ガトーショコラ
第二皇子がデザートを作った。
その事実に、最初に立ち直ったのは、殿下だった。
「皇子に菓子を作らせるなど、替え玉ではないか!」
あまりにも大きい叫び声だったので、キッチンにいるエリスにまで届いた。
「エリスお嬢様」
ニールが顔を青くして名前を呼ぶので、エリスはため息をついてキッチンを出た。
右手にはフォーク、左手にはガトーショコラをのせたお皿を持っている。
レオンがチーム食堂全員分を用意していたのだ。
とてつもなくガトーショコラを食べたかったエリスは、誰にも食べられないように持っていくことにしたのだ。
騒然となる会場も、今のエリスにはなんの恐怖もない。
そんなことより、左手のガトーショコラを早く食べたい。
「エリス!お前、厳正な審議で、替え玉を出してくるとは、いい度胸だな!」
会場に現われたエリスを指さして、殿下が怒鳴る。
「おかしいと思ったんだ!菓子を作れないはずのお前が、この間の勝負で木苺のカップケーキなんて出してきた時から、怪しいと思っていたんだ!全部こいつに作らせていたんだな!」
今度はレオンを指さす。
エリスは口を挟むのもよくないし、長いし、終わるまでケーキでも食べながら待っていようと思い、ガトーショコラを一口食べた。
口に含んだ瞬間に広がるカカオの香り。
甘さとほのかな苦みのバランス。
そして、ガトーショコラと粉砂糖が織りなす目にも楽しいコントラスト。
「レオン」
「なんだ?」
まだ殿下が何か言っているが、エリスはレオンに向けて話しかける。
「めちゃくちゃおいしいわ。このガトーショコラ。ガトーショコラは単純なケーキだと思われがちだけど、温度管理や火入れの技術が問われるケーキだもん。とても難しいから、素人は簡単に作れないわ。もちろん、茶色くても私には作れない。あなたのパティシエの腕は本物よ」
熱弁しながら食べ続けるエリスに、レオンはぷうっと噴き出した。
そんな二人の様子を見て、国王もガトーショコラを一口食べる。
「ううむ。うまいな」
感心するように言った国王に、エリスは頷いた。
「聞いているのか!?エリス!」
「聞いてます、聞いてます」
「食べる手を止めろ!」
残っていた最後の一口を、エリスは口に入れた。
余韻に浸りたいところだが、そこまでは許してくれないだろう。
「立って食べるなんて、お行儀の悪い。どうやって育てば、そんなことができるのかしら」
蔑むようなマリアンヌの言葉に、重いものが落ちる音がした。
「公爵が倒れたぞ!」
どうやら、エリスの父親が倒れたらしい。
「立って食べるわ、替え玉を使うわ、どうなっているんだ!お前は!」
殿下の言葉に、エリスは頷いた。
「替え玉を使ったのは、…そうですね。事実です」
同じようにガトーショコラを食べる国王を、エリスは真っ直ぐ見た。
ここが正念場だ。
「認めたかエリス!この茶色料理の無能女!」
そんなエリスを、殿下は大きな声で嘲笑ったのだった。




