解呪
いよいよイブルが……!!
「……ここ、は……?」
ネスティはそう呟くと周囲を見渡した。
だが、いくら見てもそこが何処なのか、何なのか皆目見当はつかない。
上も下も、右も左も分からない。
見えるのは闇、闇、闇―――――世界は黒で覆われていた。
「私……は、そうだ。早く、戻らないと……」
自分の最後の記憶がアーシャを庇った所で止まっているネスティ。
それを思い出した彼女は、ここが自身の夢の中だと気付く。
自分はまだ現実世界では意識を失っていて、これが無意識下で放たれている世界であると知覚する。
一刻も早く現実への帰還を切に願うネスティ。
だが、どうやって戻れるのか。それが彼女自身分からない。
無意識の世界で今彼女は意識がある……だが現実世界では意識が無い。
どうやって干渉すればよいのか。
さながら夢から目覚めたいと考えるようなものであるが、実際の所時を経て意識が現実に戻るまで待つしかない。
しかし、そんな悠長な暇は無い。
一刻も早く戻らねば。
間違いなく現実世界では魔剣に支配されたニルトに劣勢を強いられているとネスティは確信していた。
『はははははは……来たか。小娘』
「っ!?」
その時、突如としてネスティの耳に聞き慣れない声が響く。
「誰ですか?」
『気にするな……ただの幽霊のようなものだ』
「幽……霊」
キョロキョロと周囲を見渡すネスティ。
だが、声は四方八方から聞こえており、何処に居るか分からない。
『俺に実体は無い。お前が今耳にしている声だけだ』
ネスティの行動の意味を察したのだろう。
幽霊と自分を称した何かはそう答えた。
「あなたが幽霊として……一体何故、私の意識に入り込んでいるんですか?」
『それも気にする必要は無い。俺はただ、目的を果たしに来ただけだ』
「目的……?」
ネスティは訝し気な表情を作る。
『今、お前のご主人様が戦っている』
「イブル様が……!?」
幽霊の言葉に、堪らずネスティは息を呑み込んだ。
『だが戦況は変わらない。未だ、劣勢だ』
「そんな……」
イブル様のお力を以てしても……勝てないなんて……!!
『そこでだ。俺はその助力に来た……ネスティ、お前に力を与える』
「力……?」
『あぁ、それがあれば……今場を荒らしているあの魔剣を討伐出来る』
「本当ですか!?」
その言葉は、ネスティにとってあまりにも朗報だった。
魔剣の討伐、すなわちイブルを助ける事に繋がるのだ。無理も無い。
『ただ、お前には覚悟を決めてもらう』
「覚悟?」
『お前のご主人様……奴の手を、決して離すな。その意思があるのなら、力を渡す』
「……」
幽霊の言葉に、ネスティは一瞬無言になる。
「……何を、言っているのか。意味がよく分かりません」
『……そうか。なら、この力を渡す事は……』
少しばかり残念そうに幽霊は言葉を漏らす。
しかし、ネスティの返答は……幽霊の予測を見事に打ち砕く物だった。
「覚悟なら、十年前のあの日からとうにしてあります。あの日から……私は自分の生涯を以てイブル様に仕えると……」
さも当然のように答えるネスティ。
『……』
その回答に幽霊は沈黙するが、数秒後すぐに笑い出した。
『くく、はははははは!! そうかそうか……!! あぁそうなのか……!! なら、話は早い!!』
幽霊がそう言うと、ネスティの目の前に手の平大の黒い闇の塊が現れる。
『それを掴んで、体内に取り込め』
「……」
特に怪しむ事無く、ネスティはソレを自身の胸部から体内に取り込む。
いくら幽霊という存在が怪しかろうと、ソレが提示してきた力がまやかしであろうと、そんな事は今の彼女には関係がない。
今の彼女にあるのは、自分の主を救いたい……ただその一心だけだ。
『行ってこい。……よ』
「……え?」
幽霊が何か聞き取れない言葉を発したかと思うと、ネスティの周辺を覆っていた黒き空間が崩壊を始める。
それはまさしく、現実世界への帰還を示していた。
◇
「ネスティさん!! ネスティさん!!」
「ん……?」
重い瞼を開けるネスティ。
すると自分の意識を覚醒させるように、聞き慣れた声が耳に入る。
「っ!!」
現実へ戻った事を認識したネスティはすぐさま起き上がると、凄まじい轟音を鳴らしながら行われているイブルと魔剣の戦闘を目撃する。
「ネスティさん!! まだ意識が戻ったばかりです!! そんな急に動いちゃ……!!」
「お気遣いありがとうございます。ですが、大丈夫です」
アーシャにそう言うと、ネスティは一歩踏み出し、大声を上げた。
「イブル様!!!」
「っ!?」
ネスティの声に反応したイブルは、跳躍し魔剣から無理やり距離を取る。
「……」
「……」
イブルはネスティを見る。
そしてネスティもまた、彼を見る。
十年の付き合い、主と部下として育まれた彼らの意思疎通はそれだけで十分だった。
「テディ!! ミュー!! エヴァ!! 十数秒で良い、時間を稼げ!!」
「は、はぁ!? 何言って……!!」
「頼む!!」
「っ!?」
切羽詰まった様子のイブルに、テディは目を見開く。
あの傲慢で自信家の彼がそんな風に頼みを言われるのは、勿論初めての事だった。
「……あぁもう……!! 十数秒だな!! 絶対だぞ!!」
「了~解!」
「……(コクリ)」
イブルの頼みを、三人は了承する。
◇
「ハハハハハハハハ!!! バカガ!! イマサラナニガデキル!! オマエトオレノサハレキゼンダ!! ソレニ、ソンナアシドメガオレニツウジルカァ!!!」
魔剣は変わらず標的をイブルに定め斬り掛かる。
「『武器創造』!!」
テディは自分の周辺に数十本の短剣を作り出す。
「使わないと思ってたけど……!! いくぜ、この一か月の成果!! 『武器射出』!!」
彼がそう唱えると、浮遊していた数十本の短剣が一斉に魔剣に向かい放たれる。
『武器射出』、生産職のテディが編み出した武器の技能に頼らない攻撃スキルだ。
その名の通り……生産した武器を対象に射出するそのスキルは、単純だがかなりの攻撃力を秘めている。
「コシャク!!」
放たれた武器の雨に魔剣はニルトの体を用いて顔を歪ませる。
「『剣聖』!! これを!!」
「……!!」
テディは即興で作り上げた剣をエヴァに投げつけた。
「ありがとう」
それを受け取ったエヴァは短くそう言って魔剣へと向き直る。
「ジャマダァ!!」
「っと! 危ないなぁ!!」
テディの『武器放出』が終わった直後、今度はミューが魔剣との距離を詰めた。
ナンダ!! ナゼアタラナイ!!! オレノコウゲキガ……!!
ミューのスキル、『第六感』。
これは目的に対して並々ならぬ直感が働くスキルだ。
何かを見つけたければその方向を、今回のような戦闘ならば避けるべき方向を示してくれる。
彼女は今思考を無くし、反射的に敵の攻撃を回避していた。
思慮の無い動き、どんなに戦っていても頭のどこかでは働かせている思考というものが彼女には存在していない。
「あえて」の不規則な動きならば対処できる。
しかし、その「あえて」が存在しない無秩序で不規則な動きは魔剣にとって想定外と予測外の連続だった。
「よっ! ほっ!!」
「チョコマカトォ!! コノムシケラガァァァァァ!!!」
「えへへ。私にばっかり集中してたら駄目だよ?」
「ッ!?」
「……」
ミューが体を捻り攻撃を避けると、その死角からテディの創った剣を持つエヴァが現れる。
「イイカゲンニィ……!! シロォォォォォォォォォ!!!」
「きゃああああああああああ!!!」
「……!!」
魔剣は体中から闇の瘴気を放ち、ミューとエヴァを吹き飛ばした。
「ワズラワシイゴミドモガ……!!」
――――ズシン
「ッ!?」
瞬間、魔剣の全身に鳥肌が立ち、頬からは冷や汗が流れ出る。
ナンダ……、コノカンカクハ……。
ゆっくりと、魔剣はソレがいる方向に目をやった。
「……ガハハ」
ソレは小さく笑う。
「ハ、ハァ……ハァ……ハァ……!!」
たちまち、魔剣の呼吸は荒くなる。
先程まで敵と対峙した時にはあった『悦楽』という感情は既に消え去る。
魔剣はこの感情の正体を理解した。
これが――――恐怖であると。
「ガハ……ガハハハ……ガハハハハハハハハハハハハ!!!!」
響き渡る声で、イブルは笑う。
「あぁ……!! 久しぶりだ……!!! 滾る……!! 滾るぞ……!!!」
「ナンダ……!! ナニヲ、ナニヲシタァァァァァァ!!!???」
明らかに先程よりもマナの波動や発する圧が膨大になったイブルに対し、魔剣は堪らず叫んだ。
「狼狽えるな。ただ、少し……俺の力が戻っただけの事よ!!」
「イブル様……」
そんな彼の後ろにいたネスティは、主の名を呟く。
「ネスティ……、後は任せろ。お前の主の強さ、そこでとくと見ているが良い!」
「……はい」
愛する眼を向け、ネスティは短く答えた。
「さて、と。始めるか……「魔剣」。お前の100パーセントと、俺の10パーセント……どちらが強いか。決めようでは無いか……!!!」
悪鬼のような笑みを浮かべ、イブルは拳を握りしめる。
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