【番外編】銀と青のマウントと、迷彩令嬢爆誕
お弁当事件の前のお話です。
王宮のサロンは、本日も不自然な「二つの色」で溢れかえっていた。
プラチナシルバーの髪飾り、サファイアブルーの大きな宝石がついた扇子、同じ色のリボンをあしらったドレス――。
近衛隊長ギルバート・レナードの「髪と瞳の色」を身につけ、
「私はギルバート様の特別」
だと主張し合う令嬢たちの無言の牽制バトルが繰り広げられているのだ。
恋人、許嫁、妹があふれかえっている。
全て「自称」のようだが…
そんなキラキラとした空間の隅で、私は黙々と膝をつき、大理石の床を雑巾で磨き上げていた。
「あら、そこにいる侍女さん?」
声をかけてきたのは、銀色のリボンをこれでもかと頭につけた、自称・ギルバート様の妹候補の令嬢の一人だった。
彼女は私の地味な姿を見下ろすと、あからさまに優越感を漂わせながら扇子をパタパタとあおぐ。
「あなた、ギルバート様の瞳と同じ青いリボンくらい、身につけたらどうかしら? この王宮で働くなら、ギルバート様のパーソナルカラーを意識するのが淑女の嗜みというものですわよ。
……まあ、あなたのような地味な栗毛にオリーブ色の目の侍女には、逆立ちしてもお似合いにならないでしょうけれど」
クスクスと周囲の令嬢たちから上品な嘲笑が漏れる。
私は雑巾をバケツの水で一度キュッと絞ると、立ち上がって完璧な侍女スマイルを浮かべた。
「ご助言ありがとうございます、お嬢様。ですが、私のこの髪と瞳の色(ハニーブラウン×オリーブグリーン)は、非常に機能的で気に入っておりますので」
「は? 機、機能的……!?」
思わぬ返答に、令嬢が眉をひそめる。
「ええ。実家の裏山で『食材(仕入れ)』を探す際、このオリーブ色の瞳と茶色い髪は、草木や土の風景に見事に溶け込む『保護色』となりますの。
派手な銀色や真青なリボンなど身につけていては、獲物に一瞬で察知され、逃げられてしまいますから」
「獲……っ!? な、なにを言っているのあなた! ギルバート様への愛の話をしていますのよ!?」
「それに」
私は令嬢の言葉を爽やかにスルーし、自分が手にしているバケツと床を指差した。
「王宮の床磨きにおきましても、派手な装飾品は落として床を傷つける原因となります。
職務に邁進する身といたしましては、無駄な装飾を削ぎ落とし、現場の風景に溶け込むことこそが最高の嗜みと考えております。それでは、失礼いたします」
「な、なんなのよあの侍女はーーっ!?」
背後で聞こえるキーキー声を心地よいBGM代わりに聞き流しながら、私はバケツを持って次の掃除エリアへと颯爽と歩き出した。
(ふう、今日も床がピカピカになって気持ちがいいわ。
青だの銀だの言っている暇があったら、市場のタイムセールで『緑黄色野菜』の色でもチェックしたほうがよっぽど建設的なのに)
――この時、エルザはまだ知る由もなかった。
サロンの曲がり角の影で、自分と同じ「銀と青」で身を固めた群れに辟易していたギルバート隊長が、そのやり取りを一部始終見ており、
(……素晴らしい。自分の仕事に誇りを持ち、媚びない強い意志……そしてあの完璧な保護色……!野戦の際には最高の装備となるに違いない。……よし、次は我が隊の屋外警備の際の制服としても採用を検討しよう)
と、瞳をサファイアのように輝かせて激しく感動していたということを。




