小さな来客
朝の四時。
レオンはきっちり来た。
眠そうな顔もしてないし、ちゃんと髪も整えられている。
「来ないかと思ってました」
「それで?何をすればいい?」
「特にありません。お金をいただいているので、端にでも立っててください」
てっきり、なぜ四時に来させたんだと文句を言ってくるかと思いきや、レオンは素直に邪魔にならない場所に立った。
じっと、エリスの朝の仕込みを見ている。
「一から、君が作っているのか」
「そうですけど?」
「下働きにやらせているのかと思った」
「私がこの食堂の、店長ですからね」
牛すじの下茹でをするエリス。
ニールが手伝ってくれるとは言え、作業量は少なくない。
毎日のことなので、手早く作業をするエリスの手を、レオンはじっと見つめていた。
居心地が悪い。
嫌がらせで四時に来させたが、少し後悔したエリスだ。
「そうだ。何か一品作ってみてよ」
視線に耐えられず無理を言うエリスに、レオンは頷いた。
「料理は子供の頃からやっていないが、やってみよう」
「給仕をしてもらう予定だから、あまり服は汚さないでね」
レオンが料理を始めたので、ほっと一息ついたエリスだ。
仕込みに集中していると、あっという間に開店時間になる。
「牛すじセット、3つお願いします!」
お昼時はどんどん客が入ってくるので、息つく暇もない。
「にーちゃん!新人か?」
当然、客にいじられるレオンに構っている暇はない。
じゃんじゃん用意して、じゃんじゃん食べさせて、じゃんじゃん帰す。
あっという間にお昼が終わり、ピークを過ぎて、ほっと一息ついたところだ。
「お疲れ様。ニールとレオンはお昼を食べて」
「ありがとうございます」
牛すじ煮込みが売りだが、他のメニューも当然ある。
今日のまかないはポトフだった。
「温まりますね」
ニールがレオンに声をかけたが、レオンはやっぱり無言。
しかし、ニールは気を悪くしなかった。
貴族の中には、下々の者と会話をするのも嫌だという人間がいる。彼もそうなのだろう。そんなふうに考えていた。
「彼女は」
逆にレオンが口を開いたので、ニールは驚く。
「どんな女性だ」
ニールは少し考えてから、素直に言う。
「働きやすい環境を整えてくれる、とても良い雇用主です。料理はとても上手ですね」
「もっと見た目に気を配れば、もっと高値で提供できるとは思わないか?」
「どうでしょう?味に集中するからこそ、おいしいのでは?」
ニールはポトフを飲み切ると、うんうんと頷く。
「お嬢様はおいしいものを食べさせたいという思いが強いんですね。食べた後のお客様の反応を、よく見ています」
レオンはそれ以降、何も言わなかった。
昼休憩を終え、夕方に向けてもうひと頑張り!というところだ。
小さなお客様が、泣きながら食堂に飛び込んで来たのだった。




