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アナザーロール  作者: 清澄 武
第1章 旅立ち編

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23/61

23 新フロア



 ゼロたち四人が横一列に並んで階下を見下ろす。


「今日は次のフロアに進むわよ!」


 元気な声が大階段の前に響く。

 ぐっすりと眠ったことで、サーニャは、すっかり体調万全らしい。いつも通りの魔法使いにゼロは安心する。


「なあ、お前も来てくれよ。ダンジョンには詳しいんだろ?」


 視線を横に向けたゼロが、メカに同行を頼む。


「うるさい」


 しかしメカは不機嫌そうにつっぱねる。


「なんだよ、寝起きで機嫌が悪いのか~?」


 メカは、もともと愛想がよかったわけではない。しかし、昨日までは、なんだかんだゼロたちを道案内してくれるなど、どちらかと言えば友好的だった。しかし今は、なぜかゼロたちのことを明確に拒絶している。


「俺はエネルギーが残り少ない。無駄なことをさせるな」

「んな冷たいこと言うなよー。仲間だろ?」

「勘違いするな。オレから見たらお前たちは侵入者だ。仲間じゃない。それに……」


 メカが一瞬、言葉を詰まらせる。


「行ってもどうせ無駄だ」


 それはどこかあきらめを感じさせる口調だった。

 するとそれまで黙っていたクゥが。


「うおー!」


 大声を上げたクゥが、小さな体でメカの背中を押す。


「お、おい。なにをする」


 戸惑うメカが、少女に押されて、一歩、また一歩と階段を下りていく。メカとクゥが階下へと進んでいく。そんなことを続けているうちにメカは観念したのか、自ら階段を降りだした。



 長い下り階段が終わった。

 ゼロたちの目の前に広がっているのは、5メートル四方の青い壁。つまり上のフロアとなんら変わらない景色。

 ついに念願の新フロアにたどり着いたというのに、まるで代わり映えしない景観。これではどうにもぬか喜びだ。いや、それどころか……。


「なによ、これ……」


 魔法使いが唇を震わせる。


「上のフロアと一緒じゃない! まさかこんなダンジョンが、ずっと続くんじゃないでしょうね!?」


 前のフロアと同じということは、またあの迷宮が目の前に繰り広げられているのではないか。そんな不安をサーニャは感じたのだろう。それはゼロも同じだった。たった1フロア突破するだけでもヘトヘトになったというのに、何フロアもそんな迷宮が続いているとなれば、地上への帰還は絶望的だ。


「安心しろ。このフロアで最後だ」


 メカがサーニャの予想を否定する。このフロアで最後ならば、脱出できる希望が見えてくる。

 目の前のダンジョンをよく見ると、前のフロアとは決定的な違いがあった。横道が無いのだ。まっすぐな一本道が目の前に延びていた。ただし、フロアの最奥までは見通せない。しかし、ただ進むだけならば上の階よりもよっぽど楽だ。

 ゼロが天井を見上げながら腕を組み。


「この広さじゃ勇者の剣は使えないか……」


 フロアは決して、せまいわけではない。しかし、勇者の剣を使うには圧倒的に広さが足りない。ゼロの必殺技である勇者の剣は、あまりにも大きすぎるのだ。ゆえに、仮に戦闘になったとしても、ゼロは必殺の武器をふうじられることとなる。

 腰に手を当てたサーニャが、ゼロの顔を覗き込みながら、たしなめるように。


「ちょっと? こんなせまい場所で、あんな大きな剣、使わないでよ? ダンジョンが崩れちゃう」

「……ま、なるようになるか」


 四人は、ひたすら奥に進む。

 道中、トラップが発動することもなければ、モンスターが襲ってくることもなく、当然、お宝が見つかるなんて都合のいい展開も発生しなかった。上の階と同じで、イベントらしいイベントは起こらない。とはいえ、まっすぐな道を進めばいいだけなので、迷うことはない。その点は前のフロアよりも、ずいぶんと楽だった。

 しかしそれゆえに退屈な旅路とも言える。単純な作業を長時間続けることは、それはそれで疲れるものだ。とはいえ、さまよわずに済むことを思えば、些細ささいな問題だった。そのとき――。


「――止まれ!」


 メカの鋭い声がダンジョンの壁に反響する。ゼロ達が一斉に足を止める。


「どうしたんだよメカ。急に大きな声出して」


 いったい何事かと、ゼロが、いぶかしがる。

 しかし、メカは何も答えない。光る緑の瞳は、前方を凝視している。ゼロも同じ方向を見る。


「あれは……」


 視線の先にあったのは、こちらを向いて、たたずむ石像。まるで奥への進入をはばむように、通路の真ん中に鎮座している。石像は、鳥の形をしていて、高さはゼロの身長の二倍ほど。鋭いくちばしと、折りたたんだ巨大な翼。指先のかぎ爪は鋭利で、片手には巨大なやりを握っている。

 どことなく不気味なたたずまいに、ゼロは本能的に警戒する。


「その石像がこのダンジョンのあるじ、ガーゴイルだ」


 メカが石造の名を明かす。


「見て! ガーゴイルの後ろ!」


 サーニャの指さす先――石像のはるか後方に、金色の台座がある。その上部には、青みがかった透明な水晶玉が埋まっていた。


「転移スフィアか! しめた! 出られるぞ!」

「無理だ! ヤツがいる限り進めん!」


 すぐにでも飛び出そうとするゼロを、メカが止める。


「要は倒しちまえばいいんだろ?」


 ゼロのアグレッシブな提案にメカは。


「攻撃を加えれば反撃してくるぞ!」


 脱出しようにも、ガーゴイルが、それを阻む。

 そんな中、「……ふっ」と、自信に満ちた声が上がる。魔法使いが、一歩前に出る。


「ガーゴイルやぶれたり! 手を出さない限り反撃してこないなら、やりたい放題じゃない!」


 自信満々に言うと、サーニャが先陣を切る。ガーゴイルに照準を合わせて、両腕を前方に伸ばす。少女の手に魔力が集まり、光り輝く。魔力は、少女の背丈に匹敵するほどの、巨大な炎のかたまりへと変化していく。


「食らいなさい!」


 特大ファイアーボールが、ガーゴイル目がけて放たれる。魔法弾は、ダンジョンの壁を照らしながら直進すると、無防備なガーゴイルにクリーンヒットする。その瞬間、炎の玉はまるできりのようにき消えた。


「ええっ!?」


 サーニャが取り乱す。石像は何事もなかったかのように、たたずんでいる。魔法攻撃が直撃したというのに、まったく効いていない。どういうわけか、完全にノーダメージ。


「ヤツは絶対の防御力を持っている。剣も魔法も効かない」


 メカの解説に、サーニャは口をあんぐり。


「はあ!? なによそれ! イーンチキ! イーンチキ!」


 不満を爆発させた魔法使いが、拳を突き上げてインチキコール。

 と、前方に鎮座ちんざする石造の目が光る。


「侵入者発見。殲滅せんめつする」


 石像が翼を広げる。巨大な羽が通路の両サイドまで広がり、ゼロたちの進路を完全にふさいだ。ゼロが。


「やべ! 怒らせたみたいだぞ!」


 翼が羽ばたき、巨大な石の体が浮かび上がる。と、次の瞬間、ガーゴイルが滑空かっくうし、ゼロたちに急接近する。それは、石像とは思えない素早さで、意表を突かれたゼロは体が硬直する。そんな少年に向かって、石像は握った石の槍を突き下ろす。速い。空気を割く高速攻撃が、ゼロの顔先に迫る。


「うおっ!?」


 穂先がぶつかる直前、無意識に床を蹴ったゼロ。後方に飛び退いて、槍の直撃を避ける。

 少年をとらえ損ねた槍が、床に激突し、衝撃でダンジョンが揺れる。その衝撃から、攻撃のすさまじさが肌に伝わってくる。一撃でも食らえば、大ダメージはまぬがれないだろう。

 空振りの隙をついて、仲間たちもゼロのところまで後退する。


「ちょっと、どうすんのよ! 魔法は効かないし、こんな狭くちゃゼロの勇者の剣だって使えないわ!」


 石像は明確にゼロたちの進行を拒絶している。しかし脱出するための転移スフィアは、ガーゴイルの奥。目の前の妨害者を倒さない限り、ゼロたちがダンジョンから脱出することはできないのだ。


「グオオオオ……」


 低くうなった石像が、再度、石の翼を羽ばたかせる。ガーゴイルが飛翔ひしょうする。少年たちの前までやってくると、槍を頭上に振り上げて、両手で握りこんだ。


けろ、みんな!」


 真っ先に反応したゼロが、その場から飛びのく。サーニャもそれに続いた。


「うわあああっ!」


 ダンジョンに悲鳴がこだました。

 クゥのものだ。

 ガーゴイルは、一人取り残されたクゥに狙いをさだめると、高く掲げた槍を躊躇ちゅうちょなく突き下ろす。巨大な石の槍が、小さな少女に襲いかかる。


「クゥ!」


 飛び出したメカが、動けないでいるクゥの前に身を乗り出す。

 直後、硬い衝撃音がダンジョンに響き渡った。


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