化けの皮は食べられない
騒然となった会場でも、殿下の声はよく響く。
「そこで、マリアンヌ様にお聞きしたいのですが」
「替え玉がなにを言う気だ!衛兵!そいつをつまみ出せ!」
エリスは冷静に続ける。
「マリアンヌ様が以前ふるまわれたアフタヌーンティーも、実際に給仕し、手を動かしていたのは執事の方々でしたわよね?」
マリアンヌの執事が、息を飲むのがわかった。
執事たちがテキパキと動き始め、料理を運んできたあの光景が頭の中で再生される。
あっという間にアフタヌーンティーがテーブルの上に並べられた。
以前のエリスはその光景を、呆然と見ることしかできなかったのである。
そして、エリスのチキンカツサンドを落としたのは殿下だ。
彼女は何もしていない。
「つ、作ったのは私よ!」
「なるほど。では、この間の食堂での料理勝負も、お作りになられたんですか?」
「もちろんよ!」
「今回も、ですか?」
「当たり前じゃない!」
マリアンヌの声がだんだんと金切り声になる。
頭に響く声に、今までの余裕は見られない。
会場にいる貴族たちも「あのマリアンヌ様が…」とマリアンヌの焦る姿を見て動揺している。
エリスはコンソメジュレに目を向けてから、もう一度マリアンヌに向き合う。
「このコンソメジュレはとてもきれいです。どうやってお作りになられたのですか?ご指導いただきたいです」
エリスの言葉に、マリアンヌは真っ青になった。
殿下もつられて青くなる。
「仕込みがとても重要な料理です。大変だったでしょう」
「そうよ!大変だったわ!」
「どう、大変だったのですか?」
エリスが一歩、マリアンヌに近づく。
マリアンヌは近づかれた分だけ後ろに下がった。
「牛フィレのステーキはどうです?こちらも下ごしらえが大変な料理です。そして、ケーキの上の繊細な細工。まるで刺繍のようで、とても優れた技術です」
「私が、作ったのよ!だって、お皿にのせたんだもの!」
「それは、切って盛っただけ。という意味ですか?」
ここまで完璧な計画だったのに、足元からがらがらと何かが崩れていく。
殿下の婚約者を蹴落として、自分が婚約者になれたのに。
田舎料理しか作れない、冴えない女を蹴落として、私がこの城の女主人になるはずなのに。
「まさか…本当に盛っただけ?」
会場の人間がひそひそと話し始める。
「作ってないという噂を聞いたことがあったが、本当だったのか?」
ざわめきを聞いて、殿下も狼狽しながらマリアンヌを見る。
「お、おい、マリアンヌ…」
強気の態度から一転、弱気になる殿下に、マリアンヌは何も言えない。
マリアンヌはエリスを睨むことしかできなかった。
そんな2人を見て、王妃はすっと目を逸らす。
マリアンヌ側の反応を見てから、エリスは口を開いた。
「あなたの盛り付けの技術は素晴らしいと思います。私が同じ立場になってやれと言われても、できません。もともと、服飾の仕事をしていたニールが勉強し、今は見た目の改善をしてくれています」
突然呼ばれたニールは、きょろきょろと辺りを見回した後、深々と頭を下げた。
「仲間の力を借りたと、私は正直に認めます。マリアンヌ様こそ、ご自身で全て作ったと嘘をついているのでは?」
エリスの言葉に、殿下は言い訳しようとしたが、なんの言葉も出てこない。
「私だって作れるわよ!ただ、飾りつけに忙しいから、できないだけで、やろうと思えば、料理なんて簡単なもの、いくらでもできるんだから!私には時間がないだけ!」
「料理なんて、ですか」
「そうよ!見てくれが悪い料理なんて、なんの価値もない!」
その言葉に、エリスはマリアンヌをかわいそうな人だと思った。
こんなに多くの人間に支えられているのに、本人は知らないのだ。
「マリアンヌ様。あなたに仕える従業員の方は、全力であなたを支えています。コンソメジュレも、ステーキもその努力の結晶です。それなのに…」
「もうよい。そこまでだ」
エリスの言葉に返したのは、マリアンヌではなかった。
ガトーショコラを食べ終えた、国王だった。




