はなやかなタルト
女の子は泣きながら食堂に飛び込んできた。
「いらっしゃいませ。どうされました?」
ニールがハンカチを貸しながら問いかけると、女の子は泣き腫らした顔で訴えてくる。
「お母さんのケーキが買えないの!お小遣い、一生懸命貯めたのに!」
一流パティシエのケーキは、やはり貴族の贅沢品だ。
子供のお小遣いで買うのは難しい。
「私、この日のために、一生懸命お金貯めたのに…」
語尾が小さくなって、また泣き出しそうになる女の子。
「これで!このお金で、ケーキを売ってください!」
女の子が握っていた銅貨3枚を差し出してくる。
「あの、ここは食堂で、ケーキとか、お菓子は売ってないのよ」
エリスだってなんとかしてあげたいが、菓子は作れない。ましてやケーキなんて。
殿下との悪夢が甦る。
「…だめなの?ここの食堂おいしいって、お父さん言ってたのに…」
また泣き出しそうになる女の子に、エリスとニールが慌てていると。
「わかった。少し待っていてくれ」
レオンの言葉に、エリスは飛び上がった。
「ちょ、ちょっと!勝手に安請け合いしないでよ!」
キッチンに入ったレオンを追いかけて訴えたが、レオンは無表情なままだ。
「悪いけど、私はケーキ、菓子類の甘いものは作れないのよ!」
エリスの必死の訴えも、レオンからの反応はない。
「いい加減にー」
怒鳴りそうになったエリスの目の前に、レオンはタルトを差し出した。
「一品作れと言われたからな」
まるで手品のように出てきたタルトに、エリスは言葉を失う。
「何か果物はないか?」
「ジュースにしようとしていた、オレンジなら…」
「ジャムもあったな。オレンジは砂糖煮にしてのせよう。少しは見栄えが良くなるはずだ」
オレンジを受け取って、手際よく砂糖煮を作る。
「シェフ。砂糖煮の味を見てくれ」
言われるがまま、砂糖煮を口に入れる。
「お、おいしい…」
酸味より少し甘味が勝るが、タルトに乗せるならちょうどいいくらいだ。
「タルトの味も見てもらいたいが、仕方がない」
レオンは砂糖煮をタルトにきれいに盛り付けると、女の子の元に持っていった。
「即席で申し訳ないが、どうぞ。レディ」
タルトを見た女の子の顔が、パァっと明るくなった。
エリスには作れない笑顔だ。エリスはお誕生会に持っていけるような、はなやかな料理は作れない。
「ありがとう!お兄ちゃん!」
「はしゃいで転ばないように。せっかく買うのだから、お母さんにしっかり見てもらうんだ」
「うん!」
女の子はお金を払うと、包んだタルトを慎重に持ちながら帰って行った。
その顔は、食べる前なのにとてもわくわくしている。
「見た目も大事だろう?」
レオンの言葉に、エリスは唇をかんだ。
目で楽しませる。
エリスにはできない。指摘を受けて当然だ。
「それで?これからもパティシエとして雇って欲しいってこと?」
プライドを守るために、あえて刺々しい言葉を使うエリス。
そんなエリスに、レオンは首を振る。
「今の俺を雇えば、大変なことになる」
「ふうん。どうして?」
「俺は立場上、第二皇子だからだ」
空気が固まった。
エリスもニールも固まる。
なぜ気づかなかったのだろうか。
どことなく殿下に似ているというのは、不思議ではない。レオンは。
「第二皇子…レオン」
殿下の腹違いの弟なのだから。




