食堂へ。
泣き腫らした娘に、父親である公爵は怒鳴り散らしていた。
「何をしたのか知らんが、やってくれたな」
苦々しく言われた言葉に、エリスは言い返せなかった。
「殿下に婚約を破棄されるとは」
美味しければいいと思っていたのは事実だ。見た目を気にかけなかった落ち度は、エリスにある。
「婚約を解消されたお前を、このまま屋敷に置いておくわけにはいかない」
「お父様、私は」
「言い訳は聞きたくない」
また怒鳴られて、エリスは唇を噛む。
自分のつま先を見つめながら、父親の怒りにじっと耐えるしかなかった。
確かにエリスはミスをしたが、カツサンドを邪険にされ、婚約を破棄されるほどのことなのだろうか。
「母が経営する食堂がある。お遊び程度に営んでいる食堂だが、今のお前にはちょうどいい。ほとぼりが冷めるまで、そこにいろ」
怒鳴り疲れた父親が、やっとエリスに言い渡した。
食堂。
その単語を聞いて、エリスは口を閉じた。
そうだ。あんな、食べ物を粗末にするような人と結婚せずに済んだし、そんな人を肯定するような人たちからも離れられる。
願ったり叶ったりだ。
「かしこまりました。お父様には、ご迷惑をおかけします」
「全くだ。早く行け」
いつもエリスに対して、にこにこと笑いかけていた父親の姿は、もうここにはない。
不機嫌そうにエリスを睨む父親を見て、父親にとってのエリスの価値は、王太子殿下の婚約者ということだけだったのだと気づいてしまった。
なんだか、自分がとても恥ずかしい存在になってしまったような気がする。
「お嬢様。私たちはお嬢様の味方です」
別れの挨拶をするためにキッチンに入ったところ、全員涙を流していた。
「お困りの際にはぜひお声がけください」
エリスの手を取り、真剣に訴える姿を見て、自分を本当に思ってくれているのは誰なのか、実感した。
涙を流しながら、震える声で、それでも気丈に全員に言った。
「みんな、今日まで美味しいご飯をありがとう。これからも、楽しみながら料理をしてね」
「はい」
力強い返事を聞いて、エリスは公爵家を後にした。
みんなと離れるのは辛いが、公爵家に残っても自分が惨めになるだけだ。
エリスは頬を叩いて自分を鼓舞し、馬車に乗って祖母の元へと旅立ったのである。




