夕方の食堂
レオンは仕事ができる自信があった。
第一王子の兄よりも仕事ができると評判だったし、自分もそう思っていた。
だが、思い上がりだったと今痛感している。
「8番テーブル、できたわ!持って行って!」
「かしこまりました!お嬢様!」
「お嬢様!テイクアウト注文です!チキンカツサンド3つ、サラダ4つ、パン3つ入ってます!」
「なんでカツサンドにパンつけんのよ!カツサンド揚げるまでに時間がかかるわ!」
夕方の食堂が最も混む時間。
従業員達とエリスの怒号とも、悲鳴ともつかない言葉が、キッチンを飛び交う。
実務能力には自信があったのに、全然追いつけない。
どうすればいいのか右往左往しているし、どんどん体力も失われていく。
自分はピークを乗り越えられるのかと、不安でしかないレオンだ。
「レオン!それを提供したら、5番テーブルにコーヒー!」
「わかった」
「お得意さんだから、貴方が作ったクッキーつけて!」
「全部か?」
「ニール!」
鋭くエリスに呼ばれたニールは、エリスに何も言われなくても、的確にレオンに指示を出す。
「2つずつにしましょう。あまり大盤振る舞いすると、後がなくなります」
「わかった」
レオンは指示にくらいつこうと必死になるが、全然追いつけない。
「すみません!通してください!」
「すまん」
「レオン!会計やって、5番テーブル注文とって!」
「わかった」
言われるがまま、身体を動かす。
お祭り騒ぎだ。何をどうすればいいのか、一向にわからない。
レオンは注文をとって、次の指示をもらおうと、エリスを見た。
従業員達は血眼になりながら走り回っていた。そんな中、エリスは真剣に料理と向き合っていた。
その横顔は苦しいとか、辛いとか、混んでて嫌になるとか、そんなネガティブな感情は一切なかった。
ただ真剣に料理と向き合う女性が、そこにいた。
どんな喧騒の中でも、どんなに寒くてつらい日でも、真剣に料理を作る母親の姿を思い出した。
レオンのために、母親が料理を作っている時の横顔と、エリスの横顔が重なる。
近づいて、声をかけたくなった。しかし。
「レオン様!5番テーブルの注文はなんでしたか!?」
急に現実が押し寄せてきて、レオンははっとした。
エリスの横顔に見惚れていたことを誤魔化すように、レオンは仕事に戻る。
目まぐるしい忙しさに、もみくちゃにされながら、レオンは改めて思った。
エリスという女性を、もっと知りたい。
そして、自分も知ってもらいたい。
レオンは決心し、腹に力をこめて、客の注文を取りに行ったのだった。




