……愛は負けない筈なのですが
「星世界ってゆうのは、華世界の北東あたりにあった世界なの。まあもう既に、滅んじゃってるんだけどね。」
もう既に滅んでいる、世界か。それも華世界の北東……。でもその場所って、愛世界があるんじゃ……? ってことは、名前が変わったとかなのかな。だって、攻め込んで奪った地なら愛なんて名前が付くわけないもん。
「今の愛世界の地にあったんだけど、それは分かるわよね。」
そこは分かってるんだ。でもだったら、どうゆうことなの? 何があったんだろう。
「元々愛世界ってのは、もっと遠くにあったそうなの。でも30年くらい前に土地が崩れていったんだって。だから星世界に逃げたわ。そして星世界を乗っ取り、王だった人を追放したの。酷い話でしょう?」
土地が崩れた? 神様を怒らせたってことかな。
「どうして星世界を?」
他の世界に行ってもいいんじゃない?
「丁度良かったのよ。全員が入れるくらいの、十分な広さがあるでしょ。それに元々住んでいた人が、とっても少なかったのよ。」
へえ、なるほど。でも愛世界に、そんな力が?
「その上いい場所だもの。だって、星運岡と想い出の丘があるのよ?」
魔法のアイテムがたくさん取れる岡と、願いを叶える丘。
「あっ! 星世界って、1つの種族しか住んでなかったとこだね。美世界から崇められてたとかでしょ。ちょっと聞いたことある。」
そこに住んでた種族は……何だっけ……?
「ウサギよ。元々住んでいた、伝説の種族。」
ああ、ウサギか。今はどこにいるのかも分からない、伝説の種族ね。
「ウサギには2種類あるらしいの。月のウサギと、時のウサギが。」
伝説の理由はそうゆうことか。同じ種族なのに、属性が違うということ。
「月属性魔法は基本的に、未来を見る能力程度よ。それで、時属性魔法は……。」
未来を見る!? それが程度って、じゃあ時は……。
「それプラス、時間を止める能力よ。それに高レベルになれば、物を新しくしたりできるみたいだわ。だからつまり、壊れたものを壊れる前に戻したりとか。生き物は無理だと思うけどね。」
時間を、止める? 何それズルくない?
「激レア種族よ。何てったって、全部で50人くらいしかいないそうだもの。あっこれは、最新の情報なんだから。」
「凄いね、どっから情報仕入れてんの?」
30年くらい前って、それじゃ私も生まれてないんだよ? 何でそんな詳しいの?
「そうね……。星世界については、小さい頃葵に聞いたわ。」
葵くんに? でも10年近く前なんじゃないの? よく覚えてるね……。
「あっ思い出したわ! ウサギが激レアの理由! 確かね、親のどちらかはその種族じゃなきゃならないみたいなのよ。その上、だとしても確率は低いわ。」
え? 両親ともウサギじゃなかったら、完全に0%ってことなの!? そりゃ激レアにもなるよ。それに絶滅しちゃったら、もう生まれることはないってことだもんね。
「それは大変だね。でも優秀だし、誰か仲間にしたいね。」
それが無理だとしたら……。諦めたくはないけど、無理だとしたら……。
「誰か……時属性魔法を覚えることは出来る? それが出来るなら、探さないんだけど。」
「ほぼ無理みたいよ。でも時属性に1番近いのは愛属性、月属性に1番近いのは水属性よ。私の知っている範囲では、ね。」
いちごは物凄く即答してくれる。愛属性? 何それ、……何だろう。水属性は普通に猫だよね。
「愛って何だっけ? 聞いたことはあるけど、覚えていないな。」
誰かいたと思うんだよね。何だっけな、どうしても思い出せないね。
「愛属性魔法を得意とする種族ってこと? それだったら、人魚だと思うわよ。」
人魚? それって、稚夏くんの種族だよね。でもそれもレアなのかな。1人しか知らないよ。ただ人魚くらいなら、華世界にパラパラといるらしいよね。
「そっか、人魚か。それはそれで難しそうだね。う~ん、月の方は出来るかな?」
猫だったら、探さなくてもいっぱいいるし。月属性魔法の方も、十分優秀だからね。
「いや、きついんじゃない? 他のに比べて近いってだけで、結局は遠いんだから。」
あ~、それもそうか。じゃあ未来を見る能力も時間を止める能力も、私の手には入らないってことか。
「じゃあそれについては……潔く諦める! 次の質問ね。愛世界って、そんなに力があったの? 貧乏世界のイメージしかないんだけど。」
乗っ取るだなんて、愛世界っぽくないよね。まあ30年前ってことは、少なくとも永輝くんじゃないからね。
「うん、あったみたいよ。なぜならあの世界は、いろんな世界からたくさんの物を盗んでいたからね。それに税金が高かったのよ。民に重労働をやらせ続け、反抗の気力も与えないくらいだしね。そして逆らったものには容赦がなかった。王様の機嫌を損ねれば即死刑だから、みんな必死に頑張ったらしいのよ? 世界から出ることも許されなかったらしいわ。そんなだから、王様に力を手に入れさせてしまったの。」
いちごは右手を動かして、仕草付きで説明をしてくれた。でもそんなじゃ、私じゃない私さんよりもずっと酷いよね。
「そのやり方で、どうして愛世界という名前なの? 神様が変えちゃったりするんじゃない?」
どう考えたって、そりゃ愛じゃないよね。私の世界よりもよっぽど悪世界だと思うよ。
「それは多分、悪とか犯罪で溢れていたんだけど……。それ以上に愛で溢れていたからよ。」
愛で、溢れる? どうして、そんなに……?
「神様に好まれていたからよ。17年前に、とっても素敵な贈り物もあったしね。」
とても素敵な贈り物? 何だろう……。17年前、いちごが17歳だよね。だから、いちごが生まれた年か。
「すぃーすぃー。今は貧乏なのと今も愛で溢れていること、それはその贈り物のおかげよ。何か分かるかしら。」
愛世界を愛世界にしているもの、愛世界を貧乏にしたもの。何だろう、そんないいアイテムを持っているの? 分かんないな。
「永輝よ、彼がいい人だったの。盗みなんてとんでもない、悪いことを考えすらしないんだもの。励ましたり応援したりの為の、ちょっとした悪戯くらいしかしない人だわ。だって彼が王の座を継いで、まず何から始めたと思う? 普通の王が出来ることじゃないわよ。」
王を継いで? 永輝くんが? そんなの知る訳ないじゃん。
「知らないよ、何をしたの。」
分からないので諦めていちごに問い掛ける。だって分からないものは分からないもん。
「愛世界の民全員に、謝りながらプレゼントを送ったの。『今まですみませんでした。税金を取り過ぎて、皆様の生活を苦しめてしまったことでしょう。ごく1部ですが、お返し致します』みたいな意味を込めた、『金やるから、俺に仕えろよ』という彼にしては素直な言葉を言いながらね。じゃあ、次は分かるかしら。」
本人が配ったってこと? 1人1人に? いやでも、さすがにそんな訳ないよね。
「ごめん、知らない。」
次はどんな理解できないことを? 次もどうせそんなもんなんでしょうね。
「えっとね、物を盗んだことのある全ての世界に行って……盗んだ全ての物を正直に言った。そしてその分を全て、愛世界の借金とした。それで、貧乏世界の完成ってわけよ。彼がそんな性格だから、愛世界は愛で溢れていた。どんなに辛くなっても、住民の心は彼への愛で溢れていたから、愛世界から出て行かなかった。まあ彼の外見に引かれた人もいるでしょうけどね。」
あの少年、そこまでのいい子だったんだ。
「確かにツンデレ少年偉いな、とは思ったけど。そこまでするとは。」
民全員に配って歩く。それに秀でた魔法とかあるのかな。
「永輝くんの種族は何か分かるかな。ちょっと気になるんだけど。」
魔法が無かったら、ほんとそんなのやってらんないよね。あっでも、本人がやったとは限らないかな。
「聞いたこともないわ。永輝の、種族? すぃー、全く分からないわね……。」
いちごでも分からない? ということは、私みたいに隠しているということも……。
「ねえいちご、美世界に行こう。やっぱ諦めない!」
「すぃー、分かったわ。でも時間が時間だし、明日にしましょうよ。」
明日ね、了解! 楽しみだな。私じゃない私さん、明日は来ないでいてくれると嬉しいんだけど。
「よし、じゃあ明日に決定ね。はいこの話は終わり。あのさ、いちごが好きそうなところ見つけたよ。いろんな種類の温泉があって、その上スィーツ食べ放題って奴やってたと思うよ。愛世界のエンジェルタウンって言う商店街にある、天使のつばさ? 的な感じの店だったかな。私が奢るから行こう☆」
広告によれば、ストロベリーフェスタとかだったし。天使でストロベリーとか、いちごにぴったり♡




