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20/22

ラキラ女子VS茶色女子、再戦

殿下に婚約破棄をされてから、それほど月日は経っていないはずなのに、もう10年以上も前のことの様な気がする。

食堂で働く前は、エリスは意気揚々と殿下のために食事を作り、王宮に通いつめていたものだ。

そんな頃が、とても懐かしいような気がする。

「いよいよですね。エリスお嬢様」

合流したニールをはじめとする従業員たちに、不安の色はなかった。

今日一日、エリスを支えてくれる強い味方だ。

「ええ。みんな、よく来てくれたわ」

「当たり前じゃないですか。エリスお嬢様」

「従業員一同、エリスお嬢様と共に、精一杯やらせていただきます」

「いつも精一杯やってくれているわ。だから、今日もいつも通り、お客様をおもてなししましょう」

「はい!」

ニールたちを連れて、王宮を目指す。

王宮の大広間は、光り輝く装飾が施された豪華絢爛な空間だ。大理石の上に敷かれた絨毯は高価な物だし、燭台も一級品だ。

さざめくように噂をする男性も女性も、着ている服はとても値段が高そうである。

確かに、ここに自分の茶色の料理はそぐわない。

だからと言って、チキンカツサンドを捨てていいわけではない。

約束の時間に大広間に行くと、すでにマリアンヌと殿下は来ていた。

マリアンヌは豪華な服を着ている。

そんな恰好でよく料理をする気になるなと、エリスは批判を通り越して感心していた。

「逃げずに来たな。エリス」

嘲笑うように殿下に言われたが、エリスはスカートの裾を持ち、優雅に一礼した。

「このような場をお与えくださり、感謝いたします。今日は精一杯、一丸となって励みます」

ニールたちも頭を下げる。

「ここは王宮です。庶民の料理が通じないことを、思い知らせてあげますわ」

マリアンヌは挨拶もせずに、頭を下げるエリスに向かって言い放つ。

「マリアンヌの料理の邪魔をされたら困る。キッチンは別々に使う。いいな」

「もちろんです」

「後ほどお会いしましょう。どれほどみすぼらしい料理が出てくるか、楽しみですわ」

マリアンヌと殿下が右側の厨房に入っていくのを見送ると、エリス一同も反対側の厨房に入る。

厨房では、レオンが待っていた。

「揃ったわね」

エリスの言葉に、レオンが頷く。

「チーム食堂、始めるわよ」

「はい!」

何も気負うことはない。

今までやってきたことを出し切ればいい。

対決の内容は3品。

前菜、メイン、デザートだ。

「ニール、最終チェックをお願い。レオン、デザートは任せるわ」

「かしこまりました」

「ああ」

従業員に的確に指示を出し、一品一品丁寧に完成させていく。

「前菜ができました。運んでください」

エリスの一品目、前菜はバジルが香る、硬いパンのラスクだ。

硬いパンなんて、普通は国王に出さないだろう。

見学しているお父様がどんな顔をしているか、マリアンヌがどんな一品目を出したかが知りたくて、ニールに声をかける。

「ニール。お客様の反応と、マリアンヌの料理を見て、私に随時報告をちょうだい」

「かしこまりました。お嬢様」

ニールがこっそり、席についている国王と王妃、そして殿下を見に行く。

「硬いパン!父上!これは不敬です!即刻中止すべきです!」

さっそく騒いでいる殿下を無視して、ニールは国王を見る。

国王は表情を動かさず、黙々と食べていた。

その食べる姿がレオンと重なり、親子なんだなとニールはしみじみ思う。

「あら。こちらはとてもきれいね」

マリアンヌの料理が運ばれてきて、王妃が感嘆の声をあげた。

金箔をあしらった冷製コンソメジュレだ。

「やっぱり、こういう料理でなければね」

「ええ。当然です」

王妃と殿下の話には全く反応せず、国王はこれも黙々と食べていた。

ニールはこっそり戻り、エリスに報告する。

「コンソメジュレ…。ずいぶん手間のかかる物を持ってきたわね」

「そうなんですか?」

「ええ。食堂で作ってあげるわ。見た目は悪いかもしれないけれど」

「恐れ多いです」

エリスとニールはそれだけ話すと、それぞれの持ち場に戻る。

二品目。牛すじの赤ワイン煮込みを、エリスは提供した。

「ははははは!茶色だな!相変わらず芸のない!!」

勝ち誇ったように殿下は言うと、赤ワイン煮込みを口に入れる。

そして、黙り込んだ。

王妃も食べる前は笑顔だったが、食べ始めると黙り込んだ。そして、会話もないまま食べ続ける。

国王も黙々と食べ続け、食べ終わると大きくため息をついた。

ニールには、おいしいという反応なのかどうかが、さっぱりわからない。

マリアンヌ側のメインは、牛フィレの金箔ステーキだ。

確かに煌びやかな印象を受ける。

今後の参考にしようとニールが見ていると、マリアンヌ側の料理人がひそひそと話す声が聞こえた。

「大変だったよ…。昨日からずっと、あの肉の下ごしらえ…」

「形が気に入らないって、何回もつっぱねられたんだろ?大変だったな」

「マリアンヌ様、切るだけだからなぁ」

ニールはメイン料理についてもエリスに報告し、最後のデザートになった。

デザートを先に出したのは、マリアンヌだった。

ピンクの生クリームケーキで、ケーキの上には繊細なチョコ細工がのっている。

「刺繡のような細工です。とても見事でした」

「だってよ。レオン」

にやにやしながらエリスに言われたが、レオンは薄く笑って拳を突き出した。

「我らが茶色い料理に、乾杯」

エリスも拳を軽くぶつけて、柔らかく笑う。

「かましてきてよ。第二皇子」

そう言いながら、レオンは自分が作ったデザートを持って、自ら給仕に向かった。

「レオン。どうしてお前が?」

真っ白な粉砂糖がかかったガトーショコラをテーブルに並べるレオンに、目を丸くしながら国王が問う。

レオンは薄く笑いながら、国王に答えた。

「この私が作りました」

「なんだと?お前自ら作ったのか?」

レオンの言葉に、周囲の人々がざわめき始める。

「第二皇子が料理?」

「なぜ王子が料理を?」

「冷徹皇子がなぜだ?料理を作れるのか?」

ざわつく会場を無視して、レオンは恭しく頭を下げた。

「ぜひお召し上がりになってください。お父様」

国王を『お父様』とレオンが呼んだのは、この時が初めてだった。


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