ラキラ女子VS茶色女子、再戦
殿下に婚約破棄をされてから、それほど月日は経っていないはずなのに、もう10年以上も前のことの様な気がする。
食堂で働く前は、エリスは意気揚々と殿下のために食事を作り、王宮に通いつめていたものだ。
そんな頃が、とても懐かしいような気がする。
「いよいよですね。エリスお嬢様」
合流したニールをはじめとする従業員たちに、不安の色はなかった。
今日一日、エリスを支えてくれる強い味方だ。
「ええ。みんな、よく来てくれたわ」
「当たり前じゃないですか。エリスお嬢様」
「従業員一同、エリスお嬢様と共に、精一杯やらせていただきます」
「いつも精一杯やってくれているわ。だから、今日もいつも通り、お客様をおもてなししましょう」
「はい!」
ニールたちを連れて、王宮を目指す。
王宮の大広間は、光り輝く装飾が施された豪華絢爛な空間だ。大理石の上に敷かれた絨毯は高価な物だし、燭台も一級品だ。
さざめくように噂をする男性も女性も、着ている服はとても値段が高そうである。
確かに、ここに自分の茶色の料理はそぐわない。
だからと言って、チキンカツサンドを捨てていいわけではない。
約束の時間に大広間に行くと、すでにマリアンヌと殿下は来ていた。
マリアンヌは豪華な服を着ている。
そんな恰好でよく料理をする気になるなと、エリスは批判を通り越して感心していた。
「逃げずに来たな。エリス」
嘲笑うように殿下に言われたが、エリスはスカートの裾を持ち、優雅に一礼した。
「このような場をお与えくださり、感謝いたします。今日は精一杯、一丸となって励みます」
ニールたちも頭を下げる。
「ここは王宮です。庶民の料理が通じないことを、思い知らせてあげますわ」
マリアンヌは挨拶もせずに、頭を下げるエリスに向かって言い放つ。
「マリアンヌの料理の邪魔をされたら困る。キッチンは別々に使う。いいな」
「もちろんです」
「後ほどお会いしましょう。どれほどみすぼらしい料理が出てくるか、楽しみですわ」
マリアンヌと殿下が右側の厨房に入っていくのを見送ると、エリス一同も反対側の厨房に入る。
厨房では、レオンが待っていた。
「揃ったわね」
エリスの言葉に、レオンが頷く。
「チーム食堂、始めるわよ」
「はい!」
何も気負うことはない。
今までやってきたことを出し切ればいい。
対決の内容は3品。
前菜、メイン、デザートだ。
「ニール、最終チェックをお願い。レオン、デザートは任せるわ」
「かしこまりました」
「ああ」
従業員に的確に指示を出し、一品一品丁寧に完成させていく。
「前菜ができました。運んでください」
エリスの一品目、前菜はバジルが香る、硬いパンのラスクだ。
硬いパンなんて、普通は国王に出さないだろう。
見学しているお父様がどんな顔をしているか、マリアンヌがどんな一品目を出したかが知りたくて、ニールに声をかける。
「ニール。お客様の反応と、マリアンヌの料理を見て、私に随時報告をちょうだい」
「かしこまりました。お嬢様」
ニールがこっそり、席についている国王と王妃、そして殿下を見に行く。
「硬いパン!父上!これは不敬です!即刻中止すべきです!」
さっそく騒いでいる殿下を無視して、ニールは国王を見る。
国王は表情を動かさず、黙々と食べていた。
その食べる姿がレオンと重なり、親子なんだなとニールはしみじみ思う。
「あら。こちらはとてもきれいね」
マリアンヌの料理が運ばれてきて、王妃が感嘆の声をあげた。
金箔をあしらった冷製コンソメジュレだ。
「やっぱり、こういう料理でなければね」
「ええ。当然です」
王妃と殿下の話には全く反応せず、国王はこれも黙々と食べていた。
ニールはこっそり戻り、エリスに報告する。
「コンソメジュレ…。ずいぶん手間のかかる物を持ってきたわね」
「そうなんですか?」
「ええ。食堂で作ってあげるわ。見た目は悪いかもしれないけれど」
「恐れ多いです」
エリスとニールはそれだけ話すと、それぞれの持ち場に戻る。
二品目。牛すじの赤ワイン煮込みを、エリスは提供した。
「ははははは!茶色だな!相変わらず芸のない!!」
勝ち誇ったように殿下は言うと、赤ワイン煮込みを口に入れる。
そして、黙り込んだ。
王妃も食べる前は笑顔だったが、食べ始めると黙り込んだ。そして、会話もないまま食べ続ける。
国王も黙々と食べ続け、食べ終わると大きくため息をついた。
ニールには、おいしいという反応なのかどうかが、さっぱりわからない。
マリアンヌ側のメインは、牛フィレの金箔ステーキだ。
確かに煌びやかな印象を受ける。
今後の参考にしようとニールが見ていると、マリアンヌ側の料理人がひそひそと話す声が聞こえた。
「大変だったよ…。昨日からずっと、あの肉の下ごしらえ…」
「形が気に入らないって、何回もつっぱねられたんだろ?大変だったな」
「マリアンヌ様、切るだけだからなぁ」
ニールはメイン料理についてもエリスに報告し、最後のデザートになった。
デザートを先に出したのは、マリアンヌだった。
ピンクの生クリームケーキで、ケーキの上には繊細なチョコ細工がのっている。
「刺繡のような細工です。とても見事でした」
「だってよ。レオン」
にやにやしながらエリスに言われたが、レオンは薄く笑って拳を突き出した。
「我らが茶色い料理に、乾杯」
エリスも拳を軽くぶつけて、柔らかく笑う。
「かましてきてよ。第二皇子」
そう言いながら、レオンは自分が作ったデザートを持って、自ら給仕に向かった。
「レオン。どうしてお前が?」
真っ白な粉砂糖がかかったガトーショコラをテーブルに並べるレオンに、目を丸くしながら国王が問う。
レオンは薄く笑いながら、国王に答えた。
「この私が作りました」
「なんだと?お前自ら作ったのか?」
レオンの言葉に、周囲の人々がざわめき始める。
「第二皇子が料理?」
「なぜ王子が料理を?」
「冷徹皇子がなぜだ?料理を作れるのか?」
ざわつく会場を無視して、レオンは恭しく頭を下げた。
「ぜひお召し上がりになってください。お父様」
国王を『お父様』とレオンが呼んだのは、この時が初めてだった。




