#2/此処は何処、貴方は誰。
沙耶が目の前にいる。信じられない現実だ。沙耶はもう死んだ、そのことを透は誰よりも理解していたはずだ。
「どうしたの?透、そんな目を丸くして…」
驚きを隠せない透に対して、沙耶は何を驚いているのだろうと言わんばかりの表情の浮かべていた。
透の頬に一滴、涙が流れた。驚き、丸くなった目から静かに流れた。顔が強張ったりもしていない。表情からは力が抜け落ちている。
「沙耶…沙耶…!!会えて、会えてよかった!どうしたんだよ。どうしていなくなったりしたんだよ…本当は生きていたのか?よかったぁ。」
透は沙耶に駆け寄り、手で肩を掴み勢いよく口を動かす。”実は生きていた。”というあまりに現実味のない話。
現実主義な透がそんなことを言うほど、沙耶の死は信じたくないものだったのだろう。
受け入れがたい事実と受け入れたい現実があった。
「透?一旦、落ち着いて。ね?」
沙耶は肩を掴み歓喜する透を抑えるように声をかけた。透は、はっとして肩から手を離した。
「ごめん。ちょっと会えてうれしくて……肩、痛くない?」
無意識に勢い付いてしまった自分を恥ずかしがるように視線を沙耶から外しながらそう言った。
———これでいい。沙耶は本当は生きていた、これでいい。
透はそう、自分に言い聞かせていた。
「大丈夫。私も本当に、会えてうれしいよ!」
「うん。でもなんで————。」
パンッ
電気のスイッチ音が会場へ響いた。透が沙耶へ喋っていると電気がいきなりすべて消え、話が止まってしまった。
もう一度、先ほどより小さい電気のスイッチ音が響き、スポットライトのようなものが会場の一部を照らした。そこは会場の中心、少しだけ床が丸く上がっており小さなステージのようになっている。
そこに立っていたのは透も知っている男性。赤橙の髪、マスカレードマスクをつけ、気品漂う黒い燕尾服——ベルジットだ。
ベルジットの前にある立てられたマイクが、会場全体に声を響かせる。
「皆さん!こんばんは。皆さんご存じの通り、ベルジットでございます。」
”皆さんご存じの通り”という言い方からして、この会場内でベルジットは見知った顔なのだろう。
嫌でも耳に入ってくるような通った声は、透を最初に案内した時と相変わらずだ。
「さぁさぁさぁ、さぁ!皆さんお待たせ致しました。遊戯の始まりです!」
ベルジットがそう宣言すると、会場の皆が手を叩いたり歓声を上げたりして盛り上がりを見せた。
「皆さん、規則をお話いたします。まず、今回は勝ち上がり戦。最初はこちらで決めたグループで決められたゲームをし、グループ内での1位、2位が次へと進めます。グループは色分け、赤・青・緑・黄・紫の5グループです。皆さんお持ちのブレスレットが自分の分けられたグループの色に光ります。」
「ブレスレット……?」
透はそのような特別な仕様のブレスレットは持っていないので、疑問を小さな声でこぼした。沙耶の腕を見ると、銀色の輪のブレスレットをつけていた。他の参加者も全員付けていて、付けていないのは透だけのようだ。
自分だけ持たぬブレスレットが内容に出てきて困惑している透に気付いたベルジットが口を動かした。
「あぁ、透くんには渡していませんでしたね。後でお渡しいたします。」
透を見て、透に体を向けて、透に個人的に話しかけるような声量で。でもベルジットのいるステージと透とは距離があり、間には他参加者の歓声があり邪魔をする。ベルジットの口元に立てられたマイクが、ベルジットの声を透に届ける唯一の助けになっていた。
「グループごとに用意されたゲームは違います。でもそれぞれのグループに進行役となる運営側の者を置いておくため、わからない規則はどんどん聞いてくださいね!そうそう、グループごと部屋は準備されております。色の看板がついておりますのでその部屋に」
ベルジットはマイクの電源を切り、息を吸う。
「さぁ、遊戯が始まります!!是非、ご健闘を!」
マイクを通さぬそのままの声なのに、会場全体に響き渡った。すごい声量だ。
そのベルジットの開幕の宣言とともに歓声も上がった。みんなは腕を上げ、手を鳴らし盛り上がっている。
先ほどまで銀色だけだった参加者の身につけたブレスレットが、色とりどりに光始めた。赤・青・黄・緑・紫、チーム分けの色だろう。
透が沙耶のブレスレットを横目で見ると青色だった。沙耶は青色のグループと軽く心に留めておいた。
そして、ベルジットの立つステージだけを照らしていたスポットライトは消え、普通の照明が会場全体を照らした。
ベルジットは小さなステージから降り、透に近づいていく。
「これ、渡し忘れていてすみません。ブレスレットです。」
ベルジットが差し出したのは皆が所持しているものと同じブレスレットだ。既に青く光っている。
「どうも。」
「では初ゲーム、ご健闘をお祈りしています。」
「それなりに、頑張ります。」
ベルジットの丁寧口調のあいさつに透は途切れ途切れのぎこちない返事をした。どこかに歩き、ベルジットは姿を消した。きっと運営の仕事もあるから透と長々と話す時間もないのだろう。
透は俯きながらブレスレットを手首にはめた。その時、制服のワイシャツを軽く引っ張られる。沙耶だった。
透と比べて小さな身長は親しみを覚える。
「透も青グループ?一緒だね!さぁ、一緒に移動しましょう。」
「…うん。」
今、透を引っ張っているのは沙耶だ。白菊 沙耶。間違いない。
透は死んだはずの幼馴染と遊戯をする部屋へ向かっている。




