君がそこにいてくれるなら、世界だろうと何だろうと敵にして見せるさ
「……あっ、蘭がいたですか? ……大丈夫ですか?」
わざわざ姫が来るなんて、そんなの可笑しいわよね。何かあったのかしら。
「でもその様子じゃ、悪くなかったって感じだね。」
稚夏と葵がやって来た。基本は無表情の稚夏が笑ってる。それが珍しくて、可愛くて……。うぅん、それじゃあ普通に私を心配してきたのかしら。
「皆~、蘭が見つかったよ~っ!」
葵が叫ぶと、ぞろぞろと人が集まって来た。この人も普通に嬉しそう。じゃあやっぱ、私を心配してなの? てか、どんだけの人数で探しているのよ。それで最初に私を見つけたのが姉様って凄くない? 天才じゃない? 天才よね。
「じゃあ、華世界まで行くよ。」
心配させちゃったんだし、これくらいは私がやるべきかしら。
「転移はボクがしましゅ!」
私の為に動いてくれたのでしょう? それくらいはね。私はまとめて華世界まで送った。さすがにこの人数になれば、さっき? 手に入れた光り出さない系のも出来ないのね。やっぱあれは、私1人しかいなかったから? まあどうせ闘うときは1人だわ。
それに、実戦で使いたいから隠しておきましょう。葵なんて言う、愛世界の中心だってこの場にいるんだし。まあ見ただけでは、誰も転移だと気付けないと思うけどね。いつか最後の戦いの為に、誰にも本気なんて見せないの。
『何これ……。』
私を含む皆が同時に言った。えっ、何? って、何これ……。甘世界も酷いと思ったけど、華世界まで同じ状態になってしまっているわ。でもリンは……。
「……花が全て枯れているのです。……どうゆうことです?」
稚夏が枯れた花を1つ採った。誰がこんなことやったの? 許さないわ……っ!
「酷いでしゅ。頑張れば、戻しぇないこともありましぇんが……。」
水属性魔法で1輪ずつ直すって手を使えば大丈夫な筈よね。それがめんどくさいとか、水分の問題じゃないんだよなあって場合も。時属性魔法で時間を戻せば絶対だわ。……まあ、時属性魔法を使えることは隠しときたいけど。
「いいえ、その必要はありませんわ。こうなってしまったのならば……っ!」
姉様が呪文を唱えると、更に地面にひびが入って行った。そして枯れた花はほぼ完全になくなった。これが姉様の土属性魔法なの? 唯一、私が知っているのに全く使うことが出来ない魔法……。姉様は教えてくれないし、何を調べても基本の呪文すら分からなかったあの……。初めて見たわ。抑々、姉様が魔法を使う姿自体ほぼ見たことないし。
「姉様、どうゆうことなのじゃ。グチャグチャになってしまっておるぞ。」
愛妃姉様が不思議そうに訊いた。表現が悪いわ。自分の世界に対して、グチャグチャだなんてそんなのないじゃない。実際にそうだったとしても、さ。
「こうされてしまったのならば、もう1度やり直すいい機会だと思うんですわ。元に戻すのではなく、また新しく作って行きましょう。世界も、考えも……。」
どうゆうこと? 考えても分からなくて、私は姉様の考えを見せて貰った。
ーお花にこんなことするなんて、許せませんわ。もう華世界も、戦いのない世界など終わりにせざるを得ないのかしらー
戦いを始めると? 戦に華世界も参加すると? そんな姉様らしくないこと、信じられないわ。
「また、新しく? 美希、どうゆうことかな。何がしたいの?」
葵が問い掛けた。葵、結構本気の目をしているわね。姉様の意図を察せないって感じかしら。
「……華世界も、平和は終わりみたいです。……だから花が枯れたのです。」
平和を示す花。それが枯れるということは、平和ではなくなるということ。それはそうなのかもしれないけど、でもそんなの関係ないわよ。戦いを始める理由にはならないわ。
「……皆、一緒に戦ってくれるですか?」
悪世界が攻めて来た時にも、こんなことがあったわね。あの時は私も許せなくて、暴れ回っちゃったけど……。でも今は思うの。戦いは避けられるんじゃないかって。そんなのは所詮、世界を知らない子供の甘ったれた言葉かもしれないけれど……! でも、戦いは嫌だから。
「ボクはイヤでしゅ。戦いたくありましぇん!」
闘いは好きだけど、戦いは嫌。あの時だって、沢山の人が死んだわ……。
「私だって! 戦いたくなんてありあせんわよ。でもね! でもね……。」
姉様は戦う気満々じゃないの……、どうしてよ……。
「でもじゃありましぇんよっ! どんな理由だって、戦いはダメにゃんでひゅっ!!」
驚いたわ。最後なんて、わざとではなく普通に噛んでしまったもの。私は、そこまで私は動揺しているのね。
でも本当に、戦うことに意味なんてないから。争いが生み出すのは平和じゃないわ。新たな争いと、悲しみだけよ。
「……蘭、それではいけないのです。……時には悲しみが必要なのです。……悲しみの先に、新しい世界が待っているのです。……ですから、許して欲しいのです。」
別に、新しい世界なんていらないわ。このままでいいじゃないの。
「僕はいろんなところで戦ってるけど、その後も戦いが続くだけだったよ。」
葵も私と同じ考えかしら。それが本当ならいいけど……。でも大きな魔力を持ち、人を傷付けてきたのは葵だって同じ筈だわ。
「……それはただ、新しい世界が戦いの世界だっただけなのです。」
何よ、戦いの世界って……。意味分かんない。
「……しかし、戦いの世界を作らなようにすればいいですのに。」
戦いの世界を作らないように? そんなことが出来るんなら、誰だってやっている筈じゃない。まあ、戦いを望む最低な奴も中にはいるかもしれないけど。
「どうゆうことかな? どうすればいいのか、僕に教えてくれる?」
ええ、私も説明を求めるわ。
「……刃向かうことなどできない程、絶対的な力の差を見せ付けてやればいいのです。……それが出来ないから、戦えなかったのです。」
絶対的な、力の差……? つまり稚夏は、今なら何だか分からない奴を圧倒できるだけの力があると言いたいのかしら。力を蓄えているような感じも、あまりしなかったのだけどね。
「では皆様に聞きますわ。戦うのか戦わないのか、どっちになさいますこと?」
皆、戦おうとしている。姉様も、それを分かっていて聞いている。
「戦が始まったら、またご飯が減るのかのう。妾はそんなの嫌じゃ。」
理由はともかく、愛妃姉様も戦いには反対ってことね。
「……いいえ、食糧は十分にあるのです。……安心して欲しいのです。」
稚夏の言葉に、愛妃姉様は少し反応した。簡単に釣れ過ぎじゃないかしら、この人。この調子だと、誘拐とか簡単にされそうね。
「本当かの。それならば妾は、……あっでも……。」
愛妃姉様は迷っているみたいね。人じゃなくて自分の食べ物の心配とは、どうゆうことなの? 妹として恥ずかしいわ。
「……戦に勝てば、沢山の美味しいものが手に入るですよ。」
稚夏、嘘よね? そんな方法で、愛妃姉様を。稚夏はこんなじゃなかったわ。もっと優しくて、もっと素敵な人だったわ。
「えっ? じゃあ妾も賛成じゃ。勝って勝って勝ち捲るぞよ~!」
愛妃姉様の目がキラキラと輝いた。愛妃姉様は元々こんなんだったけど、まさか稚夏や姉様が……!? 有り得ないわ。そんなの、許さないわ。
「稚夏、どうゆうことかな。君はいつから、そんなことの為に戦いをするようになったんだい? 全く情けないね、ふざけないでくれる?」
葵のことは信じていいの? 私と同じ意見なのよね……。
「……ふざけてないのです。……葵だって同じです。……戦いを終わらせる為に、私達は戦うのです。……力はあるので大丈夫です。」
戦いを終わらせる為に、戦う? それじゃ終わらないわ。
「力があったって、平和は生まれましぇんっ! 戦いはエンドレスでしゅ!」
だからやめてよ。もう、嫌なのよ。
「ならば蘭は、悔しくありませんの? もう平和な世界終わったんですわっ!」
姉様、どうして? でも2人とも、相当やる気ね。ああ、もういいわっ!!
「姉様、分かりました。2人を……いやボクは、皆を信じましゅ! また、戦いが始まりゅにょでしゅね。でもボクは、もう1度だけ頑張りますから……。」
私は戦う。だから動きも作戦も、全部任せるわ。
「え~蘭も? 何でよ、何でよ……。」
葵だけは、納得のいかなそうな顔をしていた。
「……華世界で決まったことなのです。……だから、貴方の反論なんて聞けないです。」
……!? 何だか、稚夏が冷たいような気が……。
「へえ、なるほどね。じゃあ僕はもう帰るよ。」
葵が消えた。それもわざわざ、転移の方が得意な筈なのにワープで。もしかして、葵は最初っから華世界を。やっぱり彼は愛世界の人間なのね。
「今のは酷いんじゃない? ってシイは思うんだけど……。」
女性がテクテクと歩いてきた。可愛らしい薄ピンクのワンピースに身を包まれた、途轍もなく可愛い人だった。そして私は、彼女のことを知っている。
「どこかで見たことあるのう。誰じゃったかな。」
見たことあるのは多分、私が持っているグッズでじゃないかしら。だって愛妃姉様だし。
「知らないの? シイはショックを受けるんだけど……。でも蘭ちゃんは知ってるよね。ってシイは聞いてみるんだけど……。」
しいちゅんが、私のことを知っている? 何それ、超嬉しいんだけど。
「えっはい! 大ファンでしゅ。握手して貰えますか!?」
ヤバい、こんなところで会えただけでも嬉しいのに。
「勿論だよ。ファンがいてシイは安心したんだけど……。」
しいちゅんが握手をしてくれた。ほわわわ~、って気分になるわね。
「じゃあ愛言葉ね。ってシイは調子に乗ってみるんだけど……。行くよ、し!」
「しくしく泣いちゃうときだって。」
「お!」
「落ち込んじゃうときだって。」
「り!」
「リンリン鈴の音聞こえてくれば、ハッピーにしちゃう。」
『しいちゅ~ん♡』
あれ? 私しか言ってないわよね。他の人は? 折角しいちゅんが言ってくれたのに、愛言葉を言わないってどうゆうこと? 信じられないわ。
「ら、蘭? 大丈夫ですの?」
姉様が完っ全に引いてるわ。でも構わないわ、恥じることなんて何もないんだから。
「でも蘭ちゃんはやっぱり栞連合の仲間だったんだ。ってシイは喜んでみるんだけど……。他の人は答えてくれなかった。ってシイはやっぱり凹んでみるんだけど……。まあいいや。ってシイは立ち直ってみるんだけど……。」
そしてしいちゅんは、稚夏の目の前まで走っていった。
「あっそうだ! てシイは本当の目的を思い出してみるんだけど……。華世界が戦うなら、本世界も協力しようか? シイはそれを伝えに来たんだけど……。」
そんなことの為に、しいちゅんが? 確かにしいちゅんみたいに、本世界出身人は少ないわ。そうゆう人が来た方が、本世界のって気がするかもしれない。
「……協力です? ……その必要はないのです。……本世界を巻き込んだりしないのです。」
本世界は戦わないところだもんね。どこにも平等だし。だから別のところの戦に協力するなんてこと、無いと思ったんだけどな。絶対に可笑しいわ。
「質問じゃ! 抑々妾たちは、どこと戦おうとしておるのかのう。」
あっそうね。愛妃姉様にしては珍しく、尤もなこと言ってどうしたの? 具合でも悪いのかしら。
「悪世界じゃないの? ってシイは聞いてみるんだけど……。」
私を攫ったのは悪世界だし、皆がいなくなるようにだとすれば……。でもこんなことをして、悪世界に何の得があるの? 私達が戦うように背中を押したのか、ただ平和を壊したかっただけなのか。訳分からないわ。どうゆうことなのよ。
「私もそうだと思いますわ。塔の近くに、悪世界の人っぽい女性を見つけましたもの。」
姉様の言葉によって、全員が悪世界が犯人だと確信した。
「……蘭、美希、城に来て欲しいのです。……他の人は解散してです。」
稚夏が私と姉様を交互に見た。何の要かしら。
「蘭と姉様を呼ぶのに、妾は帰るのかのう。まあ、分かったのじゃ。」
私は愛妃姉様を塔に転移させ、私と姉様と稚夏は城に転移させた。
「……着いて来てです。……ちょっと、気になることがあるのです。」
気になること? 何かしらね。
「……ここなのです。」
稚夏は扉を開けた。何の部屋なのかしら。
「これは、何……?」
私はつい声を漏らしてしまった。だって何か、7色に光っててチカチカしたんだもん。
「……私が管理している、唯一の伝説のアイテムなのです。……1輪の花というのですが、知っているですか? ……有名ではないと思うのですが。」
1輪の花? 知らないわね。聞いたこともないわ。
「……遺体にその花を添えると、すぐに生まれ変わりが身近に生まれるそうなのです。……でもこのアイテムが光るという話は知らないのです。……何か分かるです?」
生まれ変わり、ねえ。これを使えば、地獄に送られた人だって助けられるのかしら。
「何も分からないわ。このアイテムの存在も知らなかったし……。」
「私も分かりませんわね。この光、何かの役に立てばよいのですが……。」
そうね。私達にプラスならば存分に使うんだけど、マイナスならばこの場で燃やしてしまうわ。さあて、どんな意味を示しているのかしらね。
「この花、触っても宜しくって?」
さすが姉様、触ろうとするなんて。私だったら怖くてできないことだわ。
「……いいですよ。……ですが、気を付けてです。」
姉様は頷いて、触ろうとした。そのとき、ノックの音が聞こえてきた。
「入るわよ。」
扉が開き、由里と健人が入って来た。どうかしたのかしら。
「……どうしたのです? ……学校は終わったのですか?」
そういやこの2人、人間世界の学校に通っているのよね。そんなめんどくさいこと、よくやっていられるわね。
「えっとね、今は休み時間よ。でも、今日中はいられる筈よ。で、これは何?」
わざわざ休み時間に来たの? めんどくさいわね。でも私が行っていない訳だから、送ったんだとしたら雛乃よね。
「触ってもいいの?」
由里、本当に凄いわね。姉様だって、こんなにすぐは触ろうとしなかったのに。
「……どうぞです。……気を付けるですよ?」
由里と姉様が、勇者と魔王が光の中に手を入れた。すると光がなくなっていき、花の横に何かが落ちた。……何かしらね。鏡のようなものだと思うけど、どうしてかしら。
「綺麗な鏡ですわね。」
姉様が言った通り、とても綺麗な鏡だった。鏡と言うより、縁のところ? いや鏡自体も綺麗なんだけど、周りが宝石などで彩られててそっちの方が綺麗なのよ。薔薇の花柄も、派手ではなく……綺麗で。もう、とっても素敵なの。
「……これも恐らく特別なアイテムですよね。」
私達がその鏡を眺めていると、鏡は急に砕け散ってしまった。幸い誰も怪我はしなかったみたいだけど、何かしら危ないわね。
「……!? ……思い、出したのです。……勇者の指輪なのです。……この鏡は平和の証、勇者の指輪なのですよ。……でもあの時、光ってはいなかったのです。」
まあ何と無くで言えば、平和が戻ったから稚夏に返したあの指輪。あれが、この鏡になったってことかしら。
「平和の証は砕けたってことですの?」
姉様、そんな悲しい言い方しないで頂戴。確かにそうだけども、もっと言い方を考えて頂戴。
「……そうなるですね。……まあいいのです。……平和が戻ればまた、ここに戻って来る筈なのです。……だから今は戦うのみです!」
平和が戻ればまた、ここに戻って来る筈? そんな訳ないじゃないの。神様はもっとずっと意地悪なんだからね。神を信じちゃ、ダメだからね……。きっと勇者は他の世界の勇者となる。だって戦がないという理由で、平和の証を受け取ったのでしょうから。
「戦うって何と?」
あら、健人。今日初めて喋ったんじゃないかしら。
「悪世界とですわ。」
「ちょっと待って!」
姉様の答えに対してか、由里はいきなり叫んだ。
「悪世界って、いちごのとこだよね。なんで戦うのっ!?」
私も最初は、なんで戦うのか理解できなかったわ。戦いたくなんてなかった。でも姉様も稚夏も、本気だったから……。まあ私に、いちごと戦いたくないなんて感情はないけどね。だって彼女は所詮、私達の”敵”だから。
仲間を傷付けたくなかっただけ。私は別に、敵が傷付くのを気にしたりはしないわ。そこまでのいい子ちゃんじゃないものでね。
「……由里、貴方は滅茶苦茶にされた花を見なかったのですかっ!? ……花の悲しみが分からないのですか!? ……戦いはもう、避けられないのです。」
ええ、分かっているわ。戦いを避ける道を、私が壊してしまったことくらいはね。こんなことになるんだったら、脱獄くらい自分ですればよかったわ。
「由里、オレもそう思う。戦いは避けられない。」
反論しようとした由里に、健人は静かにそう言った。どうしたの? 健人にしては珍しいわね。
「だって、ゆかりさんが……。」
ゆかりさん? ゆかりなんて、夢世界のゆかり姫しか知らないわ。でも健人との接点は見当たらないから、私の知らない人かしら。
「お母さんがどうかしたの?」
え、お母さん? てことは、そのゆかりさんって人は由里の母親なのね。でもだったら、どうして今出てくるのかしら。
「分かんないけど、凄い凹んでて。それで、これを……。」
健人は、ポケットからビー玉のようなものを取り出した。何かしら。
「それ、あの時の……。」
由里は何を思ったかそのビー玉を奪い取った。そして暫く眺め、握り締めた。そしてまた暫くすると、健人に返したのだった。何なのかしら。
「……はあ、最悪だわ。もうどうしようもないのね。」
誰かが何かを仕掛けているのかしら。色々な小道具を用意して、私達をどうしても悪世界と戦わせる為に。そうでもないと、稚夏や姉様、健人も由里も戦うなんて言う筈ないもの。きっと……絶対に……。




