21 脱出不可能
警戒を強めるゼロたち。
その時。
「出口はない」
声がした。聞き覚えの無い声だ。どこからかは、わからない。しかし確実に聞こえた。しかもその声は人のものとも違う。
身構えたゼロが。
「モ、モンスターか?」
「わからない! 気を抜かないで!」
どこか硬質な足音が、少年たちに近づいてくる。
と、次の瞬間、両サイドに無数に伸びている通路の一つから、大きな影が姿を見せる。ダンジョンの淡い光に照らされたその相手は、巨大な二本の足でゼロたちの元まで歩いてくる。巨大な足が一歩進むごとに、硬質な音がダンジョン内に反響する。その相手は、ゼロたちの前にやってくると足を止めた。
背丈はゼロよりも高く、おそらく180cmほどはある。全体的に丸みのあるフォルムで、その体は金属で出来ていた。胴体には厚みがあって見るからに頑丈そう。長い腕はヒザのあたりまでダラリと垂れていて、手には五本の指がある。足はあまり長くはないものの、足部にはサイズ感があり、しっかりと床を踏みしめてバランスを取っていた。顔面部にある二つの目は緑色に光っている。
相手の顔を見上げたゼロは、上ずった声で。
「き、機械?」
ゼロたちの前に現れたのは人型のロボットだった。
「な、何者なの?」
構えを解かずにサーニャはロボットにたずねる。
「ガーディアン」
ロボットは端的な答えを返す。
「ガー……なんなのだ、それは?」
その単語の意味がわからないのか、ゼロたちの後ろに隠れているクゥが、機械に聞く。
「ガーディアンだ。このダンジョンを守っている」
「よくわからないからメカって呼ぶぞ!」
「変なあだ名をつけるな!」
ガーディアンが困った感じでクゥに注意する。しかしクゥは。
「だってメカだし」
「メカだし、じゃない!」
ロボットが強い口調で注意するも、クゥはまるで動じない。
それにしても、自らをガーディアンと名乗ったこの機械は、何者なんだろう。ロボットはゼロたちを緑の瞳で順番に見ると。
「お前たち、どうせ宝が目当てでやってきたんだろう?」
まるで見透かしたかのような的確な指摘。
「なぜわかったのだ?」
図星を突かれたクゥが、不思議そうに瞳をぱちくりする。
「ここにはそんなヤツらしかやってこないからな」
ロボットの口ぶりからして、宝目当てでダンジョンにやってくる人間は、多そうだった。
「だが残念だったな。ここに宝などない」
その一言が引き金になり、態度を一変させたサーニャがロボットに詰め寄る。
「はあ!? 古の魔導書は!? 禁断魔法は!?」
ロボットは、緑の目玉を少女に向けて、一切感情のこもらない声で。
「ないよ。そんなの」
「ガーン!」
サーニャが追い求めていた魔導書は、このダンジョンには無いらしい。ガッカリな現実を、少女はダンジョンの入り口で叩きつけられる。宝が無いとなれば、いったい何のために、こんなところまでやってきたのか。
よほどショックだったのか、サーニャはヒザから崩れ落ちて床にへたり込むと、ガクリと首を垂れた。
「なあ、出口がないって、どういうことだ?」
今度はゼロが質問する。ロボットは確かにそう言った。このダンジョンには出口がない、と。
「そのままの意味だ。このダンジョンは一度入ったら二度と出られない」
その言葉に納得いかないのだろう。力強く立ち上がったサーニャが、再びロボットに食ってかかる。
「はあ!? こんなところで死ぬなんて、まっぴらごめんよ! あたしはまだ読みたい魔導書が山ほどあるんだからね!」
落胆したり怒ったり、少女の感情がグワングワン揺れる。対するメカは冷静に。
「それは残念だったな」
メカに軽くあしらわれたサーニャは、納得がいってないらしく、今度はゼロに詰め寄る。
「ちょっと、なんてことしてくれたのよ! ゼロのせいだからねっ!」
「サーニャも乗り気だったじゃん! てか、サーニャの方が行きたがってただろ!」
負けじと言い返すゼロ。両者の間に火花が散る。
と、クゥが二人の間に割って入り。
「落ち着くのだ」
小さな腕が、ゼロとサーニャの身体を押し離す。
ガックリと肩を落としたゼロが「はあ……」とタメ息をつく。宝はない。出口もない。夢に見た冒険は、とんだ災難へと変貌を遂げた。
気だるげなゼロは、透きとおった青い瞳をメカに向けると。
「なあ、アンタはこのダンジョンを守ってるんだろ?」
「ああ」
「てことは侵入者である俺たちを倒すつもりか?」
途端、緊張が張り詰める。
ロボットからしたら、ゼロたちは外敵以外の何者でもない。しかも、宝が目当てでこの場所までやってきた。となると、ダンジョンを荒らす者と受け取られても、おかしくはないのだ。ガーディアンがこのダンジョンを守る者ならば、敵であるゼロたちを排除するのは当然のこと。
ロボットのボディは巨大で、がっしりとしている。見るからにパワーがありそうだった。この狭い空間でバトルになったら、面倒そうな相手と言える。しかもゼロたちの背後は壁。逃げ道はない。冷静に考えたら、ゼロたちは袋小路に追い込まれているのと同じ状況だった。
ゼロの問いに対して、ガーディアンは。
「別に」
そっけなく答えると、メカは興味なさそうにそっぽを向く。
「なんだよ別にって」
「このダンジョンは一度入ったら誰も出られん。だからオレが手をくだすまでもない。勝手に朽ち果てるがいい」
「なによ、その言い方。ヤな感じね」
ムッとしたサーニャが、口をとがらせる。
「なあ、とりあえずダンジョンを探索してみないか? どうせここにいたって地上には戻れないんだろう?」
ゼロが仲間たちに提案する。
「ウム」
深くうなずき、同意するクゥ。
ご機嫌斜めなサーニャも、特に反論はしてこない。異論はない、ということらしい。
小さな歩幅でロボットの足元に歩み寄ったクゥが、その顔を見上げると。
「メカも一緒に行くぞ!」
「なんでオレまで……」
少女から唐突に誘いを受けたメカが、戸惑っている。
「忙しいのか?」
「別に」
その瞬間、小さな手が、金属で出来た大きな手を握って引っ張る。
「じゃあ行くぞ!」
クゥがロボットの手を引いて、ダンジョンの奥に走り出す。
「お、おい……」
強引に引っ張られたメカが、少女に連れられるまま歩いていく。
「行こうぜサーニャ」
ゼロも置いて行かれまいと、後を追いかける。
「はあ……」
深い、ため息。顔いっぱいに不満を浮かべながら、サーニャも渋々(しぶしぶ)とダンジョンを歩み始めるのだった。
◇
ぼんやりと青く輝く壁のおかげで、ダンジョン内はどこまで行っても一定の明るさを保っている。しかしそれゆえに、長く滞在するほどに時間の感覚が失われていく。この場所では日が昇ることもなければ、沈むこともない。この場には朝も夜も無い。空が無いため今がいったい何時なのか、まるで見当がつかないのだ。ダンジョンに突入したのは夕方。外はもう夜だろうか。あるいは、まだ一時間も歩いてないのかもしれない。
景色も代り映えしない。同じような地形がずっと続いている。ダンジョンはおおむね5メートル四方の広さで、どこまで行っても淡い青の光を放つ壁に囲まれている。歩いているうちに、ずっと同じ道を進んでいるような錯覚に襲われる。奥に進んでいるという実感がないのだ。
「静かね」
先頭を歩くサーニャが正面を向いたまま言った。
「まあ俺たちしかいないしな」
サーニャの後ろを歩くゼロが、少女の背中に投げかける。ふいに足を止めたサーニャが後ろを振り返ると、真顔で。
「おかしいじゃない」
「うん?」
足を止めたゼロは、なんの話かわからずポカンとする。
「ダンジョンにはモンスターがいるんじゃなかったの?」
ここに来るまでモンスターらしいモンスターには一度も遭遇していない。とくにこれと言ったイベントもないまま、今に至っている。
「おいおいサーニャ。ここは現実だぜ? モンスターなんているわけないじゃん」
サーニャが、ムム……と眉間にしわを寄せる。ゼロの言葉に納得いっていないらしく、じっとりとした視線を少年に向ける。
「そのセリフ、あんたにだけは言われたくなかったわ……」
どうやらゼロの一言が効いたらしい。少年はここぞとばかりに挑発するような顔と声色で。
「ちょっとサーニャちゃ~ん、しっかりしてよ~。ここはゲームの中じゃないのよ~?」
「うっざ!」
「おほほほ!」
少年に煽られて、ムキーと拳を振り上げて地団太を踏む魔法使い。
すると、最後尾でクゥと並んで立っているメカが。
「このフロアにはモンスターはいない」
ゼロは後ろを振り返る。
「ってことは、次のフロアにはモンスターがいるのか?」




