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君の笑顔が消えた世界で、夏だけが騒がしい。  作者: 伏見 こよみ
【第一章】君がいない夏が始まった。
2/3

#1/君とはもうさようなら。

———意味の感じない一日が始まった。

 透が学校へ行く足取りは重かった。当たり前だ。

 透には小さい頃から一緒にいる大切な幼馴染がいた。白菊 沙耶(シロギク サヤ)という明るく元気で、子供っぽい幼い笑顔を浮かべるような子だ。

 一緒にいて楽しい。透も関わっていてそう思える子だった。


 * * *


 学校ではいつも通り、朝のショートホームルームが始まる。みんな半袖ワイシャツ。ドロドロとした蒸し暑い夏の日だ。

 透は墨をかけたかのように、黒い髪を目にかかったままで俯いている。透には人が寄らぬまま時間が過ぎ、チャイムが学校中へ響いた。

 それと同時に、入室してきた担任の先生は出席確認を始める。次々に呼ばれていく名前。「はい。」という短い返事が続いていた。

柳本 透(ヤナギモト トオル)さん。」

「はい。」

薄い黒い返事をした。

 そのまま出席確認は進み、朝のショートホームルームも終わり、授業も進んでいった。

 そして、特に意味も感じぬまま時間が過ぎ、帰りの時間となった。6時間目が体育だったため、疲れが続いており、夏の暑さだけでハァハァと息を吐く。息苦しく感じる。エアコンの運ぶ冷たい風だけが、唯一の助け舟のように感じた。でもずっと自分に当たっているわけじゃない。

 「さようなら。」

帰りの号令をして一斉に人が動く。帰る人の群れに飲まれて、透はそのまま帰路を進んだ。

 昇降口、校門を出て、なにもない道をずっと真っ直ぐ進む。踏切で電車が通り過ぎるのを待ち、通り過ぎたらゆっくり再び歩き始めた。

 何分か歩いた頃、商店街まで着いた。この歩道を直進する。やはりどれだけ時間が経っても立ち直ることはできない。

 俯きながら歩いていると視界がグラッと揺れた。足がもつれて転んでしまうな、と自覚した。

———倒れた先は車道だった。

 車の明るいライトが目の前まで近づいてくるのがわかる。眩しいなと思う。諦めかけていた。沙耶のいなくなった世界に今、意味など感じてはいない。ここで別に死んだって構わない。

 そう透は思った。

 そのまま視界は黒い暗がりに包まれた。


 * * *


 どのくらい経っただろうか。瞼をゆっくりと持ち上げる。車道に倒れて、車に惹かれそうになって…そこからの記憶がない。

 でも目の前は、車道でも病室でもない。レッドカーペットの派手な床。同じような紅色の壁。一定間隔に均等に並べられたライト。

 「カジノみたい…だな。」

 ドラマなどで見る。賭け事をしていそうな所。先には大きな扉があり中の様子はわからない。透はここがどこなのかわからず、周りをぐるぐると見渡していた。

 目の前には品位の漂う立ち姿。赤橙の刈り上げられたボリューム感のあるパーマがかかった髪。オニキスのような黒色の燕尾服。紅色で黄色の縁のついたマスカレードマスクをつけている。

 「ようこそお出でいただきました!」

嫌でも耳に潜り込んでくるような通った声で両手を広げた。歓迎しているのだろう。

(わたくし)、此処の司会人でございます。ベルジットと申します。どうぞよろしく。」

甲高い声とともに、男性的な低く響く声が終始見える。透はベルジットの差し出したてを恐る恐る掴み握手をする。

「柳本 透です。此処は…?」

 透は此処の正体をベルジットに聞いた。目が覚めたらいきなり此処にいたのだ。不思議に決まっている。

「まぁまぁそんなことは中には入ればすぐわかりますよ。」

ベルジットは握手した手をそのまま握って、透を引っ張ってドアまで連れて行った。

「さっ、入ってください。」

「…はい。」

 透自身に危害は加えてこないし、悪い人のではないのだろうと信じるしかなかった。少なくとも見知らぬ場所と人。安全ではなかった。

 身長の倍くらいある大きな扉。最初は片手で開こうとしたが扉が重いため両手で押した。

 扉の隙間から中のざわめきが、海の波のように押し寄せてきた。

———同じ台に数人集まって遊戯(ゲーム)をしている。

予想通り賭け事をするような広々とした会場が広がっていた。

 「貴方は今夜開催される遊戯の参加者。もう貴方以外揃っておりますよ。」

「遊戯の参加者…!?そんなの知らない。」

「そぉですね、確か!貴方と同じように高校生くらいの参加者、いましたね。ほらあそこに。」

 ベルジットは透の言葉を無視し、自分の話題を進めた。ベルジットが指さした先には、白いワンピースを着た高校生の女の子が立っていた。


 太陽のような笑顔。夏の涼しさまでも感じさせるような声色。向日葵の黄色を垂らしたような美しい瞳。明るく光を放つように見える、茶髪。


「沙耶…?沙耶…なのか!?」


どう見ても沙耶だった。長年見てきた顔を、姿を見間違うはずなどない。


 「あれっ、透!…久しぶりっ?」


 弾むような君の声。懐かしい…君に会えなくなってからそこまで経っていないはずなのに。

どうして沙耶はそこにいるのか。どうして僕は沙耶と再開できたのか…そしてこの会場は一体何なんだろう。

そんな疑問も忘れるくらい、僕は沙耶に再開できて嬉しかった。

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