初魔法~そしてチート発覚
「よーし!修行を始めるわよー!」
「はーい。」
先日の水晶破壊事件から三日後。いよいよ魔法の修行を始める日が来た。
俺は今、セシルが用意してくれた服の上から、ローブを羽織るという格好で奥様と一緒に庭にいる。あ、もちろんセシルもいるぞ。ちょっと離れた木の傍にな。
「じゃあ今日は初日ですし、レンちゃんの得意属性を調べることから始めましょうか。レンちゃんぐらいの魔力量なら得意属性の初級魔法はできると思いますし。」
奥様は数メートル先にある的を指してそう言われた。俺は的を見ながら顔を引き攣らせる。
いや、無理だから。最初から魔法を使えなんて無茶ぶりすぎるだろ!
「あ、あのー奥様。魔法を使うって…。」
「そうね。それを先に説明しなきゃね。まず、魔法を使うときには詠唱というものしなきゃいけないの。セシルが渡した本は今持っているかしら?そこに初級魔法の詠唱は乗ってるはずだから、手の平を的に向けて本を見ながら詠唱してみなさい。」
「………はい。」
俺が言いたかった事とは180度ズレた解釈をされたが、魔法の使い方が思ったより簡単だったので俺は一度挑戦してみる事にした。
とはいえ、全属性の初級魔法を全部打つっていっても、どれを始めにすれば良いのやら。うーん、………よし!やっぱりここは男の憧れとして攻撃魔法を使ってみたいし、火がいいよな。火にしよう!
そうと決まれば即行動!えーと、火属性初級魔法は、ファイアボール(対象に向けて火の球を放つ)・ファイアアロー(対象に向けて火の矢を放つ)の二つか。なら、定番中の定番の方をやるか。
「奥様、やっても宜しいでしょうか?」
「ええ、気をつけてね。」
「はーい!」
俺は元気な声で返事をして、的に向き直る。
奥様からの許可ももらったし、よし!やるか!
『炎の精霊よ。我が魔力を糧とし、我に恵みを与え給え。炎よ集え!ファイアボール!』
――――ドーン!
・・・おい、嘘だろ。誰か嘘だと言ってくれ。…何故、何故壁に穴が開く!?これが噂のチートとなのか!?それなら今は要らなかった!!
「あらまぁ。」
びくぅ!
奥様の声に俺は大きく身を竦ませた。
幾ら奥様でも壁に穴を開けたら怒るだろう。そう、当たり前だ。言い訳はしない。ただ、一つ言わせてくれ。一体何処の世界に、魔法初心者のガキが人様の家に穴を開けるんだ!?そんなガキを俺以外に知ってるなら是非紹介してくれ!
「今の音はなんだ!?いったいどうしたんだ!?」
「奥様!今の音は一体!?ご怪我はございませんでしょうか?」
俺が現実逃避している間にも、音に気付いた使用人達がこっちに近づいて来る。
「レン!母上!今の音は何ですか!?」
ついでにジーンも来た。
げっ!ジーン!来るの早いよ!まだ怒られる覚悟出来てないんだけど!?
「こ、これは………。」
ジーンも壁に空いた穴に気づいたらしい。驚いて固まっている。
俺はそっとジーンから視線をずらす。
幸い、これが俺の仕業だという事はまだジーンにバレていない。気づかれる前にいっそのこと此処から逃げるか。
「これはレンちゃんがしたのよ!火属性初級魔法、しかもこの年齢でこの威力よ!?凄いわよね!これは将来宮廷魔導師にだってなれるわ!」
奥様が興奮気味にこの惨状の原因をジーンへ報告する。
俺は冷や汗を流しながら、チラリとジーンを盗み見る。あ、目があった。バレた。
「レン!」
「はい!ごめんなさい!」
俺はジーンの怒気を感じ取り、反射的に謝罪を口にする。
「これの説明を。」
「はい。」
怒っているジーンをこれ以上刺激しないように大人しく頷きながらも、それは小さい子供に求めることではないだろうと言う言葉を俺はギリギリで飲み込んだ。
「ふふふ。ジーン、それは私から説明します。こんな小さな子供に説明を求めては駄目ですわ。」
ジーンに追い詰められている俺に、奥様が助け舟を出してくださった。
やはり皆考えることは同じらしい。
「わかりました。では、説明を。」
「ええ。」
奥様は、ジーンの言葉に頷くと事の経緯を話し始めた。
「…………はぁ、そういう事ですか。」
全てを聞き終えたジーンは深いため息を吐きながらそう呟いた。
俺はそんなジーンの様子をそろそろと伺う。奥様が経緯を話している間、俺は緊張でずっとドキドキしっぱなしだったのだ。
「レン。」
「…………はい。」
俺は怒られる覚悟を決めて、ジーンとしっかり目を合わせながら返事を返す。
「今回は許す。話を聞く限り、ここで魔法の修行を始めた母上の責任であるようだし。ただ、片付けは手伝うこと。いいな?」
「はい!」
どうやら今回は不問としてくれるらしい。助かった。やっぱり俺の精神年齢を考えると怒られるのは精神的ダメージが大きいからな。
「母上、取り敢えず今は屋敷へ戻りましょう。父上に説明しなければいけません。」
「ええ、そうね。レンちゃん、ここの片付けが終わったらちゃんと部屋に戻りなさい。セシル、レンちゃんの身支度が整い次第直ぐに食堂へ連れてくるように。」
ジーン、俺、セシルにそれぞれ言葉をかけたあと、奥様は屋敷へ向かって歩き始めた。
その後をジーンもついていく。最後に俺の頭をグシャグシャとかきまぜて。
(励ましのつもりか。変な所で優しいよなジーンは。)
俺は苦笑を浮かべると、二人に頭を下げてジーンが言ったとおりに使用人達の片付けの輪へと加わったのだった。




