に横たわっている。クゥを守ったガーディアンには左腕がついていなかった。機械の体が床に片ヒザをつく。

 クゥの目の前で、エネルギーメーターが赤く点滅していた。


「グム……」


 ダメージが大きいためか、メカは立ち上がることができない。


「グオオオォーーーーーーーッ!」


 咆哮ほうこう。石像が、再び槍を構える。足元で動けずにいるメカたちに、とどめを刺すつもりだ。


「た、立つのだ、メカ!」

「に、逃げろクゥ……」


 クゥがメカの体を引っ張る。しかしどれだけ引っ張っても鉄の体は微動びどうだにしない。クゥの力では、メカの巨体を動かすことは、とてもできない。

 クゥたちが、もたついていると、ガーゴイルが石の槍を両手で握り込む。そして頭上高く振り上げた。ダンジョンの天井近くまで持ち上がった槍。その先端がクゥたちに向けられる。


「キエーーーーーーーーーーーー!」


 空気を切り裂く石の槍が、無防備なメカたちに襲いかかる。メカの鋼鉄の腕ですら一撃で破壊する槍が、手負いのメカを狙う。


「うわーーーーーーーー!」


 クゥが思い切りメカを引っ張る。しかしメカが動くことは無かった。

 槍の先端がメカの顔を襲う。

 その時、辺りが急に静かになる。槍の衝突音は、ダンジョンに生まれなかった。

 槍の先端は、メカの目前で停止していた。

 ガーゴイルの表情が一変する。

 メカの前に、ゼロが立っていた。少年は槍の先端を片手で握り、ガーゴイルの攻撃を、ギリギリのところで防いだ。


「お前、ちょっとしつこいぞ」


 銀髪の少年がガーゴイルをにらみつける。その瞬間、ガーゴイルが飛び退く。少年の殺気を感じ取ったのか、石像は猛烈なスピードでゼロから離れた。


「グルルル……」


 石像がうなる。その目はゼロだけを睨んでいる。もはやメカたちのことを忘れてしまったかのように、足元の少年にだけ、敵意をむき出しにする。

 にらみ返すゼロが、片手をつきだして、手を広げる。


「ちょっと!? こんなところで剣を出したらダンジョンが崩れるわよ!」


 背後のサーニャが、ひどく取り乱す。しかし、ゼロはお構いなしに地面を蹴ると、ガーゴイルの胸元に飛び込んだ。漆黒のマントがはためく。


「うおおおおーーーーーーーっ!」


 気合を放ったゼロが、拳を握りこみ、まっすぐに打ち付ける。渾身こんしんの攻撃はガーゴイルのひたいに直撃した。打撃を放ったゼロは、すぐさまガーゴイルの胸を蹴り、素早く石像から離れる。そしてメカの前に音もなく着地した。


「グオオオ……?」


 ガーゴイルが戸惑っている。ゼロの拳を食らったものの、石像には、なんの変化も見られない。


「き、効いてないわ!」


 絶対の防御を持つガーゴイルは、ゼロの突きを食らったものの無傷。

 目の前に並ぶ侵入者たちを脅威ではないと判断したのか、ガーゴイルは口元を吊り上げて余裕の笑みを浮かべる。

 石像は槍を力強く握ると。


「グオオオオオオオ!」


 ガーゴイルの咆哮ほうこうがダンジョンに響き渡る。同時、石槍がほとばしる黒い光で包まれていく。


「い、いかん。逃げろ!」


 メカの鬼気きき迫る声が、ゼロの背中に投げかけられる。

 ゼロに飛びかかったガーゴイルが、巨大な石槍を振り下ろす。鋭い穂先が一直線にゼロに襲いかかる。しかし襲いくる槍の先端は、ゼロに触れる直前で、ピタリと動きを止めた。


「グ、グア……?」


 なぜか攻撃の手を止めたガーゴイルが、固まっている。


「な、なに?」


 サーニャがつぶやいた次の瞬間、石像のひたいに一筋の亀裂が入る。ガーゴイルが手で顔を押さえて苦しみだす。ヒビは瞬く間に顔全体に広がっていき、さらに全身にまで拡大していく。


「グアァーーーーーーーーーーーーーッ!」


 怪物の絶叫がダンジョンに響き渡る。

 全身にヒビが入ったガーゴイルが、顔を押さえて苦しみだす。手足の先が、さらさらと砂のように崩れていく。腕と足、そして胴体、最後に顔までもが崩れ、足元にたまっていく。砂がゼロたちの前に積み上がっていく。巨大な石像は、またたく間に崩壊し、砂の山へと変貌へんぼうげた。


「な――」


 目の前の光景に唖然あぜんとするメカ。


「や、やったわ!」


 サーニャは明るく言うと、ゼロのもとに駆け寄ってきて。


「あんた体術もいけたのね」と、興味深そうにゼロの拳を見つめる。

「勇者の拳はそこそこ強い」


 ゼロは淡々と返した。


「ば、ばかな……。お前は、いったい……」


 緑の瞳が少年を見つめる。普段は感情を出さないメカであっても、さすがに相当驚いているようだ。

 すると、とつぜん地面が激しく揺れ出した。


「な、なんだ!?」


 振動に襲われたゼロが、倒れないように踏ん張る。

 なにかに気づいたのか、メカがハッとする。


「主がいなくなったことでダンジョンが崩れる!」


 ダンジョン全体が揺れている。

 天井からサラサラと落ちる砂が、ゼロたちの頭に降りかかった。


「スフィアまで走るぞ!」


 揺れが激しい。ゼロたちは転移スフィアを目指してダンジョンの奥に走る。その間にも、振動はさらに激しさを増していくばかり。刻一刻とダンジョンの崩壊が迫ってくる。この様子だと、そう長くはもたないだろう。

 揺れるダンジョンを、転ばないように気を付けながら走り、やっとのことでスフィアの前に到着する。ゼロがすぐさま、水晶に手を伸ばすと、サーニャが。


「待って! クゥたちがいない!」

「なんだって!」


 ゼロの手が止まる。二人の背後には、クゥとメカの姿が無い。


「探しに行くぞ!」

「無茶よ! もう間に合わない!」


 飛び出そうとするゼロの手首を、サーニャが握る。

 しかしゼロは、少女の手をすぐさま振りほどくと。


「サーニャは先に脱出してくれ!」


 そう言い残すと、ゼロは今来た道を引き返す。


「ダメよ、ゼロ! 戻りなさい!」


 少女が呼び止めるも、ゼロの背中はどんどん離れていく。

 その間にもダンジョンの揺れはさらに激しさを増していく。もはや崩壊までは時間の問題だった。こんな中を引き返すなど、自殺行為以外のなにものでもない。

 サーニャの視線の先には、すでにゴマ粒のように小さくなったゼロの背中。少女は苦い顔で唇をかみしめると、スフィアに手を伸ばした。



「ど、どうしたのだ」


 メカの顔を見上げたクゥが、必死に呼びかける。

 しかしメカの反応は弱々しい。動きは緩慢かんまんで、今にも止まってしまいそうだった。


「寿命だ」


 首の後ろのエネルギーメーターには、残量がほとんどなかった。

 クゥたちは、ガーゴイルと戦った場所に今も残っていた。動けないメカの隣に少女はいた。


「ここで眠ることにする」


 メカは床にひざまずいたまま動かない。

 クゥたちの、はるか前方には転移スフィアがある。

 そこまでたどり着けば、ダンジョンの外に出られるのだ。


「なんで……。外に行きたいんでしょ?」


 悲し気な声だった。

 メカの緑色に光る瞳が、クゥの金色の瞳を見つめる。


「お前たちとの冒険、まあまあ楽しかったぞ」


 メカの声は穏やかだった。

 揺れが一段と激しくなった。

 もはや、いつ崩壊してもおかしくなかった。


「ふぬうぅぅ……!」


 全身に力を込めたクゥが、メカの腕を引っ張る。

 しかし大きな機械の体は全く動かない。クゥの力でメカを運ぶのはどう考えても無理がある。さんざん引っ張り続けて力尽きたクゥが、息を切らせる。少女は両手をヒザについて、ゼエゼエと肩を上下させる。そんなクゥの頭に、大きな手がそっと乗せられた。


「行け、クゥ。セイントナイトになるんだろ」


 ダンジョンを脱出しないと、少女の夢は叶わない。

 別れの時だった。

 そのころ、激しく揺れるダンジョンをゼロは走っていた。少年の視線の先に、ようやくクゥたちの姿が見えてきた。


「いた!」


 ――と、その時、クゥたちの頭上で、天井の一部が崩れ落ちた。


「逃げろクゥ!」


 叫ぶゼロ。しかしクゥはメカの近くを離れようとしない。

 落下した瓦礫がれきがクゥたちの頭上に迫る。


(間に合わねえッ!)


 距離が遠い。ゼロの足でも、とても間に合いそうにない。


「チクショーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」


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