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7/12

意外な提案

食堂は今日も繁盛していた。

メニューも増え、従業員も増えたが、店長がエリスということと、牛すじ煮込みが看板商品というのは変わらない。

変わったことと言えば。

「牛すじ煮込み、セットで一つ」

今日も無愛想な男性が食堂に来ていた。

「昨日もそれでしたよ」

「今日もそれで」

「はいはい。かしこまりました」

第一印象が最悪だったため、エリスの態度は冷たい。

ガシャンと音が鳴るほど乱暴に、できたての牛すじ煮込みセットを男性の前に置く。

男性は出されたセットを無表情で機械的に食べる。そして、食べ終わるとなんの評価もせずに金を置いて帰っていく。

一人で黙々と食べるのだが、食べ終えるのにたっぷり1時間かかる。

他の客と食べるペースがまるで違う。

うまいうまいと言いながら、あっという間に気持ちよく皿を空にする他の客と比べて、明らかに遅い。

あまりの遅さに、エリスはやきもきしながら食べ終わるのを待っていた。

遅い上に無言、無表情。

おいしいと思って食べているのか、まずいと思って食べているのか、エリスにはわからない。

「国に帰るんじゃなかったんですか?」

嫌味たっぷりに聞いてみたが、男性は無言で食べ続ける。

今日もたっぷり1時間をかけて食べ終え、金を置いて出て行くのだろうと思っていた。

「なぜもっと、料理の見た目に気をつかわない?」

相変わらずの無表情で聞いてくる。

嫌味というよりは、純粋な疑問なのかもしれないと思ったエリスは、素直に答える気持ちになった。

「味が良ければ売れます」

「貴族向きじゃない」

「食堂ですからね」

痛いところを突かれている。

殿下に似た男に言われると、純粋な疑問でも腹が立つ。

「お嫌なら、来なければいいでしょう?」

別に、来てくれなんて言ってない。

言外にそう告げるエリスの目を、男性はじっと見つめてきた。

「レオン」

「はい?」

「俺の名前だ」

「はぁ」

気のない返事をするエリスに、レオンは平坦な口調で言う。

「1日、働かせてくれ」

「へ?」

「1日だけでいい。ここで働かせてくれ。金は払う」

無表情の中で、口だけを動かすレオンに、エリスは数秒固まった。

そして、ぷるぷると震えてから、レオンに静かに言った。

「舐めてます?」

「なに?」

「1日だけなら、こなせると思って、舐めてます?」

殿下もそうだが、レオンもそうだ。

料理を、キッチンを舐めている。

どうせ貴族のお坊ちゃんが、楽しそー。俺もやりたーい。なんて甘い考えで言っているのだ。

「わかりました。いいでしょう」

エリスはレオンを睨むと、静かに言った。

「明日は四時から来てください」

「四時?夕方の?」

鼻で笑いそうになるのを、ぐっとこらえて、エリスは静かに言った。

「朝の四時です。私たちの仕事を、味わっていただきましょうか」

このお坊ちゃん、泣かせてやる。

エリスは静かにそう決意するのだった。

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