チーム食堂
マリアンヌからの挑戦状を見たレオンは、ため息をついた。
「すまない。料理勝負をしかけてくるなんて、全く知らなかった」
「つまり、国王様と王妃様も知らないということね」
「そうだな。さすがに隣国を巻き込むような騒ぎを、俺に言わないとは思わない」
「料理勝負ですか?どうやって勝負されるのですか?」
不安そうなニールと常連客の前で、レオンが挑戦状を改めて見る。
「1週間後、マリアンヌがこの食堂に料理を持ってやってくる。
勝負の内容はパン、メイン、デザートを作り、民衆や兵士に提供する。
勝敗は庶民の舌で決める。だそうだ」
「庶民って。言い方がムカつくわね」
「どうなさるのですか?お嬢様」
オロオロと聞くニールに、エリスは胸を張って言った。
「受けるわ。こっちに損害はないもの」
「しかし、負ければ悪評になるぞ?兄も調子に乗るだろう」
エリスは肩をすくめて、首を振る。
「もともと、この食堂は悪評スタートだったじゃない。また努力すればいいのよ。殿下が調子に乗ったところで、隣国の話だしね。だいたい私は、負ける気はないわ」
高くてまずい店。
そのレッテルが最初だった。
今でこそ、安くてうまい店だが、勝負に負けたところで味は変わらないし、値段も変わらない。
勝ったところで殿下に恥をかかせたというだけだが、エリスのチキンカツサンドを無駄にした恨みを晴らせる。
チキンカツサンドの弔い合戦だ。
「そうと決まれば、当日の準備をしなきゃね。私は味を作る。デザートは…」
エリスはレオンを真っ直ぐ見ると、率直に言った。
「一緒に出てほしい」
「え?」
「デザートは私が作るよりも、レオンが作った方が100倍おいしいわ」
エリスはレオンに頭を下げると、もう一度言った。
「お願い。私に力を貸して」
第二皇子である自分が出る。つまり、エリスの肩を持つということだ。
いや。すでに兄はマリアンヌの肩を持っている。公平と言えば公平か?
それでも、妾の子供の第二皇子が、次期王妃や次期国王と対峙するのは、さすがにリスクが大きいのでは?
「直接対峙しろと言っているわけじゃないの。前日に菓子を用意してくれればいい。見た目は、当日までにニールにアドバイスをして欲しい」
「そうだぜ。王子様も、この食堂の一員でしょう?」
常連客の言葉にためらう。
決めかねて視線をさまよわせると、エリスの真摯な瞳とぶつかった。
エリスは、第二皇子としてではなく、食堂の仲間として、レオン個人を必要としている。
その思いを感じて、レオンはエリスに硬い声で言う。
「わかった。俺にできることがあれば、やらせてくれ」
エリスの顔が笑顔になる。
この笑顔を見るだけでも、頷いてよかったと思えた。
「当日までにご指導のほどよろしくお願いします」
ニールが丁寧に頭を下げると、常連客も声を上げた。
「俺も知っている奴に声をかけておくぜ」
みんなが協力してくれるとわかり、エリスはほっと息をつく。
強がってはいるが、やはり不安だったのだ。
独りじゃないとわかるだけで、不安が希望に変わっていく。
「よっし!やるわよ!絶対に勝つ!」
宣言したエリスに、その場にいる全員が力強く頷いた。
食堂の営業を続けながら、食材を集め、料理をさらに研究し、見た目も研究していると、あっという間に一週間がたった。そして。
当日の朝、マリアンヌ一行が食堂に到着したのだった。




