マリアンヌの挑戦状
レオンは週2回、食堂でレモンタルトを作っていたが、公務もそつなくこなしていた。
むしろ、菓子作りとエリスに会うことが息抜きになり、周囲からの批判も気にならなくなっていた。
食堂の悪評でエリスを困らせようと考え、さらに、レオンを隣国に通わせて疲れさせようとしていた殿下は、大変面白くなかった。
イライラした殿下は、レオンを呼び出し、ついに直接尋ねた。
「隣国の食堂はどうだった」
そう言えば、この人に言われて最初行ったんだっけ。と思い出したレオンである。
最近は、公務と、エリスと、菓子作りのことで頭がいっぱいだったのだ。
淡々と返した。
「美味かった。特に最近は菓子も評判だ」
別に隠すことではない。正直に報告する。
だが、レモンタルトを作っているのはレオンだ。
菓子を作っているのがレオンだと殿下に知れれば、エリスもレオンも困ったことになる。
「では、私はこれで」
早々に撤退を決めたレオンだった。
しかし、残された殿下は信じられない情報に体を震わせた。
「菓子?エリスが菓子だと?」
干からびたスフレしか作れないエリスが、菓子作り?しかも、とても評判がいいだと?
「納得できん!」
マリアンヌの前で、壁に拳を打ちつけて叫ぶ。
「エリスの菓子が評判だと!?そろいもそろって、舌が壊れているのではないか!?」
エリスの菓子が褒められれば褒められるほど、自分の舌への信頼が失われていく。味もわからぬ者が、晩餐の儀をこなせるのかと疑われるのだ。
晩餐の儀は、提供する方も、提供される方も、試されている。
「このままではまずい…。私の舌が疑われるような事態だけは避けねばならない」
「ご安心ください。殿下」
マリアンヌが寄り添い、優しく声をかける。殿下がそっと手を取ると、優しく微笑みかけた。
「私が本場の味というものを、庶民に教えて差し上げますわ」
「マリアンヌ。しかし、どうやって?」
「正式に料理対決を申し込みましょう。大勢の前で証明すれば、殿下の正しさが知れ渡りますわ」
「おお!マリアンヌ」
マリアンヌの大胆な提案に、殿下は希望に満ちた目で、マリアンヌの両手を握った。
「そうだな!君の料理が証明してくれる!頼んでもいいかい?」
「もちろんですわ」
「マリアンヌがエリスの菓子に負けるわけがない!よし、私が食材を集めて、人も集めよう!」
落ち込みから一転、殿下は意気揚々と部屋を出ていく。
「あの茶色女が菓子?」
マリアンヌは一人で呟きながら、親指の爪を噛んだ。
「菓子作りは、私のようなキラキラ女子にこそ、ふさわしいのよ」
茶色女に負けてられない。
そんな思いで書かれたマリアンヌの「正式な挑戦状」は、間もなく食堂に届いたのだった。




