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17/22

ラキラ女子VS茶色女子

マリアンヌは食堂につくと、上から下までじっくりと見て、挨拶もせずに言い放った。

「汚い場所。さすが庶民の食堂ね」

むっとした顔をする一同を抑えて、エリスが静かに言う。

「私の祖母が建てた食堂です。優秀な従業員が毎日欠かさず掃除もしておりますので、どうぞご安心ください」

下を向いていたニールが震えているのを、レオンは見逃さなかった。

今日のレオンは審判でもなく、司会でもなく、王家の末席でもなく、観客として食堂にいる。

本当はエリスの隣に立ちたかったが、エリスがそこまでしてもらわなくて大丈夫と言ったのだ。

「デザートを作ってもらっただけで感謝!あとは私たちに任せて!」

最後の最後ではじかれたことに、ほっとしているのか、苦しいのか、レオンには自分の心がわからなくなっていた。

「では、料理を並べるんだ。マリアンヌの料理からだ」

偉そうに言う殿下の言葉を合図に、淡々と料理が並べられていく。

マリアンヌの料理は豪華だった。

二色のバジルブレッドに、金箔で飾られたステーキ。そして、ピンク色をした生クリームがたっぷり使われたケーキだった。ケーキの上にはチョコレートでできた飾りが刺さっている。

「おお。宮廷料理みたいだな」

「隣の国の国王は、毎日こんなすごい料理を食べているのか」

抽選で選ばれた十人の審査員が、感心したように話し始める。

「さあ。お食べになって」

マリアンヌの言葉に、目を輝かせながら食器を掴んだ。

「宮廷料理なんて食べたことがない。きっとうまいぞ」

「これだけきれいな見た目だものね。味もおいしいに決まっている」

審査員は期待に胸を膨らませて、マリアンヌの料理を口に入れた。

「どうだ?マリアンヌの料理はうまいだろう!エリスの料理なんて、食べる必要はない!勝負は決まったな!」

叫ぶ殿下の横で、審査員たちは一様に首を傾げた。

「うーん。その。なんだ?」

「まずくはないけど、ねぇ?」

「いや。その、期待値が大きい分、どうだろう?きりもなくおいしいかと聞かれれば…」

「まあ、食べられなくはないかな」

期待していた反応と違う反応だったので、殿下が何か言おうとした。しかし。

「今度はうちの食堂の料理ですね」

エリスたちの料理が並べられる。

エリスが生地から丁寧に作ったパンに、ビーフシチュー。そして、日持ちがして並べやすい木苺のカップケーキだった。

ビーフシチューには色鮮やかなブロッコリーや、ニンジンが使われており、木苺のカップケーキは赤と生地の色の二色だ。

豪華さではマリアンヌの料理に及ばない。

「茶色くない…」

審査員の一人がぼそりと呟いた。

茶色い料理。エリスの料理を象徴する色だ。

「見た目にこだわり過ぎて、長所の味がおろそかになっているのでは…」

なんで茶色くないだけで、そこまで言われなくちゃいけないのか。エリスは怒りそうになったが、審査員が料理を口に運び始めたので、黙ることにした。

料理人は、料理で語れ。

固唾をのんで様子を見ていると、緊張している審査員たちの顔がほころび始めた。

「ああ。これだよ。これ」

幸せそうにビーフシチューを口に運びながら、男性の審査員が、涙を流しながらぼそりと呟く。

「…母さん…」

エリスの料理が残らず食べられていく。

「宮廷料理ってのは、俺の口には合わんな」

「俺はやっぱり、食堂の料理がいいな」

「うん。おいしいわよね」

審査員たちが食べる姿を見て、エリスも泣きそうになった。

選ばれた。

宮廷料理よりも、エリスたちの料理が選ばれた。

エリスだけの力ではないことが、より嬉しかった。

やったよ。

そんな気持ちをこめて、レオンを見る。

レオンが薄く微笑んで頷くのを見て、エリスは余計に泣きそうになった。

「おい!マリアンヌの料理も食え!」

エリスの料理を食べ終えた審査員たちが、食器を机に置き始める。

「申し訳ないが、もうお腹がいっぱいだ」

「味もうまいし、見た目も良かったし、カップケーキもおいしかった。腕をあげたな!店長!」

審査員たちの表情を見ればわかる。

食堂の勝利だった。

「ありがとうございます!これも、手伝ってくれた、みなさんのおかげです!」

我慢していたが、こらえきれずにエリスは泣いてしまった。

そんなエリスを見て、審査員たちや観客が言う。

「また来るからな!店長!」

「ありがとうございます!私のチキンカツサンドも浮かばれます!」

「よくわからないけど、これからもおいしい料理をつくってね!」

「はい!はい!頑張ります!」

マリアンヌと殿下の顔が赤くなる。

敗北が確定した恥ずかしさから、口々に叫んだ。

「貧乏人どもの舌を満足させたからといって図に乗るのよ!エリス!」

「こんな貧乏食堂での評判、もとから私には不要ですのよ!」

「あれ?お二人とも、まだいたんですか?」

ハンカチで涙を拭きつつ聞くエリスに、殿下はついに負け犬の遠吠えをしつつ敗走した。

「覚えてろよエリス!今度は絶対に負かせてやるからな!」

そそくさと退散していった殿下たちを見送ると、レオンがエリスに声をかけた。

「やったな」

笑顔で返されるだけかと思いきや、エリスがレオンに飛びついて抱きついた。

「レオンのおかげよ!本当にありがとう!」

抱きしめ返していいものか、どうか迷っていると。

「おっと失礼」

ニールが背中でエリスを押し、慌ててレオンはエリスを抱きしめた。

「さあ!みなさん、後片付けですよ!」

「はい!」

片付けを口実に、全員が蜘蛛の子を散らすように出て行く。

残されたレオンとエリスは、呆然とその様子を見ていたが、お互い顔を見合わせて、ぷっと噴き出した。

「残り物で良ければ食べましょう」

「そうだな」

2人は席につくと、勝利に乾杯する。

エリスの顔を見ながら、レオンはこの女性の隣に今度は立ちたいと、改めて思うのだった。

一方、敗走した殿下はというと。

「おのれ…エリス…」

歯ぎしりしながら馬車の中で呟く。

「茶色い料理がお前のその食堂でしか通じないことを、教えてくれる!」

改めてエリスを蹴落とす算段を始めるのだった。


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