晩餐の使者
マリアンヌとの料理勝負に勝ったエリスだったが、勝負に勝って店がより繁盛し、より忙しくなった。
毎日たくさんのお客に囲まれ、幸せに過ごし、めでたし、めでたし。とはいかなかった。
「エリス嬢。突然の訪問、申し訳ありません」
殿下の父君、つまり国王から正式な使者が食堂に到着したのである。
「なんです?食堂で喧嘩は売っていませんけど?」
めちゃくちゃ忙しい時間の訪問だったので、エリスは不機嫌だった。
ニールが後ろでオロオロしているが、早く料理に戻らせてほしいというのが、エリスの本音だ。
「騒ぎを起こすために来たのではありません。殿下の隣国での醜聞の真偽を確かめるために来ました」
「ああ。食べに来たんですか。どうぞ」
お客なら話は別だと思ったが、使者は首を振った。
「いいえ。エリス嬢に、本国で晩餐への出席をお願いしに来ました」
「はぁ?」
ドスの効いた声が口から出た。
どうも最近、食堂客の言動につられてしまう。
淑女としていけないと思いつつ、自分の成長を感じるエリスだ。
「なんで私が晩餐に出席しなければならないんですか?」
「これは王の勅命です。すでに、あなたの父君からは了解を得ています」
「それは、お願いではなく命令って言うんですよ」
使者は国王の印が押された、勅命書をエリスに渡してきた。
使者には早々に帰っていただいて、ピーク時間を過ぎて来店したレオンにエリスは詰め寄った。
「おたくの使者が、食堂でご飯も食べずに、命令だけして帰って行ったのだけれど、どういうことかしら?あと、一口も食べないとは、どういう教育をしているのかしら?」
詰め寄るエリスに、レオンは両手をあげて降参した。
「マリアンヌが対決に負けた醜聞が、国王の耳に入ったんだ。
真偽を確かめるという建前と、それほどうまいなら君の料理を食べてみたいという国王の本音もあるんだろうな。正式な国王主催の晩餐を開くことになった」
「そこで、私に料理を作れと。食べなかった理由がまだよ」
「兄上が口にするなと言ったのさ。可哀想に、彼はパンで腹一杯にしてから、ここに来たんだ」
殿下なら言いかねないなと思ったエリスは肩をすくめて、ため息をついた。
「国王勅命とあれば、断るわけにはいきません」
「エリス」
「やりますよ。私は」
静かな闘志を燃やすエリスに、ニールと常連客は不安そうな顔だった。
「大丈夫かい?お嬢様。確かにこの間は勝ったが、今度は宮廷料理だろう?」
「エリス様。ここの者はエリス様の良さを知っていますが、宮廷の方々は…」
「そうよ」
エリスはニールと常連客を見ると、にっこりと笑った。
「あなたたちが知っている、私の良さを最大限出してくるわ。おいしいって言ってくれる物を、隣国にも教えてあげに行ってくる」
「エリスお嬢様…」
ニールは感動して、ハンカチで目元を覆った。
「このニール、ここから精一杯、お嬢様のご活躍を応援します」
「なにを言ってるの?ニール。あなたも来るのよ」
「え?」
「今度は俺も参加する」
「え?」
レオンの言葉に、エリスは驚いてレオンを見上げた。
「でもレオン。殿下との勝負よ。気持ちは嬉しいけど、やめておいた方がいいわ」
「いや」
レオンは覚悟を決めたように、エリスを見た。
「今度は俺も、君の隣に立たせてくれ」
エリスはまだ何か言おうとしたが、レオンの目を見て、それ以上言うのをやめた。
「わかった」
エリスは頷くと、右手を前に出した。
「チーム食堂、宮廷で一発かましてくるわよ」
「貴族の令嬢の言い分とは思えんな」
レオンが笑いながら、右手を重ねてくる。
「微力ながら、この私も、お手伝いさせていただきます」
緊張しながらも、ニールが右手を重ねる。
「行ってこいや。勝っても負けても、俺たちはお前の良さを知ってるってこと、忘れんな」
「ありがとう。気取ってる人たちのお腹を、おいしいものでいっぱいにしてくるわ」
最後に常連客が右手を重ねて、エリスは頷いた。




