ラキラ女子VS茶色女子
マリアンヌは食堂につくと、上から下までじっくりと見て、挨拶もせずに言い放った。
「汚い場所。さすが庶民の食堂ね」
むっとした顔をする一同を抑えて、エリスが静かに言う。
「私の祖母が建てた食堂です。優秀な従業員が毎日欠かさず掃除もしておりますので、どうぞご安心ください」
下を向いていたニールが震えているのを、レオンは見逃さなかった。
今日のレオンは審判でもなく、司会でもなく、王家の末席でもなく、観客として食堂にいる。
本当はエリスの隣に立ちたかったが、エリスがそこまでしてもらわなくて大丈夫と言ったのだ。
「デザートを作ってもらっただけで感謝!あとは私たちに任せて!」
最後の最後ではじかれたことに、ほっとしているのか、苦しいのか、レオンには自分の心がわからなくなっていた。
「では、料理を並べるんだ。マリアンヌの料理からだ」
偉そうに言う殿下の言葉を合図に、淡々と料理が並べられていく。
マリアンヌの料理は豪華だった。
二色のバジルブレッドに、金箔で飾られたステーキ。そして、ピンク色をした生クリームがたっぷり使われたケーキだった。ケーキの上にはチョコレートでできた飾りが刺さっている。
「おお。宮廷料理みたいだな」
「隣の国の国王は、毎日こんなすごい料理を食べているのか」
抽選で選ばれた十人の審査員が、感心したように話し始める。
「さあ。お食べになって」
マリアンヌの言葉に、目を輝かせながら食器を掴んだ。
「宮廷料理なんて食べたことがない。きっとうまいぞ」
「これだけきれいな見た目だものね。味もおいしいに決まっている」
審査員は期待に胸を膨らませて、マリアンヌの料理を口に入れた。
「どうだ?マリアンヌの料理はうまいだろう!エリスの料理なんて、食べる必要はない!勝負は決まったな!」
叫ぶ殿下の横で、審査員たちは一様に首を傾げた。
「うーん。その。なんだ?」
「まずくはないけど、ねぇ?」
「いや。その、期待値が大きい分、どうだろう?きりもなくおいしいかと聞かれれば…」
「まあ、食べられなくはないかな」
期待していた反応と違う反応だったので、殿下が何か言おうとした。しかし。
「今度はうちの食堂の料理ですね」
エリスたちの料理が並べられる。
エリスが生地から丁寧に作ったパンに、ビーフシチュー。そして、日持ちがして並べやすい木苺のカップケーキだった。
ビーフシチューには色鮮やかなブロッコリーや、ニンジンが使われており、木苺のカップケーキは赤と生地の色の二色だ。
豪華さではマリアンヌの料理に及ばない。
「茶色くない…」
審査員の一人がぼそりと呟いた。
茶色い料理。エリスの料理を象徴する色だ。
「見た目にこだわり過ぎて、長所の味がおろそかになっているのでは…」
なんで茶色くないだけで、そこまで言われなくちゃいけないのか。エリスは怒りそうになったが、審査員が料理を口に運び始めたので、黙ることにした。
料理人は、料理で語れ。
固唾をのんで様子を見ていると、緊張している審査員たちの顔がほころび始めた。
「ああ。これだよ。これ」
幸せそうにビーフシチューを口に運びながら、男性の審査員が、涙を流しながらぼそりと呟く。
「…母さん…」
エリスの料理が残らず食べられていく。
「宮廷料理ってのは、俺の口には合わんな」
「俺はやっぱり、食堂の料理がいいな」
「うん。おいしいわよね」
審査員たちが食べる姿を見て、エリスも泣きそうになった。
選ばれた。
宮廷料理よりも、エリスたちの料理が選ばれた。
エリスだけの力ではないことが、より嬉しかった。
やったよ。
そんな気持ちをこめて、レオンを見る。
レオンが薄く微笑んで頷くのを見て、エリスは余計に泣きそうになった。
「おい!マリアンヌの料理も食え!」
エリスの料理を食べ終えた審査員たちが、食器を机に置き始める。
「申し訳ないが、もうお腹がいっぱいだ」
「味もうまいし、見た目も良かったし、カップケーキもおいしかった。腕をあげたな!店長!」
審査員たちの表情を見ればわかる。
食堂の勝利だった。
「ありがとうございます!これも、手伝ってくれた、みなさんのおかげです!」
我慢していたが、こらえきれずにエリスは泣いてしまった。
そんなエリスを見て、審査員たちや観客が言う。
「また来るからな!店長!」
「ありがとうございます!私のチキンカツサンドも浮かばれます!」
「よくわからないけど、これからもおいしい料理をつくってね!」
「はい!はい!頑張ります!」
マリアンヌと殿下の顔が赤くなる。
敗北が確定した恥ずかしさから、口々に叫んだ。
「貧乏人どもの舌を満足させたからといって図に乗るのよ!エリス!」
「こんな貧乏食堂での評判、もとから私には不要ですのよ!」
「あれ?お二人とも、まだいたんですか?」
ハンカチで涙を拭きつつ聞くエリスに、殿下はついに負け犬の遠吠えをしつつ敗走した。
「覚えてろよエリス!今度は絶対に負かせてやるからな!」
そそくさと退散していった殿下たちを見送ると、レオンがエリスに声をかけた。
「やったな」
笑顔で返されるだけかと思いきや、エリスがレオンに飛びついて抱きついた。
「レオンのおかげよ!本当にありがとう!」
抱きしめ返していいものか、どうか迷っていると。
「おっと失礼」
ニールが背中でエリスを押し、慌ててレオンはエリスを抱きしめた。
「さあ!みなさん、後片付けですよ!」
「はい!」
片付けを口実に、全員が蜘蛛の子を散らすように出て行く。
残されたレオンとエリスは、呆然とその様子を見ていたが、お互い顔を見合わせて、ぷっと噴き出した。
「残り物で良ければ食べましょう」
「そうだな」
2人は席につくと、勝利に乾杯する。
エリスの顔を見ながら、レオンはこの女性の隣に今度は立ちたいと、改めて思うのだった。
一方、敗走した殿下はというと。
「おのれ…エリス…」
歯ぎしりしながら馬車の中で呟く。
「茶色い料理がお前のその食堂でしか通じないことを、教えてくれる!」
改めてエリスを蹴落とす算段を始めるのだった。




