……皆と一緒だと、楽しくなるのですね
「少し失礼しますね。」
愛華くんは私の頭に手を置いて呪文を唱えた。何の呪文なんだろう。聞いている限り、幻惑とかその辺っぽい単語はあったけど……。
「これで大丈夫です、行きましょう。」
あっ、服が変わってるんだね。甘世界の王の衣装かな。多分、髪型も甘世界の王風に変わってるね。
「……。」
愛華くんはとても不安そうな顔をして、そこの家のピンポンを押した。するとすぐにドアが開いて、知らないおじさんが出てきた。誰だろうこの人。私よりも10個くらい上に見えるけど……。
「え……。もしかして、雄哉と愛華さん?」
そっか、なるほどね。この髪型でこの服ならば、私は悪世界の王じゃなくてどう見ても甘世界の王だもんね。顔は同じなのに……、髪型と格好って大事だね。
「優斗さん、ですか? どうしてここに……。」
優斗、くん? それって、私にお花を届けてくれたお兄さんの名前と同じだね。
「どうしてって、自宅だしさ。」
でもだとしたら、優斗お兄さんと由里にどんな関係が?
「雄哉は覚えてないのか? 花咲か爺さんだゾ!」
花咲か爺さん? ってことはやっぱり……。
「優斗お兄さんなの?」
私がそう呟いた。どうして? 不思議に思った私は、手を動かしてみた。動ける! 何で? 今はいちごがいすらしないんだよ? どうしたんだろう。届くと思って『行こうか』とか言ったけど、人間世界まではさすがに届かなくて私は私に戻ったとか?
「何だ、覚えてたのか。まあ話は家の中で聞く、あがってあがって。」
ふ~ん、簡単に侵入成功だね。あれ? 優斗お兄さんの衝撃で、当初の目的を忘れちゃったな。
「お父さん、誰か来たの?」
由里くんの声が聞こえてきた。お父さん?
「お父さんの友達だよ。」
どうゆうことなんだろう。優斗お兄さんの実の子供だとしたら、こんなに大きい訳なくない? いい人だし、拾ったとか? そうでもないと、歳が合わないよね。
「いいから由里は、学校の用意しちゃいなさい。」
由里くんって学校行ってるの? てか人間世界で暮らしてるの? 華世界なんだと思ってた。
「もう終わったわ。朝ご飯は?」
「今作るゾ。待ってろ。」
隣から優斗お兄さんがいなくなった。この世界で魔法って、それはなしじゃない? 多分さ。
「王様、驚きですね。優斗さんに会えるなんて!」
愛華くんは目をキラキラと輝かせている。愛華くんと優斗お兄さんにどんな関係が?
「……あ、失礼しましたっ。しかし今日の王様はどこか、昔の雄哉さんに戻ったみたいです。」
今日の私は私みたい? まあ、私本人だからね。
「意味不明なこと言ってごめんなさい。でも……、本当にそうなんです。」
愛華くんは目を逸らして、少し嬉しそうな顔をした。何でだろう。
「今日の私は悪世界じゃなくて、甘世界の人間だからね。悪い奴から、甘い人になるんだ。」
そうすりゃイメージアップだね。本当に悪から甘くなれたら、いちごは大喜びしてくれるんだろうな。
「甘い人ですか……。本当に、雄哉さんらしいです。」
愛華くんは笑顔を向けて来た。愛華くんの、こんな素直な笑顔……滅多に見られないよね。写真撮っときたいくらい。でもいちごにもよく言われるんだけど、私らしいってどうゆうの? それがよく分かんないんだけど。
「2人も早く来て。」
隣に優斗お兄さんが出現して、私達を両手に掴んだ。そして高速で移動をした。
「朝ご飯食べなよ。ほら、座って座って。」
あっちじゃ朝じゃなかったし……。もう昼近くだったよ? そう思いながらも、私は座った。別に、食べはしないけどね。
「もう食べたから、私は大丈夫だよ。」
私が言うと愛華くんもそれに頷いた。
「でもさ、お父さんと頼華って友達だったんだ。」
頼華? ああ、愛華くんの偽名か。由里くんは愛華くんのこと、頼華くんだと思ってるってこと?
「由里さんって、優斗さんのお子さんだったのですか。」
どっちの疑問も、私的には気になるね。
「ってあ! もう時間ね。行って来まぁす。」
由里くんは走り去っていった。元々の目的は勇者だった気がするけど、今は優斗お兄さんの方が気になるので着いて行かなかった。
「で、わざわざ家まで何の要?」
優斗お兄さんに訊かれた。話をするなら、ここじゃない方がいいんじゃない?
「場所を変えようよ。」
私は質問に答える前に、そう言ってとりあえず立ち上がった。
「……そうだな。話をするなら、愛世界がいいよな。」
何で愛世界? 優斗お兄さんは愛世界の人間とは聞かされてるけど……。
「愛世界ですか。ボクはいいと思います。王様……いや、雄哉さんもいいですか?」
やっぱ皆、私と私じゃない方の私の違いはすぐ分かるの?
「私もいいと思うよ。」
私は別に、どこだって構わないし……。ただこの世界でだと、時間の経過が早くなっちゃうからってだけだもん。
「ボクが転移使います。愛世界のどこに行くのですか?」
へえ愛華さん、ワープも転移も使えるんだ。魔力が愛華くんレベルだとしたら、珍しいタイプだね。
「城でいい。」
優斗お兄さんが言うと、転移が発動して家の前に出た。
「愛世界の城って、そういやただの家だったっけね。」
あんま来ないから忘れてたよ。貧乏世界だもんね!
「そうだぞ。ってなわけで、ちょっと歩いて貰うよ。」
歩くの? 何で何で? よく分かんないんだけど。
「城で話す訳じゃないの?」
私が質問すると、優斗お兄さんは頷いた。
「魔法無効化空間に行くから。これだけ先に言っておくよ。」
どうして? 私をやっぱり疑ってるからかな。
「この階段を下りて。その下の街には、第2の我が家とまで呼ばれた場所があるんだ。話はそこでするってことでな。」
そう言って優斗お兄さんは、少し先にあった建物のドアを開けて堂々と入って行った。豪華な建物だな。優斗お兄さんの実家とか? あでも、『第2の我が家とまで呼ばれた場所』って言ってたっけ。じゃあ違うのかな……?
「いらっしゃいませ。」
着物姿の女性が迎えてくれた。和風の顔や黒髪で、凄い着物が似合ってるね。
「あっ優斗くん。どうかしたの?」
優斗お兄さんの友達とかかな? それか、家族とかだったりして。
「七美、部屋を1つ借りるぞ。」
「3名様で御座いますね。珍しく私ではなく店の客みたいなので、特別に案内して差し上げます。」
店? この人店員なのかな? だとしたら、この態度って不味いんじゃないの? 取り敢えず私達は、スタスタと早歩きで行ってしまう店員らしき人の後を追った。
「こちらのお部屋へどうぞ。」
その女性は歩いている途中で突然立ち止まり、部屋のドアを開けた。そしてそこに入るよう促してきた。腕組んでさ、もう殿様商売とも言えない感じ? もう逆に名店的な?
「注文のさいやお帰りのさいには、あちらのボタンをお押し下さい。では、私はここで。」
女性は礼をした後、手を振ってから去って行った。
「優斗さんに確認です。由里さんと親子なのですか?」
愛華くんは座るや否や、むしろ座る前に問い掛けた。
「知らなかったのか? 娘が嬉し過ぎて、片っ端から皆に自慢して回ったんだがな。」
自分で自慢して回ったとか言うんだ……さすがだね!
「でも優斗お兄さんって、私とそんなに歳離れてないよね。あんなに大きい子供出来るの?」
10個くらい上に見える、とか思っちゃったけどね。
「優斗さんなら、子供とか拾いそうですけど……まさか?」
愛華くんもそう思った? やっぱり?
「拾ってなんかいないぞ。私の実の娘だ。子供が出来るのが、ちょっと早めだっただけだろ。」
実の娘なの? じゃあ、相手って誰? 結婚式とか呼ばれてないんだけど。
「早めって、いくつで出来てるんです?」
愛華くんが呆れ気味の口調で聞いた。
「17だぞ。だが大丈夫だ! 生まれたのは結婚した後だから。」
どうゆうことなんだろう。
「元々もうすぐ結婚する話だったんだけどさ、結婚の前に妊娠しちゃってね。でもまあ、可愛くて優しい子だよ」
結婚かあ。私の場合は、勝手に決められちゃったりするのかな。
「てか相手は誰なの? 結婚したって話も聞いてないよ。」
「私より4つ年上の、ゆかりって言う女性だ。夢世界の姫をやってるんだし、結婚の話はお前のところにも届いてるんじゃないのか?」
夢世界の、姫? それってあの、いくつになっても可愛い子? 私より10個以上上だった気がするけど、永遠の14歳は伊達じゃないよね! むしろもっと下に見えるよ。
「知りませんよ。何で教えてくれなかったんですか?」
「伝えようと思ったさ。だがな、お前らと会えなかったんだからよ。甘世界に行って、王の居場所を聞いたがな! 夢世界の者にゃ会わせらんねえって言われたさ。」
そう言えば私が会えるのは、完全に悪世界の者と逮捕されたものだけだもんね。
「愛華さんはそもそも、私が結婚した頃には出会ってないと思うぞ。だってまだ赤ちゃんでしょ?」
結婚したのは優斗お兄さんが18歳の時、つまり16年くらい前ってことだね。16年前じゃ私は、11歳かな? 11歳じゃもう、優斗お兄さんはこなくなってたか。それと、私じゃない私が登場してきた頃か……。
「そうですね。でも娘がいるとか、ボクに言ってくれてもいいじゃないですか。」
「だって言ってもどうしようもなくない? そんなの聞かれなきゃわざわざ言わな……。」
愛華くんの表情が曇っちゃってるよ? どうしたのかな。
「ボクを信じてくれなかったのですか?」
どうして信じていないことになるの? だって本当に、娘がいるんだとわざわざ言わないでしょ? 聞かれない限りさ。
「そんなことな……。」
「嘘です。信じてくれていたならば、由里さんと遊ばせてくれてたっていいじゃないですか。……そうすればボクは、普通に友達になれたかもしれないのに!」
友達になれないのは自分が悪いでしょ? ぼっちを人のせいにするのは最低だよ。それに愛華くん、友なんていらないって言ってたよ……ね?
「今からだって友達にくらい……。」
「もう無理なんです! ボクの中の友達は、……そんな軽いものじゃないんです。」
どうゆうこと? デブが好きなの? それも、友達として。変わった人もいるもんだね。
「それにボク、由里さんのこと騙しちゃって……。今更友達になんて、なれませんよ。」
騙すことくらい、仕方がないんじゃない? 誤解だったら、少しずつ解いて行けばいいよ。それに愛華くんが騙すのなんて、全部私のせいじゃないか。
「小さい頃は同じ歳くらいの人を、全員友達と言うじゃないですか。ああいうの嫌いなんです。それと、すぐに友達だよとか言ってくる人も大嫌いです。簡単に友達って言わないで欲しいんです。1番信頼している人しか、認めたくなんかないのです!」
愛華くん……、私のことは認めてくれてるのかな? てか私は、折角久しぶりに会った人との楽しい雰囲気を壊す人が嫌い。
「そんな話じゃなくて、もっと楽しくお話ししようよ。ね♡」
「ああ、そうだな。」
しかし優斗お兄さんは俯いてしまった。
「じゃあお前らと由里はどう出会ったんだ? まず雄哉からどうぞ!」
えっ? いきなり何さ、ビックリするじゃん!
「私と由里くん? ああ、あのね。確か……。」
☆
私が仕事してた時に、いきなり光が発生したんだ。私でもどんな効果か分からなかったよ。その光が無くなると、私は私に戻ってた。驚いたけど仕事した方がいいのかな、と思ったので書類に触れたの。でもその時ね、光の道が出来た。私はその道に沿って歩いて行った。その先に葵くんと由里くんと健人くんとちよこくんとれいとくんと仁志くん。その6人がいたんだ。皆不機嫌そうな顔だったし、葵くんなんて涙目だったよ。
「ねえ仁志くん。」
私は葵くんが可哀想だったので、仁志くんに声を掛けた。
「ひ・と・しくん、何してるのかなぁ。」
「殿! こっこれは違うのじゃ。」
仁志くんは慌ててしまった。
「なぁに?」
「違うのです。」
優しく言ってるつもりなのに、どんどん慌ててっちゃってる。
「何が違うのかなぁ、説明してくれる?」
「こいつらが綿あめ草原を脱走しようとしたのです。」
脱出ねえ、ダメなのかな。この人達、悪い人なの?
「本当に脱出なんてしようとしたの?」
「うん。」
へえ、正直だね。バカなのか天才なのか、私が見てあげるよ。
「どうして?」
取り敢えず私は理由を聞いた。
「下に別の世界があると聞いたから見てみたなと思って……。それで隠しカメラ持ってるんだけど、見て。そのおじさん僕のこと抱きしめてるでしょ。」
私はカメラを見てみた。確かに言った通りだ、この子は天才の方みたいだね。ここのルールも知っていて、初めから仁志くんを罠に嵌めてるよ。
「仁志くん、どういうこと? ここのルール覚えてるよねぇ。」
いいだろう、今は逃がすよ。やがて私の脅威になるだろうけど、仁志くんの負けだから逃がすっきゃないでしょ。
「あっその、いや違うんです。お許しください。その、……。」
仁志くん、言い訳は必要ないよ。私は別に怒らないから。
「綿あめ草原の子たちだよね。帰してあげるから、もうこっちには来ないようにね。」
私は仁志くんにその子たちを送らせた。
☆
「あんま印象に残ってないけど、初めて会ったのはこの時だったと思うよ。」
「ん、どうゆうことだ? 私は私に戻ってたって、どうゆう意味なんだよ。」
優斗お兄さんになら、教えたって……別にいいよね? あんまりいろんな人を信じ過ぎるなっていちごに怒られちゃうかもしんないけど、優斗お兄さんは私にとって大事な人だから……信じていいよね。
「甘世界の王雄哉じゃなくて、……もう一人の私を見せてあげるよ。愛華くん、お願い。」
私がお願いと言っただけで、愛華くんにはしっかり伝わってるみたい。愛華くんは私の衣装を、悪世界の王の物に戻してくれた。甘世界の王の服は、大事な時に使う侵入アイテムだからね。よく使って皆にばれちゃったら、悪世界の王ということで十分警戒されちゃうから、意味なくなっちゃうもん。
でも基本的にこの衣装を使うのは、私が私の時だけ。私じゃない私さんは使わないから、結局甘世界の王である雄哉が使う衣装なんだよね。
「最低の王様と最高の王様が、同一人物だってのかよ。」
まあ驚くよね。だって全然違うもん、そもそも別人だもん。でもこの説明なら、両方普通に私だと思うよね。操られてると言うのがばれない、素晴らしい説明の仕方だよ。
「最高の王様かぁ、嬉しいことを言ってくれるね。」
私の私は最高の王様ってことでしょ? でも私じゃない私は最低の王様。だとしても私じゃない私は私ではないんだから、私が悪いことにはならないんだよね! いや、私のこと気持ちがいけないんだ。あの時も私が、悪い人を悪いとして見捨てた。悪世界という物を作り出したんじゃないか。悪人はただ、助けて欲しいだけだと教わった筈なのに……。やっぱり稚夏くんみたいになれないよ、最低の王様は私なのかな。でもそれは……っ!
「雄哉さん、大丈夫ですか?」
愛華くんが心配そうに、心配そうに私の顔を覗いている。
「大丈夫だよ、心配しないで。」
私は得意の作り笑顔を愛華くんに向けた。いちご以外は誤魔化せる筈……!
「ほ~ら、もっともっと楽しく行こうってば。じゃあ今度は、愛華さんと由里が出会った時のストーリーを……どうぞ。」
優斗お兄さんが愛華くんに手を向けたとき、愛華くんは苦しそうな顔をした。そして手で頭を押さえて蹲ってしまった。どうしたんだろう。
「どうゆうことでしょう。思い、出せません。由里さんとの出会いが、ボクの記憶から消え去ってしまっているようです。何者かに呪われてる、そうゆうことなのでしょうか。」
へえ、呪いかあ。掛けたのが誰だか調べる必要があるね。まずそうしなくちゃ、解く手段はないもんね。
「ムリか……。やっぱり一緒に楽しく話してられないんだよな。」
「私達の立場じゃね。楽しい会話なんて、無理だったみたいだね。もう子供じゃないから。」
優斗お兄さんだって、夢世界の姫と結婚してるんじゃあ……昔みたいに自由でいられないよね。
「ボクのせいですね……。ごめんなさい、ごめんなさい。」
本当に心からの謝罪じゃないね。本当に自分のせいだと思うなら、つまらないとでも言って出てけ。
「愛華くんのせいじゃないよ、謝らないで。」
まあこの言葉を望んでるんだろうから、言っておいてはやるさ。優しい王様というイメージを、壊さないためにね。本当なら、思ってもいないことを平気で言う人は好きじゃないんだけど……。
「これ以上壊したくないよな。解散だ!」
優斗お兄さんは部屋を出た。するとさっきの店員さんがいた。
「七美、頼んだぞ。」
「分かってる。」
2人はコソコソと話をしていた。2人の話が終わったと思うと、私は優斗お兄さんに手を掴まれた。
「そういやここで転移、使えないんだな。ほら行くぞ。」
私はそのまま無理やり引っ張られ、外へ連れ出された。
「すまんな……、じゃあ。」
「……うん、じゃあね。」
私は2人に手を振った。優斗お兄さんはすぐいなくなったが、愛華くんは動かなかった。
「今日はもう休んでいいよ。」
そう言って私が手を振り続けていると、やがて愛華くんもいなくなってくれた。よしっ! 私は周りに誰もいないのを確認し、気配でも確認してから地獄にワープした。




